The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
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Artist Interview
The unique aesthetic art world of director and choreographer Sakiko Oshima
独自の美意識に彩られた 演出家・振付家、大島早紀子の世界

『シニフィアン・シニフィエ・人魚姫』
撮影:吉村新

『白鳥の湖・・・零のエクリチュール』

『春の祭典』
撮影:松山悦子

『ロミオとジュリエット』
撮影:inri

『眠りの森の  』 撮影:竹田直樹

『秘密クラブ・・・浮遊する天使たち2000』
撮影:鷹野晃

『神々を創る機械2005』
撮影:松山悦子

『人工楽園』
撮影:小熊栄

『白夜』 撮影:小熊栄
──ソシュールの記号論からタイトルをもってきた93年の『シニフィアン・シニフィエ・人魚姫』は、カンパニー創設から4年目で大島さんが注目され始めた重要な作品となりました。
人魚姫は17歳で海から外に出て行きますが、特に女性が大人になるという記号としての身体を空間の中に視覚的に表現したいと思いました。舞台を2段にして、上と下に分けて、さっきまでそこにあったはずの身体の輪郭みたいなものを残そうとしたり、そういったことを考えながらつくった作品です。

──『白鳥の湖・・・零のエクリチュール』(94年初演)では、また違う身体に対する考え方を呈示していたのではないかと思います。
女性の身体が背負っている社会的な意味を解体したいと思ってつくりました。当時、女子中・高校生が着用したままの制服や下着などを販売する「ブルセラ・ショップ」が社会問題になっていて、それで性風俗に着目しました。ダンサーが踊りながら何枚ものパンツを脱いでいくとそこに下着の湖ができる。10枚ぐらい重ねて穿いていて、ダンサーは脱いだパンツに気が付かずに楽しそうに踊っているんだけど、足下にあるパンツの湖に足を取られてしまう。「誰にも迷惑をかけていないからいいじゃない」と言いながらパンツを売る女子高生たちをTVのドキュメンタリーで見て、まるで白鳥が自分の羽根をむしっているように思えた。彼女たちの身体から噴出する、時代が身体に科している何かを感じていたんだと思います。

──代表作の『春の祭典』(95年初演)でも社会を鋭く見据えています。女性の社会的立場とか、そういう言葉が好きかどうかわかりませんが、フェミニズム的な視線もはっきり見えた気がします。
『春の祭典』はストラヴィンスキーの曲の中にあるものにそって、“視線の暴力”について振り付けた作品です。被害者に対する加害者ではなく傍観者の暴力、時代が無意識に選ぶ生け贄について考えました。当時の日本では、いじめがすごく問題になっていたし、この作品をつくった後に、パパラッチに追われて事故死したダイアナ妃の事件があった。そういう視線の暴力に無関心であることの恐ろしさというか、私たちの身体が気付かないうちに鬱積してしまったある種の不安だったり苛立ちだったり、そういったものが世の中に現象として噴出していのではないかと思ってつくりました。

──この作品での白河さんの存在感と踊りは素晴らしかった。また、ワイヤーで吊るした椅子が効果的に用いられるなど、ワイヤーの使い方も完成された感がありました。
自分では意識していないですが、そう言われてみればそうなのかもしれません。自分の顔の周りを椅子が回っている様子をみんながずっとただ見ている。そういう視線を肌で感じる。何なのでしょう、視線って、見ることって。思うに、距離を持った触覚なんですよね。人の視線が遠くから冷たく鋭く注がれると、触られている気がする。空中に漂っている椅子や投げつけられる椅子でその視線を表してみました。視線はある意味凶器というか、切迫した暴力性を被害者に突きつけていると思います。

──白河さんの存在という意味では、『ロミオとジュリエット』(96年初演)も素晴らしい。彼女のためのソロ作品ですが、ものすごくたくさんの人が出てきたようなイメージがありあす。
『ロミオとジュリエット』は、神父さまの手紙がロミオに届かなかった、つまり情報伝達のミスからくる悲劇ですよね。そこから連想してコンピュータの世界を作品にしました。私たちの生は一回限りのものですが、テレビゲームなどはリセットすれば何度でも再生できる。なので、この作品では、ゲームのキャラクターとしてのジュリエットは何度も生き返るんですが、それがウィルスの侵入で本当にできなくなって1回限りの悲しみがやってくる。その時にはじめて知る人生の1回性の切実さ、時の道化としての悲しみを描きたかったんです。

