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Artist Interview
Inside the mind of Shigehiro Ide, a unique talent of the contemporary dance world
コンテンポラリーダンス界の異才 井手茂太の発想とは?

『IDEVIAN LIVE five「暗黙の了解〜後編〜」』
(2002年)   ©days

『関係者デラックス』(2004年) ©days

『迂回プリーズ』(2005年) ©days
──2002年にイギリスのダイバージョンズに振り付けた『Unspoken Agreement』(2002年1月)はさらにがらりと変わって、物語的なものや意味を排除して、ダンスに徹底している感じがしました。
ダイバージョンズはウェールズのカンパニーですが、そこが以前から外部から振付家を呼んでレパートリー作品をつくる取り組みを行っていました。ちょうど彼らが振付家を探している時に、日本のセゾン文化財団がある見本市でブースを出していて、そこでたまたま『不一致』のビデオを見たらしいんです。こいつは面白い、ということになり、最初はウェールズで踊らないかという話がありました。僕は振付家として活動していると伝えると、向こうのプロデューサーが「振付・演出でもウェルカムだ」ということになり、すぐに決まりました。
彼らには『暗黙の了解』を振り付けました。でも、イギリスではタイトルが英語で『Unspoken Agreement』となってしまい、なんだかしっくりこなかった。そのときは、後でこれを絶対日本でやってやる、と思っていました。なんでしょう、なぜかタイトルにはこだわりがあるんです。作品をつくるときは必ず先にタイトルがあります。僕は根っからの日本人ですが、例えば「ちょうちん」という平仮名を見ると、文字が動いているように見える。うねりが好きだし、語感や文字の形がなんだか動きに見えてくるんです。あとは響き。別にラリっているわけではないですよ(笑)。それで2002年4月に日本版として、『IDEVIAN LIVE five「暗黙の了解〜後編〜」』(東京・森下スタジオ)をやりました。

──ウェールズでは、全然違う環境の人たちに振り付けたわけですが、ソロやデュオの部分と、群舞とのズレやユニゾンがすごく巧かった。時間の流れの中で、空間をどう構成して、どのような変化をつけていくか、ということに関してはすごく神経が行き届いていますね。
それはよく言われます。細かい部分で注意しているところもあるんですが、あまり気にしていません。振付をすること自体早いんですよ。パっとできてしまう。それで、まずベースをつくってから、「あ、ここもうちょっと」などと付け足していったり、後にゴチャゴチャと手を入れたりすることはあります。
ダイバージョンズをやっていた頃には、お芝居の振付もやるようになっていて、役者さんに振り付けることに慣れてきていた時でした。逆に本物のダンサーを振り付けることに、最初すごく勇気がいりました。彼らは小さい頃からずっとトレーニングをしていますから、すごく踊ります。ちょっと休めというくらい動いています。それで、彼らに振り付けると、どうしても“踊り”にしてしまう。僕の振りに慣れていないのは当然ですが、なんでも踊りっぽくなってしまう。それがすごく嫌で、僕にとっては毎日が戦いでした。通訳は週に1度ほどしか来ませんでしたから、辞書を引きながら話をしました。
ウェールズでは最初、2001年の5月に1週間ほどワークショップを行い、それから12月〜1月にふたたび出向きました。12月に彼らなりのとらえ方で振り付けたものを見せてもらって、それからどんどん壊していくという作業をしました。それこそ作品のベースは2週間でできました。
最終的にはまあ僕なり綺麗になったとは思います。でも、能ではありませんが、僕は下に重心がくるのが好きなんです。でも西洋の人は腰が高くて重心が上にある。それがもう僕にとって落ち着かない感じで。彼らが踊ると良くも悪くもすごくダンシーな感じになる。あと、小さい動きがヘタだなと思いました。それはまあ環境もありますが、彼らはオーバーアクションに近い大きな動きに慣れているようです。もっとミニマルに動く、ということの意味が伝わりにくい。
僕は、日常的な「仕草」や人の「癖」などがたまに格好よく見える時があって、それが振付だと思っています。例えば、日本でウケるちょっとした仕草は、外国では通じないけれど、逆にイギリスやドイツでは「こういうシチュエーションではどういう動きなの?」と尋ねて、「ああ、それは日本と似ているね」というようなところからつくっていきます。
仕草といえば、僕は小さい時から人を見るのが好きでした。女の人が多い家庭だったというせいもありますし、ウチの家にはたくさん人が行き来していたので、なぜかいつも人の多いところにいたんです。本当は一人でぽつんとするのが好きだったりするんですけど。とにかく、人を見ると、なんだかその人の動きが見えてくる。背後霊のように動いている。そういうのってありません? 人間ウォッチングのような。
だから、まったく初対面の人でも、この人はこの動きが絶対面白いと思いながらイメージを全部つくってしまいます。ダンス学校時代に級長をやりましたし、今でいうコギャル系みたいな人たちを150人ぐらい仕切っていましたから、大人数に対応することにも慣れていました。

