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Performing Arts Network Japan
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Artist Interview
The unique aesthetic art world of director and choreographer Sakiko Oshima
独自の美意識に彩られた 演出家・振付家、大島早紀子の世界

H・アール・カオス&シンガポール・ダンス・シアター『Feast of Immortality』



シンガポール・ダンス・シアター
『Whose Voice Cries Out?』
──近年ではカンパニー活動だけでなく個人の振付家としての活動にも意欲的です。シンガポール・ダンス・シアター(SDT)にも今回で2回目の振り付けになります。
2001年に、H・アール・カオスの『春の祭典』でシンガポール・アーツ・フェスティバルに参加したのですが、その公演をSDT芸術監督のゴー・スー・キムさんが観てくださって、ぜひうちのカンパニーで振付をやってほしいと依頼されました。それで、2003年に彼らとつくった最初の共同作品が『Feast of Immortality』です。
『神々を創る機械』が原形にあって、テーマ、セット、音楽はすべて同じです。バレエ団に振り付けるということで、SDT版はポアントを多用した作品につくり直しました。男性ダンサーも含め24人全員を出して、ワイヤーも使い、ポアントもあり、男性のための新たなシーンを入れたりもしました。やはりバレエのポアントの動きなどは、私のカンパニーの場合と全く違いますから、振付や構成もH・アール・カオス版とは異なった作品になりました。

──『Feast of Immortality』は、白河さんが主役で踊っていたと思いますが、今回の新作『Whose Voice Cries Out?』はSDTのダンサーだけによるオリジナル作品です。8月31日にエスプラネードで拝見しましたが、バレエ団の長所を生かした、素晴らしい作品でした。
今回は、2回に分けて作業をしましたが、それがよかった。まず6月に3週間ほど滞在してワークショップをやりました。即興的な動きをやったり、声をずっと出して演劇的なことをやったり、マイクで叫びながらでも動きが取れるかどうかなどといったことをいろいろと試しました。それはそれでけっこう面白かったんですが、私が事前に考えていたこととは合わないことも多くて、アイデアがバラバラになってしまった。それで7月に帰国して、冷静になってからポアントのプレイについてなどかなり研究しました。作り方についても、一からなので、こうやって進めなきゃ間にあわない、とか考えながら、白河さんをつかってパートごとに進めたりしましたが、最初は本当にめちゃくちゃな状態でしたね。

──コンセプトはどういうふうに考えたのでしょう? シンガポールという社会をモチーフされたのでしょうか。
ワークショップの時から彼らからかなり刺激を受けました。シンガポールはインターネットが発達している高度情報社会だけれども、東京に比べると人間的な繋がりも自然も濃厚に残っています。シンガポールには、さまざまな人種グループがあるため、みんなが自分と他人との関係性をすごく考えているように思います。彼らのなかにはそういう人間的な関係がインターネットの世界とは全く異質のものとして根深く存在しているようでした。
実際の稽古場では、私もずいぶん振付をチョイスしたり、彼らからのフィードバックもあったりしながらみんなで一生懸命やりました。ただ、私がカンパニーで当たり前にやっているような振付も、こなし方が全く違う。「ここ呼吸でやってみて」と言っても通じなかったり、踊り方もこちらが欲しているものと受け取り方が全く違って、まるで別の振りになってしまうこともありました。阿吽の呼吸なんてものは一切存在しない。こういったコミュニケーション/ディスコミュニケーションについて考えたことが、今回の作品のテーマにもなっています。

──シンガポールでなければできなかった作品になったわけですね。
こういう時代、時間と距離の編集された時代の孤独について考えました。ボードの中から首だけが出ているシーンは、本当の自分というものが抑圧されて失われていっている姿を表したものです。遠くの事はインターネットやTVで凄く知っているのに隣の家のことは何も知らない私たちの日常の感覚でしょうか。すぐ側にいても相手は携帯電話で遠くの人と話をしていたりするような、つまり、身体の生の経験の不足した、断片的な身体の経験によって、特に首から上のパーツでしか世界と関わり合えなくなった現代人のリレーションシップをテーマにしています。
テレビで流れているイメージがいつの間にか自分のイメージとして頭の中に入り込んでいたり、自分の意見を言っているつもりでテレビのアナウンサーが言っていたことを繰り返していたり。商品を見るように目の前にいる女性(男性)を見ていたり、あるいは女性も男性をそう見ていたり、本を読んでいると、私じゃなくて、読んでいた本が私の中で話しているみたいに錯覚したり‥‥。自分とかけ離れて首から上だけが私の世界をつくってしまっている、そういったある種の違和感がモチーフになっています。

──このカンパニーとの交流は続くのでしょうか。
それはわかりませんが、とにかく、振付をしていても全く違うので本当に驚きました。バレエ団だし、いろんな人種がいるし、まるでアジアのニューヨークのような感じです。稽古場で寝ているダンサーもいれば、日本語を一生懸命聞いてくれるダンサーもいるし、人種によって、人によってそれぞれ態度が違う。普通だったらひとつのカンパニーに1つの態度でしょ。でもここはよくも悪くもバリエーション豊かなんです。日本は単一民族ですし、とても面白い経験でした。

──今後については?
来年2月に二期会のオペラの演出・振付をすることになっています。演目は現存するもっとも古いオペラで、ギリシア神話の「ダフネ」、作曲はリヒャルト・シュトラウスのものです。
もちろん白河さんも出演します。また新たな領域に挑戦します。
 
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