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Performing Arts Network Japan
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Artist Interview
The theater world of Seigo Hatasawa, with its unique focus on “communities” and “schools”
「地域」と「学校」─ふたつの視点から演劇界を見つめる畑澤聖悟
渡辺源四郎商店『背中から四十分』
(2006年10月/こまばアゴラ劇場)
撮影:田中流
背中から四十分
Play of the Month


*鳥の劇場
鳥取県鳥取市鹿野町の廃校になった学校と幼稚園を劇場に改造して、演劇活動、劇場運営を行うNPO法人。演出家の中島諒人(なかしま・まこと)が主宰。“創るプログラム”“招くプログラム”“いっしょにやるプログラム”“試みるプログラム”の4本の柱により、年間にわたって舞台芸術に関するさまざまな事業を展開。
http://www.birdtheatre.org/
──再演を重ねている『背中から四十分』は、ここまでの話に出てきた作品と少し印象が違います。この作品は、深夜のホテルの一室を舞台に、いわくありげな男性の宿泊客が女性のマッサージ師からマッサージを受けながら物語が展開します。登場人物の役割や背負っているものが伏せられた状態で始まり、物語の進み方が一方向ではなく、行き来する構成になっています。
 福士賢治と森内美由紀、二人の俳優ありきで書いたのは同じですが、マッサージという行為を通して、複層的な動きの反復からドラマをつくるということを試したのが『背中から〜』です。
 発端は「人を癒す」とはどういうことかへの興味。肩が凝ったとき、自分で押すとコリは楽になっても、今度は押した手が疲れますよね? 僕は「コリ保存の法則」と呼んでいますが(笑)、だとしたらマッサージ師という人たちは、他人の疲れやコリ、哀しみまでも自分の身体に引き受けているんじゃないか、だとしたらその人たち自身の疲れや哀しみはどこへ行くのか、とイメージが膨らみ、マッサージの施術と同時進行で癒される人と癒す人、両方の変化を描こうと考えました。
 それだけでは物足りなくて、さらに加えたのが心中物の情交の場面。『心中天網島』や『曽根崎心中』など、必ず心中の前に情交場面があるじゃないですか。どうやって統計を取ったのかは知りませんが、物の本によると実際に心中者の8割が死ぬ前にセックスするそうで、『背中から〜』の場合はその代償行為としてマッサージを考えました。人を癒す仕事をしている人ほど、実は強く癒しを求めている。そんな「癒しの転移・連関」を、マッサージが進行していくラインと会話のライン、ふたつの方向から書いたのがこの作品です。
 でも僕が心中物、近松門左衛門トリビュートとして書いたということは、誰にもわかってもらえなかった。初めての指摘はニューヨークでこの作品がリーディングされたときで、観客から「これはチカマツでしょ」と。ヨーロッパ圏で『The Chikamatsu』みたいなタイトルで上演したら、ウケるかもしれないと思っているんですが(笑)。

──渡辺源四郎商店の最近の活動についても伺いたいと思います。拠点である青森市で、08年からアトリエ兼劇場のアトリエ・グリーンパークを運営されています。小規模劇団が上演もできる自分たちの場を持つのは、東京近郊では考えられない贅沢な創作環境です。
 創作のための場所の確保が比較的しやすいのは、地域演劇の数少ない利点だと思います。アトリエ・グリーンパークは元レストランだった建物の2階部分を借りて、それこそ吸音のための有孔ボードの穴開けから劇団員たちでやったという、徹底した手作りで立ち上げたアトリエです。公演はもちろんですが、僕はここをあらゆる方向から演劇に触れられる「場」にしたかった。僕が「弘前劇場があるなら、東京へ行かなくてもいい」と思ったように、「グリーンパークに行けば演劇ができるから、東京へ行かなくてもいい」と思える場所にしたいと思っています。
 戯曲や演劇雑誌のバックナンバーを探しに来てもいい。公演やワークショップに参加することもできる。駅から少し離れた湾岸地帯に場所を決めたのは、中高校生が大勢出入りする際の自転車の駐輪スペースを確保したかったからです。
 グリーンパークでは昨年から中学生対象のワークショップを始めました。高校演劇だけでは限界があるし、もっと早い段階で演劇に触れる機会をつくりたかったのと、劇団の認知を高めるためのアウトリーチが必要だと思ったこと、2つのことがきっかけです。第1弾は戯曲『修学旅行』使い、「ココロとカラダの平和教育〜7日でつくる『修学旅行』」というタイトルで昨年行いました。戯曲の読みから入り、参加者には、戯曲に出てくるテポドンや中東戦争といった言葉について分担して調査させ、その内容をプレゼンさせました。作品の背景を自分で調べ、知ることによって、台詞の言葉も裏打ちをもって喋れるようになりますから。最後は公演もしましたが、当然家族や友人が観に来るわけで、これはすごいことだと思います。
 『修学旅行』を使ったワークショップは、今夏札幌でもやりますし、8月下旬にはグリーンパークでワークショップ第2弾として「ココロとカラダで考える差別〜7日間でつくる『河童』」も開催します。今、建物の一階部分も借りる交渉中で、ゆくゆくは1、2階ともに劇場とアトリエとしてフル稼働させたいと思っています。

──劇団としても、演劇を使った教育や、人材育成に取り組んでいこうとしているのですね。
 はい。中島諒人さんが主宰する鳥取の「鳥の劇場」(*)との出会いからも大いに影響を受けました。この2月にも鳥取へ行って来たのですが、中島さんとは東京を経由しない地域演劇団体同士のネットワークをつくろうと話しています。弱いもの同士の団結ではなく、意志のある活動のためのネットワークを作るのが目標です。
 公的機関との付き合い方や助成に関しての動きは鳥の劇場がぶっちぎりで先んじていて、予算もあちらが桁ひとつ大きいのが現状です。渡辺源四郎商店の場合、主宰の僕が公務員であることや、青森市内に活動拠点があるのに市内に居住していないことなどがネックになって助成を受けることができないという事情もあります。でも、そんな「前例がない」というだけで道が閉ざされている現状は、劇団の存在価値と公共性をアピールすることで打破していけばいい。そうやって一歩ずつ集団として体力を付け、活動の場を広げていきたい。高校生対象の戯曲解釈講座や、60歳以上限定のワークショップなど、やりたいことは他にもたくさんありますから。
 とはいえ教員を辞めるつもりは、今のところありません。地域で生業をもちながら演劇をするのは正しいことですし、職場と高校演劇に携わる時間があるからこそ書ける・つくることができる作品が絶対にあります。教員の世界や学校は閉じた、狭い世界ですが、そこから見えるものや教員として感じることは僕にとっての原点であり、同時に大きなアイデアの源泉です。だから可能な限り、今履いている四足の草鞋を履き続けなければと思っています。
 
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