──なんだか、その不満足な部分が実現するようなかたちで出てきたのが『関係者デラックス』だと思います。すごく演劇的でした。
あれはそもそも、リノリウムを斜めに張りたかったんです。その前に、山口のYCAMでのワークショップをした際に、同じような舞台構造で一般の人を振り付けて踊る発表会をやりました。その時から、イデビアンの本公演で同形式のもっと密度の高いものをやりたいなと思っていました。
『関係者デラックス』という名前もあらかじめ決めていて、音楽はチェンバロなどのバロック音楽だとすごく強くなるだろうなと思っていたんです。バロック音楽をあれだけたくさん使ったのは初めてです。チェンバロはある意味陰険な感じがしますし。『4台のチェンバロのための協奏曲』が一番好きなんですが、よく調べてみたら3台、2台とだんだん少なくなってくる分、(曲の力が)強くなる気がしました。
この作品では、まず三角地帯で小さく動く、そしてそこから拡がっていく構成にしました。それと、みんながサザエさんのような家族だったらおかしいかなと。ユニフォームもちょっと昔っぽくして、ちょっと言えば港町の一般家庭ふうで、洋風かぶれでシャンデリアはあるが、畳の家に住んでいるような人たち。アメリカではなくて、ヨーロッパのほうにちょっと興味がある会社員の一家、みたいな感じでやりたかったんです。お父さん像としては、そんなにパーフェクトじゃないほうが面白いと思ったので、ダンサーじゃなくて役者を使ってみようということで、佐伯新を使いました。

──日本のわりとどこにでもありそうな家族の頭上にむなしく輝いているシャンデリア、みたいなのがなかなか面白かった。それに比べて2005年の『迂回プリーズ』は、独特のつくりかたでした。おそらく井手さんの中では明瞭なコンセプトがあるんじゃないかと思ったのですが。
コンセプト? どうしよう、なんもないんです(笑)。現実的な話になりますが、パークタワーがなくなるという話を聞いたので、ただ単純に前からやりたかった横長の舞台を一度つくりたいと思いました。この作品は、ダンサーたちがボーイスカウト、ガールスカウトのような格好をして横一で行ったり来たりしますが、当初は全員婦人警官の制服にしようと思っていたんです。そうすると「迂回してください」みたいに使える。
でもそれだと、わかりやすすぎるかなと思って、家の近所にあったガールスカウトハウスから思いついてあのユニフォームにしました。それで、赤のラインなどを入れて衣装つくったのですが、劇場に入って赤い照明が当ると戦闘服っぽく見えて。そんなことは考えていなかったんですが、戦争のイメージに見えるという人もいましたね。こういう風に言ってみると、少しはコンセプトがありますね(笑)。

──ダンス以外の演劇の人たちともコラボレーションもたくさんやっていますね。
演劇の振付は、正直言うと、いつもお話しの設定自体がわからないままやっているんです。いつも台本読まないんで。読むと逆につくれません。とりあえずどういう雰囲気で、踊り始めるまでにどういう芝居があって、というところから。芝居の途中に「はいここでダンスシーンです」というのではなく、あくまで自然な感じにしたい。そこだけ変なふうに突出しないように日常的な動きを多用してつくります。芝居の流れに馴染むようなものを考えます。

──井手さんは2005年でちょうど、「イデビアン・クルー」としてダンス活動を始めて10年目でした。
はい。近年は自分の振付作品には出ていなかったのですが、10年の記念として、『迂回プリーズ』には自分から出ると言いました。また、3年ほど前からずっと依頼を受けていたソロ公演の『井手孤独【idésolo】』を実現させました。もともと踊るより振付家としてさまざまな作品をつくっていく方法をとってやってきたわけですが、2005年はそういう年にしたかった。だからといって、これらかずっと出るわけではないですが。
『井手孤独【idésolo】』については、ソロだし、あまり深く考えなくていいかも、と。素のままの自分がモルモット状態になっているところを観に来て喜んでくれるお客さんがいればいいじゃん、みたいな感じでやったところがあります。イデビアン・クルーでやる作品のようなテーマ性などはあまり深く考えなかったかもしれません。

──これからのプランは?
9月には4年ぶりに、世田谷パプリックシアターでの、イデビアン・クルー新作公演があるので、それは今から楽しみです。
それと、自分としては、今もの凄く勉強がしたい。変な言い方ですが、学校など何かに束縛されたいんです。ダンサーではなくて、振付家としてどこか海外に行けるところはないかなあと考えています。若いころはワンパッカーでしょっちゅうヨーロッパに行っていたのですが、イデビアンや芝居の振付を始めてから行けていません。例えば、ハワイでフラダンスをやってみたい。フラダンスは、本当は男性の暴力的な激しいイメージをもつダンスなんですよね。神の舞みたいな、一つ一つ言葉があるちょっと宗教クサイ踊りをね、勉強したい。というか、日本から離れたいっていう願望があるのかな……。
 
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