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Performing Arts Network Japan
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Artist Interview
Questioning the Body at its Limits What is this world of Ikuyo Kuroda?
身体の極限に問う 黒田育世の世界とは?
SHOKU
BATIK『SHOKU』
撮影:斉藤功一郎
花は流れて時は固まる
BATIK『花は流れて時は固まる』
撮影:塚田洋一
──『SIDE-B』の後の作品が『SHOKU』ですね。
『SHOKU』はまずソロバージョンを韓国でやりました。踊った後、カーテンコールの時に拍手が起きなくて、血の気が引きました(笑)。儒教の国だから、セクシャルに取られがちなことを女性がやることに抵抗があるのではないかと、現地の方が話をされていましたが。
その後、グループバージョンを森下スタジオでやって、翌年、6人でのミドルバージョンを横浜で、7人のフルバージョンをシアタートラムでやりました。『SIDE-B』と核の部分は違いますが、両方ともすごく皮膚感覚と、身体に対する執着があると思います。

──精神分析しろとは言いませんが、例えば、その皮膚感覚のような身体に対する執着を舞台上でストレートに表現するというのは、育世さんの中にそれをさせる何かがあると思うんですね。だいたい自分のパンツの中に手を突っ込む作品なんてつくる人はいないですよ(笑)。
チラシの写真にまで載ってしまって(笑)。質問の答えからはずれてしまうかもしれませんが、作品をつくるというのは、本当にやらなきゃ気が済まないぐらいの衝動がないとできないことだと思います。何でわざわざ人にそれを見せるのかを考えた時、もし私が持っているだけで死んでしまったら、これだけの衝動が何もなかったことになってしまう……。いくらなんでもそれはできないという衝動を、私は作品として提示している気がします。その衝動を人が受け取りやすい形にして提示するのは、どこか本末転倒というか、それならやる必要がない。だからありのままに出しちゃうんですよね。
この間、Noism05に振り付けた時にそこのダンサーと話をしていて、「育世ちゃんは踊りで何でも解決しようとする人だね」と言われたんです。確かに、ダンスでああいう生々しさというのを普通は出さないのかもしれない。私はダンスで何でもやっちゃう。私がやりたいダンスにはすべてがある。何にもないけどすべてがあるという感じ。そういう生々しさにこそすべてがあると思います。

──ダンスを通してすべてを、自分のすべてを、表現したいものをすべて語ってしまうということですか?
最近は、「ダンスを通して」というのも何か違うような気がしてきています。それではダンスが手段になってしまうけど、私にとってダンスはおそらく主体なんです。だから、私がしているダンスには生々しさが出てくる……。なんだか抽象的ですね。つまり、自分がダンスそのものである、という感じになれれば幸せなんです。

──『SHOKU』は皮膚に対する感覚と言いましたけど、それと同時に自分を痛めつけたり、あるいは他のダンサーの頭をひっぱたいたりするような動作が続いているところがありました。そういうふうに、フェティッシュなものばかりでなく、いたぶったりいたぶられたりすることによって、自分の身体を確かめるような要素はどこからきているのですか?
本当の本物というのは追い込まれた状況でこそ出てくると思っています。そういう状況に身体を置かないと本物が出てこないというのを、『SIDE-B』や『SHOKU』をやっていく中でつかんでいった。例えば、ずっと倒れ続けるという単純作業で身体が取り繕えない状態になってから、初めてちょっとキラッとするものが出てくる。つまり、表現して、演技して、という嘘は必要ないんです。
稽古もそういう感じで運んでいきます。わかりやすい例が「BATIKトライアル」というスタジオ・パフォーマンスの企画です。メンバーが各々10分弱ぐらいの作品をつくってみんなで見せ合い、意見を言い合って作品をつくっていきます。あるダンサーが提示した作品を見た時、健康な身体で見せられても彼女がやりたいことが伝わってこなかったので、私は「ちょっとすみませんが、育世に付き合ってください。私が手を叩くまでずっと稽古場をぐるぐる走ってください」と言った。みんなも「何が起こるの?」って感じでしたが、ひたすら走ってもらって息がかなり荒くなってから手を叩き、その後もう1回その作品を踊ってもらいました。そうしたら、すごく良くなったんです。それが良かったということは、そこにもっていくために、どう構成していけばいいのかが見えてくるはずだとダンサーには伝えました。
……という具合に、稽古でも「もう1回、もう1回」ってずっと繰り返してもらったりして、だいたい止めさせない(笑)。本番の時は直前にダンサーを走らせることはできませんから、普段の稽古の中で、こういう身心の状態にあるダンスを体得してもらう。取り繕ってもダメなんだ、ということをわかってもらう。実際は、ニコニコしながら「もう1回」って言うだけですけど(笑)。でもダンサーたちも「何クソ」って思うみたい。育世にあれをやられるとコノヤロウって思うんですって(笑)。