──川端康成の『眠れる美女』と『眠れる森の美女』がモチーフになっている『眠りの森の  』(97年初演)は野外スペース(横浜ビジネスパーク・水のホール)での公演でした。
幻想的な回廊のようなところにプールがあり、向こう側に都会的なビルが立ち並んでいる。それが森の中の湖に見えたんです。そのうっそうとした高層ビル中で働いている人たちは眠っているように生きているかもしれない・・・ということをここだったらやれると思いました。川端作品には不思議なエロスがあります。性的な関係ではなく、若い娘と眠ることだけを欲し、主人公が死体にも似た意識のないものを愛するとはどういうことなのか、考えさせられました。みんな眠っているかのような都会の生活の中で見過ごしている何かを解き放つことができないか‥‥。死体のような意識のない美女がみんなベッドに寝かされ、光輝く水の中からスーっと運ばれて来る、そういうイメージを表現しました。

──2000年に北米ツアーを実施した『秘密クラブ・・・浮遊する天使たち』の再演は絶賛され、アンナ・キセルゴフがすばらしい批評を書いています。この作品は92年(98年リメイク)に初演された原点とも言えるものです。ワイヤーワーク、群舞、白河さんのソロ、鏡や懐中電灯を使った光と闇の照明‥‥。
初期につくった作品なので、気付いたらできちゃっていたという感じです。本当の「客観性」というのはこの世にあり得ないじゃないか、というのがテーマでした。ハエの見ている世界、人間の見ている世界、それぞれ違っているわけだから、どれが本当の世界なのかは決してわからないと思うんです。主観と客観とは、違って見える世界の重なりあいで、狂気と正気の関係も境界がないままなんじゃないか。だから、一つの意識が見ている世界というのは、すごく秘密に満ちたもので、他人には決して見えないんです。

──2001年の作品は、個人的な生と死の体験が反映されていると伺いました。
バリ島で溺れてしまって、「ああこれで死ぬんだな」と思った瞬間に、紫がかった青い水や海藻が揺れていているのが完全に止まって見えて、時間が止まったような感覚でした。そこから完全に意識がなくなったんです。結局たいしたことはなかったのですが、目覚めた後、浜辺で花を見て、その花の中に時間が流れていると直感し、結構ショックを受けました。この世界には時間があって、時間を身体の中に持っていることが生きていることなんだ、この世界はある意味で、時間というものが表現している世界なのだと強く思いました。
生と死を考えたとき、かつて死の瞬間は、神が決めるものだったはずですが、今では人間が人工呼吸器を操作したり、延命装置で先送りすることもできるようになった。生と死のボーダーラインが曖昧になって、神の領域とされていたところに、今は周りにいる家族などが入り込むようになってきた。身体そのものも、臓器移植など、自分の身体だったものが、いつの間にか人の臓器になってしまうわけで、私たちの生と死の境界線が揺れているのと同じように身体の境界線も揺れている。何かそういう今の時代の生と死の倫理観のなかで揺れている身体とは何かを考えて創ったのが、『神々を創る機械』です。

──そのテーマは現在までずっと続いていて、『忘却という神話』(2003年初演)、『人工楽園』『白夜』(ともに2004年初演)では、生と死というイメージが、リアルとバーチャルへと転化していきます。
『忘却という神話』(2003年初演)は歴史のなかで忘却されていく個人の時間についての作品です。『人工楽園』と『白夜』はバーチャルなものをすごく考えました。『人工楽園』は編集された時間と場所の中に生きる私たちの身体イメージがテーマです。『白夜』のときに思ったのは、ショッピングセンターの監視カメラです。私の姿を秒刻みに記録して、過ぎていった時間も蓄積されていくわけですよね。そういうふうに常に見られていることが当たり前になっている。全てを暴き管理しようとする世界、自分の血液型などが情報としていつの間にか外に蓄積されていたり、国が背番号制にしようとしていたり、身体に対しての感覚が今すごく変わっていっているように思います。自分で意識するしないにかかわらず、すべてがコンピュータに記録されてしまっている。私たちのからだの過剰性から私たちの文化は創られてきたんだけど、その過剰性は、今また私たちの身体に中に違った形で帰ってきてるんだなあって驚いたんですけど。私の家の出入りも指紋認証なんですが、当たり前にやっているけど、これって一体なんなのかって思います。ケイタイもコンピュータもこれから生体認証になって、身体自体が鍵になる。気付かないうちに身体がバーチャルなものに化けて、いろんな所で垂れ流されている。でも実際の身体は全く使われないから、身体にとっては断片的な経験しかない。身体の存在はここにあるのではなく、全てが機械の中の情報として操られている‥‥。そのバーチャルな空間はどこか知らないよそにあるのではない、既にここにあるんだ、と思ったんです。
 
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