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茂山千之丞
茂山千之丞(しげやま・せんのじょう)
狂言役者、演出家。1923年、京都生まれ。故3世千作の次男。父、祖父故2世千作に師事。46年2世千之丞を襲名。48年、能楽以外の芸能とは交流しない能楽界のタブーを破り、他ジャンルの俳優とラジオドラマで共演。歌舞伎など日本の演劇界の革新を目指した演出家・武智鉄二を中心とする演劇運動に参加。歌舞伎、新劇、映画、テレビドラマに出演し、「狂言界の異端児」と呼ばれる。廃絶狂言の復活上演や新作狂言の演出、オペラや新劇の演出と多彩な活動を続けている。息子あきら、孫の童司も狂言役者。

お豆腐狂言 茂山千五郎家
http://www.soja.gr.jp/


「3Gプロジェクト」プロローグ公演
“コメディア・デラルテ×狂言”

2009年3月23日/京都芸術センター
2009年3月24日/イタリア文化会館
3Gプロジェクト
茂山千之丞(左)、茂山あきら(中)、アレッサンドロ・マルケッティ(右)
© ミホプロジェクト
*茂山あきら
狂言役者。1952年京都生まれ。祖父・三世千作、父・千之丞に師事。米国人ジョナ・サルズ龍谷大学教授と「能法劇団」を主宰、ベケットや英語狂言を海外でも公演。新作狂言や廃絶作品の復活に取り組む。オペラの演出も手掛ける。
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Artist Interview
2009.6.24
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Cross-over Kyogen master Sennojo Shigeyama’s quest for a new form of global comedy theater  
越境する狂言役者・茂山千之丞 日欧を融合したグローバル喜劇に挑戦  
85歳の狂言役者・茂山千之丞が国境を越えた喜劇の創造に取り組んでいる。イタリアのコメディア・デラルテの第一人者アレッサンドロ・マルケッティ、スイスの道化師(クラウン)ディミトリーの三人がジャンルを超えて共演する「3Gプロジェクト」だ。中世から代々伝承してきた「狂言」の技と、ヨーロッパで培われた風刺喜劇を融合し、21世紀のグローバルな喜劇を生み出そうという試みだ。6月にルーマニアのシビウ国際演劇祭で世界にお披露目し、共同作業が本格化した。保守的な古典芸能の世界に身を置きながら、若い頃にはベケットに取り組み、新作狂言やオペラを演出し、常に革新的な活動で芸域を広げてきた千之丞の新たな挑戦について聞いた。
(聞き手:奈良部和美/協力:ミホプロジェクト)



──千之丞さんは専門分野の狂言を超えてさまざまな挑戦をされてきましたが、今度はイタリア、スイスの喜劇人と新しい芝居をつくるとお聞きました。
 きっかけをつくったのは、伜のあきら()です。あきらが25年前に、1年間暇をもらいまして、ヨーロッパに行きました。スペインを拠点にして古いものから新しいものまで、色々な芝居を見て回った中で彼の興味を惹いたのが、イタリア北部を中心に演じられている狂言と同じような笑いの芝居、コメディア・デラルテでした。あきらはその芝居を何度も観て、演じる人たちとも知り合いになった。その時に、いつか彼らと一緒に芝居をしたいという夢が生まれ、その思いをずっと温めていたようです。交流も続いていました。何年か前には私もスイスにある彼らの劇場兼稽古場に行きまして、狂言の公演も何回かやりました。この時は、向こうの芝居、次に狂言と順にやっただけなので、ひとつのステップにはなりましたが、あきらの夢には遠いものでした。
 それが今度初めてコラボレーション、一緒にやろうということになったわけです。接点を見つけて、というより接着していよいよひとつ芝居をつくろうと。この企画は「3Gプロジェクト」と名付けられています。3Gというのは「3人のグレート・パフォーマー」、コメディア・デラルテのアレッサンドロ・マルケッティさん、スイスの道化師出身のディミトリーさん、そして狂言の私ということらしいですが、そうではなくて本当は「3人のジジイ」という意味だと思います。私が85歳、あとは78歳と73歳、ジジイです。その3ジジイでひとつの芝居をやれるような方向付けをしたいと思っています。
 といっても、我々は先が知れていますから(笑)、周りから早くやろうとせき立てられて、イタリアのヴェルバニアと3月には京都と東京で試演会をやりました。このときは、ディミトリーさんは参加できませんでしたが、コメディア・デラルテの『3つの煙草入れ』という芝居をあきらが狂言風に翻案し、あきらと私は古風な言い回しの狂言言葉(日本語)でやり、マルケッティさんと奥さんのルイゼッラさんはイタリア語でやりました。私が狂言言葉で言い寄ると、ルイゼッラさんがイタリア語ではねつける、といった具合です。
 これから、3ジジイでひとつの舞台を3ステップ、5ステップと段々上げていく。それは決して古い芝居を復活するということではなく、伝統的な古い演劇の様式なり方法論をベースにした現代の芝居、あるいは未来の芝居を志向していくということです。マルケッティさんもディミトリーさんも、同じように考えていると思います。観客は現代人ですからね。色んな様式、現代の色んな舞台技術や知恵も取り入れながら、今の芝居をつくっていこうというのが、我々の考え方です。

