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Artist Interview
Weaving a thread of the supernatural into the daily lives of the young generation The world of playwright Tomohiro Maekawa and his theater company Ikiume
若者の日常生活を怪奇現象と絡ませる 劇団イキウメ・前川知大の劇世界
イキウメ『散歩する侵略者』
(2007年9月/青山円形劇場)
撮影:田中亜紀
散歩する侵略者
Play of the Month
──前川さんの作品は、SF、ホラー、オカルトといったアイテムに彩られています。例えば、最新作は「図書館的人生vol.2盾と矛」という4話のオムニバスでした。賽の河原で亡者が天国にいくために中間管理職のような鬼に単純労働させられるというアイロニカルな『亡者』、暴漢に襲われた若者を家に招き入れた夫婦が善良であるがゆえにその若者に支配されていく『懐石』、宇宙人が秘密兵器(ソレをみると幸福感に襲われて身動きできなくなり死にいたる)で地球侵略を企てる『幸福』、喜怒哀楽が顔の表情ではなく身体の筋肉反射になってしまう男の悲喜劇『帝王』と、前川ワールドのエッセンスが詰まっていました。
 当初からそういう自覚があったわけではなく、周りから指摘されて気付いたという感じです。振り返ってみると、確かに小学生の頃からオバケ好き、妖怪好きだったとか、お寺や神社の雰囲気が好きだったということはありました。特に、水木しげるの「妖怪大百科」は好きでしたね。僕の通っていた創立110年の古い小学校の校舎にもいろんな心霊エピソードがあって、それをネタにして「心霊新聞」をつくったこともあります。そういうものに対する興味や好みが、僕の作品づくりの根っこにはありますね。

──科学でほぼこの宇宙の全てを説明できるはずだけど、まだその途中にいるので説明できない一連のものごとが存在する──そういうスタンスで心霊やオカルトを見ると、大変面白いですよね。
 僕もそう思います。科学ってやつでまだ説明できない部分を宗教が肩代わりしているだけ、あるいは悪魔だの呪いだのそういったオカルトのロジックで説明を付けているだけ。ということは、その科学で説明できない領域は自由に想像して、勝手に説明を付けてもいいよということじゃないか。それでイキウメをつくった時に、みんなが不思議だと共通に思っているようなことに、自分の好きな解釈をどんどん入れていって、説明を付けていくような物語をつくろう、そこにこそロマンがあると思いました。観た人が「ああ、それはありだね」と感じるような、いわば嘘がつける物語が書けたらなと思っています。

──そういうスタイルを意識するようになると、逆に縛られるということはありませんか。
 そうですよね。SF好き、オカルト好きと言ってもそんなに好きなものがいっぱいあるわけじゃないから、ここ2、3年書いて、もうザッと浚ったなっていう感じがしています。今まではこんなことが起きたら面白いなっていうアイデア中心で書いていましたが、同じアイデアをただのホラ話ではなくて、もっと現実の世界と繋がれるものにできるんじゃないかと、考えるようになりました。

──前川さんは1974年生まれで、1975年生まれの劇作家・演出家の長塚圭史さん、三浦大輔さんたちと同世代になります。自分たちの世代やその社会状況について、前川さんはどのように感じていますか。
 僕らは、学校でも個性、個性といわれて教育され、自分らしさを表現しろみたいな生き方を押しつけられて育った世代だと思います。だから何かクリエイティブな道を歩かなきゃいけないみたいな強迫観念があって、どこにも行けずにニートになったり、もっと自分らしくできるんじゃないかと転職を繰り返したりする。そういう同年代の自意識には興味がありますね。
 それから、先日の秋葉原の無差別殺傷事件のように、僕らの周りではめちゃくちゃたくさんの事件が起こっています。でもいくらニュースをみてもその背景が全くわからない。食品偽装の問題もそうですが、その会社が始まったときには不健全でなかったものが、どこかで一線を越えてムチャクチャやってしまうような、たまったものが一線をこえる事件の背景がとても気になってデータを集めています。

──劇団名イキウメは、「生きたまま彼岸を覗く」という作劇のコンセプトに由来した名前だそうですね。イキウメという言葉からは人間を生殺しにしているような閉塞した時代観も感じられますが、彼岸とは何を表しているのですか。ホッとして幸せを味わえる西方浄土のことでしょうか、あるいは阿鼻叫喚の地獄のことでしょうか。
 いや、ホッとする場所でも、地獄でもないですね。「彼岸」というのは、ほかに言いようがないから彼岸なわけです。無理やり分ければ天国の方が近いかもしれませんが、楽しいとかいうイメージではなく、ただただ「重要な場所」ということ。宗教的な意味はなくて、そこを知ることが人生の最終目標になっているところみたいなイメージです。
 僕は、物語を通じてお客さんにそんなイメージにふれて帰ってもらいたいと思っています。それをなんと呼んでもかまいませんが、自分たちの生活を生活たらしめているものに、一瞬でもタッチして帰ってくるような体験をしてもらえればと考えています。

──前川さんの作品で、2005年に初演され、小説化もされた『散歩する侵略者』ですが、この作品は、人間に乗り移った宇宙人が人間研究のために出会った人々から次々に「家族」「笑い」といった「概念」を奪っていくという仕掛けになっています。宇宙人に乗っ取られた人間、概念を奪われて崩壊していく人間、そのことで見えてくる真実などがコミカルに描かれています。この作品ではどのような「彼岸」を描こうとされたのでしょう。
 あの作品は、そもそもは人間に乗り移った宇宙人の存在の仕方に興味があって書き始めたものです。宇宙人の侵略の「コマ」にされた人間は、自分の記憶を情報としてもったまま、宇宙人というソフトがインストールされるわけです。これまでの情報をもったまま人間として機能しながら、でもそのことに意味がなくなり、乗り移った宇宙人は他の人間から概念を奪いながらもとの人間とは別の人格をつくっていく。そして最後に「愛」という概念を奪って本当の意味での人間に目覚める……こういう人間を人間たらしめているものは何だろう、というのを考えてみたくてあの物語を書きました。
 
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