──『SIDE-B』『SHOKU』の次ぎが『アウラ』という20分の小品です。水瓶を挟んで二人の女性が登場しますが、二人が別々のようでもあり、一人の女性の分身のようでもある。
『アウラ』は2週間ぐらいでつくりました。おっしゃるように、相手方の高部尚子さんは表側の人、私は背面の人という感じで一種のコントラストになっています。あの作品は『花は流れて時は固まる』と同じ、時間のこと・今のこと、というのをテキストにしていて、「水」「花」「鈴」「白」「青」というマテリアルも全部同じです。

──『花は流れて時は固まる』は、今までの作品の中で一番の大作だと思います。よくここまでチャレンジしたなというぐらいスケールの大きい、しかも細部に至るまで難しいつくり方をしていました。花と水と身体があって、そこにある種の、シャーマニズム的儀礼のような、何かを呼び起こすようなものを感じました。
あの作品は本当に大変でした……今考えても涙が出てきます(笑)。3m近い高さからダンサーが飛び降りる最後のシーンをつくることに追われて、他には何にも出来なかった。
あの作品の出発点は私の子どもの時の感覚です。私は、子どもの時にものすごく力んでいた記憶があるんですが、それが半端じゃなくて、気を失う直前までいってた。その時に、「時が止まる感覚」というのがあったんです。チクタクと刻む時がパーンって切れて、そこには時間がない状態があった。今でもそれを傷として持っている気がします。それをそのまま作品にしたのが『花は流れて時は固まる』です。
パーンと叩き切られて、時間の流れがなくなって、叩き切られた断面が忽然と表れてむき出しになったというか。「あ、断面」みたいな。その時間を叩き切るために何をしなければいけないかと考えた時に、まず思い浮かんだのが「繰り返し」だった。飛び降りることを繰り返すという作業だったんです。

──ダンサーはアクロバティックなサーカス芸人ではないし、3m近い高さから全員を飛び降りさせ続けるというのはなかなか過酷なことでした。その「繰り返す」というのは、自分の身体を追い込んでゆくことでもありますね。
そうです。それでどんどんむき出しになっていく。本当は延々と落ち続ける、という瞬間の繰り返しをやっていて、落ち続けることで「今」が忽然と表れる。過去に対する執着や、未来に対する期待や、そういうことが一切はぎ取られた状態で「今」が忽然と表れるという状態をつくるには、飛び降り続けるしかなかった。何かをし続けるということが、時間を叩き切ることだったんです。すごく逆説的だなと思うんですけど。
当たり前ですが、ダンサーは怖がりました。それでまず私が飛び降りて危険度をチェックをしながら舞台監督と高さを調整していきました。最後はみんなできるようになったんですが、あの時は本当の意味でダンサーを追い込んでしまいました。飛び降りることだけじゃなく、かなり厳しくしてしまったこともありました。

──舞台前面に水を張って花をたくさん使っていました。片やああいう無機的な装置をつくってダンサーをバンバン落としていた。水や花からは自ずと生命や自然を感じます。それらは育世さんの中でどういう繋がりがあるのですか。
これも『アウラ』から引き継いでいるんですが、ポロポロポロって出てきた時に、花と水と白と青の絵が鮮明にあったんです。それを後から自分で分析していろいろ考えることもできますが、あまり意味がないような気がします。『SHOKU』のフリフリパンツとか、『SIDE-B』で使った幕とかが、社会と自分との隔たりだとか、後から連想はできますが、あんまりたいしたことなくて。とにかく一番信用できるのはその時の直感、それがすべてです。自分の直感が一番尊い。

──その直感は幼少時の記憶と何か関係がありますか? 例えば、花が好きだったとか単純なことでも。
これだなっていうのは特に思い当たらないですが、色に関しては、白よりさらに透明なのが青だと思っていました。空や海の感じからきてるんだと思いますが、何もない状態、遙かなイメージが青にはある。それで、衣裳や照明も白から青に変わっていって、それが全部はぎ取られて、本当に忽然と断面が出てくる。
花というのは、自分の身体に付着している過去に対する思い入れとか、未来に対する期待とか、チクタク流れる日常に必ずあるもの、必ず存在しているものの象徴、という感じです。それをはぎ取られた状態というのが、先に言った断面であると。
 
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