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Artist Interview
A look into the theater craft of Ai Nagai   A leader in the genre of social comedy
社会派コメディの第一人者 永井愛の作劇術に迫る
永井愛
*戦後生活史三部作
第3部『僕の東京日記』(1996年)

70年安保の学生運動に乗り遅れたお坊ちゃん学生、原田満男の下宿屋物語。

©Nitosha
1971年の東京。大学生の原田満男は東京に実家があるのに、あえて四畳半一間のアパートに下宿した。あの騒然たる学園紛争には参加しきれなかったが、もうノホホンと父母の保護下にはいられなくなったのだ。バイトで自活し、せめて「おぼっちゃん」というイメージだけでも払拭したかった。だが、このアパートで満男はニューレフトの活動家井出の同棲相手、のり子と親しくなり、爆弾闘争に巻き込まれることになる。一方で猫嫌いのサラリーマンと猫好き女のもめ事や、ラブ&ピースのコミューンを目指すヒッピーたちともかかわらざるを得ない。自立するどころか、満男の生活はますます混乱をきわめだした。
──永井さんは、「ごく普通の人々のごく普通の生活を書こうとすればするほど社会問題が入り込んでくる」と言われています。
社会問題を意識していなくても、例えば、介護をしなければならない母親がいれば、日本の医療制度や高齢者対策とその人の事情が絡んでくる。だから政治的な意識をもっているからそれが芝居の中にでてくるのではなく、社会的な存在である普通の人々の生活を描けばそこに自ずと社会問題がでてくる。人間を描こうとしたときにでてくる社会性、政治性はあえて排除せずにこれからも書いていきたいと思っています。

──戯曲を書くときにはかなり資料を調べるそうですね。
井上ひさしさんや斉藤憐さんに比べれば調べて書く作家とはとても言えないですが、引っかかったところについて調べて、その現実からたくさんヒントをもらって書くタイプだと思います。調べると必ず想像を超えた現実に突き当たりますからね。大の大人がこんなことをやってるのかと、笑えるような発見も多くある。そういうものを見つけたときに書きたくなります。
私の書く芝居はわかりやすく、スタイルとして目新しいものではありませんが、内容では毎回冒険し、発見のある芝居をやりたいと思っています。『歌わせたい男たち』でも「新しいこと」に挑戦したつもりです。

──永井さんの作品には魅力的な登場人物がたくさんでてきます。
例えば『歌わせたい男たち』の時には、校長先生は絶対に必要だし、反対派の先生、音楽の先生、また、推進派の先生も絶対必要という風に、題材を決めたときにどういう人物を出せばいいかおおよそ見当がつきます。それじゃあ舞台はどこにしようかと考えて、音楽室がいいのか、学校の廊下がいいのか、卒業式の式場がいいのか、案外、保健室がいいかも、とアイデアを詰めていく。
保健室に先生がいるためには体調が悪い人がいないとおかしいけど、それなら音楽の先生が緊張してということにしよう、その先生はきっと新任で元シャンソン歌手なんじゃないか……。なぜシャンソン歌手かと聞かれると困るんですが、ジャズシンガーでもないし、絶対に演歌歌手じゃない(笑)。
そうやりながら人物造形がおぼろげにできてくるんです。校長というのは何となくイメージしやすくて、多分、昔は組合運動をしていて反対派だったに違いないとか。推進派は昔だったら保守的な体育会系を想像しがちだけど、今なら新自由主義を標榜しているスマートな青年がいいかなとか。
それに合わせて配役を決めていくんですが、そこから先は、出演者の顔写真を壁にずらっと並べて貼ってそれを見ながら考えていきます。顔から出る情報って、作家の想像を超える場合が多いですから。「一見もの柔らかそうだけど実は頑固だ」とか、言葉で性格づけをすると、それだけにとらわれがちになってしまいますが、顔はもっとふんわりその人の宇宙を表している。そこから、いろんなヒントをもらうわけです。顔がないと書きにくいので(笑)、キャスティングが決まらないときには、自分の知り合いを思い浮かべながらあの人がこの役だったらとか勝手にイメージをふくらませています(笑)。

──2006年の新作の予定は決まっていますか?
新国立劇場で『やわらかい服を着て』という作品(5月22日〜6月11日)を作・演出します。これはNGOの事務所を舞台にした青春群像劇で、イラク戦争がはじまる前から現在までの、メンバーたちの活動の様子を描きます。
秋には二兎社の新作を世田谷パブリックシアターで公演します(9月30日〜10月15日)。小説家の樋口一葉を主人公にした作品で、まだ仮ですが「書く女」というタイトルです。一葉には、小説を書く上でのターニングポイントがいくつかありました。まず彼女はお金を稼ぐために書こうとし、次にお金のための文学に嫌気がさして、雑貨商で生活を支えながら真の文学を目指しますが、その商いにも失敗して再び筆一本の生活に戻ることになる。24歳で亡くなる前、代表作を何作も立て続けに発表した奇跡の14カ月と呼ばれる時期には青年文士たちが彼女の周りに集まりサロンのようになっていた。そういう、一葉の日常の変遷を「書く」という観点から描き出したいと思っています。恋愛が書くことにどう影響したのか、商いの経験が、また、遊郭の女の手紙の代筆をしたことが書くことにどう影響したのか。生きる、生活するということが書くことにどう影響したのか。「書く女」の一人として、今度は一葉を体験してみたいんです。
 
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