──今、「3Gプロジェクト」を立ち上げる意義は何でしょう。
 狂言というのは約550年の昔から伝承して、絶えることなくずっと演じられていますが、コメディア・デラルテは一時中絶したのを、マルケッティさんのおじいさんが資料を基に復活された。それを伝承してこられたのがマルケッティさんです。ディミトリーさんはサーカスの道化師の芸を中心にして新しい芸域を広げられ、今はもう世界的なアーティストになられています。それぞれ言葉は違いますし、歴史というか背景、社会が違いますから、その中から生まれてくる芝居は当然違ってきます。それでも芝居というのは、万国共通なんだと思います。
 その上、昔と違って遠いところにも飛行機で飛んでいけるし、絶えず電波は飛び交っているし、新型インフルエンザも飛んでくるなど、世界はひとつになっています。こういう状況で、それぞれセクトをつくって芝居をやっていたのでは、その地域、その民族の中だけでしか演じられなくなって、先細りになる。もともと万国共通なんだから、これからはコラボレーションなどでもっと新しい芝居ができていく時代になっていくんじゃないでしょうか。私たちがやれる間にできるだけそういう試みを広げておきたいと思いました。
 そう考えると、喜劇(コメディー)はコラボにふさわしい。どこでも割合筋が簡単ですし、登場人物も少ない。しかもキャラクターが非常にはっきりしている。描かれているのは、男と女、あるいは主人と召使いの世界です。例えば狂言の場合ですと、主人の「大名」と召使いの「太郎冠者」です。主人は召使いに仕事をさせたい。使われるほうは怠けたい。これはもう狂言もイタリアの喜劇も同じです。男女の仲では、亭主はぐうたらで、酒飲みで、スケベ。向こうの旦那も全部そうです。女房はその反対で口八丁手八丁、狂言でいうところの「わわしい女」です。亭主の尻を叩いて働かせようとする。そういう夫婦関係、男女関係は洋の東西、昔も今も全く一緒だと思います。
 しかも、上つ方ではなく、いわゆる庶民の世界を描くのが洋の東西を問わず共通の喜劇の世界です。そこにはあまり偉い人は出てきませんし、悪いヤツも出てこない。みんな善良なんです。でも決して馬鹿ではない。道化というのは、人間の弱点を増幅した人の役ですけども、馬鹿じゃないですからね。狂言に出てくる大名は馬鹿もののように扱われやすいですが、その実像は実力でのし上がった常識のある政治家です。けれども人間というのはどこかに弱点がある。例えば、ものを知らないとか。そういうところを増幅して喜劇につくり上げるわけです。そういう芝居は狂言にもコメディア・デラルテにもたくさんあります。
 今は情報化社会ですから、お互い知り合うことも楽になっていますし、昔に比べてひとつのものを一緒につくりやすくなっていると思います。
 
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