The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
Contents
Artist Interview
What reveals the meaning behind the stages in the form of everyday apartment rooms? Interview with stage designer Toshie Tanaka
創り込まれたマンションの一室が現すものは? 舞台美術家、田中敏恵インタビュー
海賊
グリング第12回公演『海賊』

初演:2005年/ザ・スズナリ
作・演出:青木 豪
企画・制作:グリング

明日図鑑
『岸辺の亀とクラゲ』

初演:2006年/新宿THEATER/TOPS
作・演出:牧田明宏
企画・制作:明日図鑑
明日図鑑
『爛漫!』

初演:2005年/三鷹市芸術文化センター 星のホール
作・演出:牧田明宏
企画・制作:明日図鑑
──田中さんの舞台美術を形容する時によく「リアルなセット」という言い方をしますが、少し意味合いが違うような気がします。
そうなんです。確かにリアルな素材をコラージュとしてもってきてはいますが、本物そっくりでしょ、ということではなくて、本物から逸脱した演技空間としてつくられた本物っぽい虚構なんです。マンションの一室だって玄関や台所など間取りとしての辻つまはある程度あわせようとしますが、たとえそこから逸脱したとしても、あんなレイアウトの部屋は絶対ありえないけど嘘に見えないような美術にしたいと思っています。
いつも思っているのですが、デッドスペースのない舞台、手がかりがたくさんあるような空間をつくって、そこに風を吹かせたいんです。もちろんそれは舞台装置のみで完結するものではなくて、役者が立ってはじめて可能になるのですが。

──同じ一杯飾りでも頼まれるカンパニーによってテーストが違ってくるのではないですか。
もちろんです。例えば、「ポツドール」と「グリング」と「明日図鑑」の3つの空間は、私の中では全く異なっています。
ポツドールはディテールに最もこだわらなければいけない劇団で、ものすごくデフォルメをします。例えば、ツヤがあるものをつくる場合はものすごくツヤを出すとか、ボコボコしたコンクリートの壁があればものすごくボコボコさせるとか、汚れもものすごく強く入れます。本物っぽくは見えるけど、絶対あり得ないというぐらいのデフォルメ感を出すようにしています。
逆に明日図鑑は、私がやっているなかでは最もナチュラルなドラマをやっている(というと、ちょっと語弊があるかもしれませんが……)劇団なので、本来の意味でリアルっぽくしたいと思っています。例えば、白い壁はハレすぎてはいけないし、ある程度の生活感を出したい。でもデフォルメしすぎると彼らの世界を壊してしまうので、一番日常に近い空間をつくりたいと考えています。牧田明宏さんの作品は、人の悪意とか、嫌らしいけどどこか愛おしい部分を扱っていて、その空間はおどろおどろしくする必要もなければ爽やかにする必要もなくて、さりげなくしなければいけないと思っています。
グリングは、この中では最も抽象性を持たせたプランにしています。ガチッとつくらないで、風が順繰りに吹き抜けるような空間をつくりたいと思っています。作・演出の青木豪さんは台本が完成しないうちから話しをする人で、面白いのは、登場人物は先に決まっていて、その人たちをどうやって登場させればいいかとか、どこで引っ込めるかといった出入りを決めながら台本を書いていくんです。それで毎日、一番最初にもどって直しながら続きを書く。スタートの時点ではラフな間取りを決める程度で、後は台本の進行に従って登場人物の動きに必要な装置を加えていきます。もちろん、その時々の作品によって違いますから一概には言えませんが、テーブルを挟んで会話するといった、演劇的距離のような位置関係が重要になってくる作家なので、そういう舞台美術をつくることで青木さんが目指す世界を実現したいと思っています。
みなさんが私に何を期待してプランを依頼してくださっているのかはわかりませんが、それぞれの演出家が求めているコンセプトや伝えたいものを実現したいし、それを形にするのが私の仕事だと思っています。

──田中さんはたくさんの若い世代の作家・演出家と共同作業をされていますが、舞台美術の観点から見て、今の日本の小劇場の傾向をどのように感じていますか? 
私に依頼される舞台美術に限ると、マンションのような生活空間を依頼されることは確かに多いですね。以前は、単純にそういう作品を書くのが作家にとって楽なのかな、ぐらいに思っていましたが、今は、極端に言えば、自分を表現するための居場所が必要なんじゃないか、ここは自分の居場所だという手がかりがたくさんある空間がないと演じられないんじゃないかと感じる時もあります。逆に、そんなに親切な空間ばっかりでやらないで、抽象空間で勝負してみれば? と思ったりもしますが。
私が学生サークルをやっていた時代は、みんなよく身体を動かしていましたけど、今は稽古前に発声練習をしたり、走ったり、肉体訓練をする劇団をあまり見なくなった気がします(私が見ていないだけなのかもしれませんが)。小劇場なのに舞台にマイクを置いちゃう劇団もありますから。大きな小屋でやるときに、むやみに声を張り上げるよりも、補助的にマイクを選ぶんだと思います。

──日常生活ではやらないような声を張り上げるといった行為が嘘くさくて、抵抗があるんでしょうか。かつての小劇場は演劇の醍醐味は非日常性にあると考えていましたが。
私もそう思っていたのですが、今は日常を舞台にした作品を抵抗なく受け入れている自分がいます(笑)。

──戯曲も内向的だし、人間関係が最大の関心事になっていて、自分にしか興味がない‥‥。
そうですね。自分を表現することが社会に対する最大の問題提起になっている時代なのかもしれませんね。
 
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