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Artist Interview
Cross-over Kyogen master Sennojo Shigeyama’s quest for a new form of global comedy theater
越境する狂言役者・茂山千之丞 日欧を融合したグローバル喜劇に挑戦
素狂言『宗論』
茂山千作(左)、茂山千之丞(右)
宗論
写真提供:茂山狂言会
──茂山家のキャッチフレーズ、家訓になっている「お豆腐狂言」というのは、そもそもは悪口だったのですね。
 そう、悪口だった。「おかずに困ったら冷や奴か湯豆腐にでもしとこか」というのがあるでしょ? それで、「余興に困ったら茂山んとこに狂言やってもろうたらええ、あれは豆腐みたいな狂言や」と言い出したんですわ。
 ウチのじいさんは、ひねくれていたのかシッカリしていたのか、腹があったんでしょう。「いや、ウチの狂言は豆腐で結構」。お豆腐というのは、冷や奴のように家庭の総菜にもなるし、会席料理にもなる。非常に栄養がある。味付け次第で色んな美味しい料理が出来る。そして、誰もが好きだ。そういう狂言がウチの狂言だと言い出したんです。言っているうちに段々と家訓みたいになってきまして、「お豆腐主義」と言われるようになりました。
 3Gの企画も、根は、狂言は格式張ったもんじゃないという祖父の「お豆腐」にあります。狂言は芸術だという人がいますが、私は芸術という言葉が一番嫌いです。人が芸術だと言ってくれるのはいいですよ。しかし、自分で芸術と言うような下手な芝居を私はやってない(笑)。私はいまだに下手ですけど、芸術という肩書を付けないと人に見せられないような芝居だったらやめとけ、と思っています。狂言から芸術という肩書をのけたものが「お豆腐」です。

──千之丞さんがさまざまなことに取り組まれるのは、「お豆腐主義」の発展形というわけですね。
 そういう家に生まれて、そういう狂言をやってきたからこういうことになったのでしょうね。自分の意思だけではチャンスはやって来ないです。能や狂言の人は他の分野とあまり交流しないことが知れ渡っていますから、色々お話が来るのは、茂山の家だったら何か一緒にやってくれるんじゃないか、と思われているからでしょう。7月には、指揮者の井上道義さんから請われて、プッチーニのオペラ『トゥーランドット』を演出します。私はオペラのことはよくわからないし、小学校の時に唱歌を習ったぐらいで五線譜も読めない。その狂言役者である私がオペラの演出をするというので、友達が「それこそ狂言だ」って笑ってましたよ。
 しかし、実は日本の古典芸能とオペラは共通点がいっぱいあるんです。例えば、オペラではアリアのように重要な歌は必ず客席を向いて歌うでしょ。それが終わると拍手をしますよね。リアルな芝居でそんな馬鹿なことはないですよね。でも狂言もお客に向いて喋るし、歌舞伎もそうでしょ。オペラと共通なんです。それにご都合主義なところも同じ。芝居の進行をやりやすいように、どんどん設定を変えていくでしょ。それにお客はついてくるわけです。
 そして、ものすごく不条理です。『附子』とか『棒縛』って狂言の代表的な曲がありますが、悪さをした太郎冠者と次郎冠者が主人から逃げる。主人は「やるまいぞ、やるまいぞ」と追っかけて幕内に入る。そして舞台が空になる。学校で演じると、子どもたちから質問されるんです。「おっちゃん、あれ後で2人は捕まったんか?」。答えに困るんですよね(笑)。台本に書いてないし、師匠からも習っていない。歌舞伎なんて結末がつかないまま、「まず今日はこれにて」で終わる。ベケットより不条理です。そういうところがオペラと日本の古典は似ている。
 狂言、能のことは知っていますし、歌舞伎も好きで一緒に芝居づくりをしましたから友達も多い。「私の引き出し」と称しているんですけど、新劇の人たちの引き出しも、照明や音響の引き出しもあるから、「この場面はこの引き出しを引っ張り出してこうやったらいいな」と、彼らの知恵やアイデアから学ぶわけです。その引き出しをちょっと借りてきて、芝居づくりをするのが私の演出方法です。

──『トゥーランドット』の演出で、どんなことが千之丞さんに期待されているのでしょうか。
 オペラって世界で一番金の掛かる芝居でしょ。ところが、今は支援してくれる企業も国もお金がない。そういう状況でオペラをやるとなると、無駄を省かざるを得ない。しかし、音楽と歌にお金をかけないと良いオペラは出来ないわけです。費用を削れるのは舞台装置とか、衣装、メイク、照明ですね。そういうものを削りに削った芝居が狂言なわけで、装置もなく、扇1本が盃にも戸にもノコギリにもなる。4人でちゃんと2時間ぐらいの狂言をやりますから、考えてみるとこんなエコな芝居はない(笑)。で、今度のオペラは舞台装置ナシのエコオペラなんです。
 それでも80人ぐらいのオーケストラがいるのですが、小さなホールだとオケピットに入りきらない。それで、舞台に上がっちゃう。前に楽団が来ると歌手が見えなくなっちゃうから後ろの高い所で演奏するわけです。オケが舞台上にいるから奥行きが浅くなって緞帳も使えない。幕がないですから、登退場がお客に全部見える。こうなると、これはまさに能舞台のやり方でやらざるを得ないというわけです。
 『トゥーランドット』は中国のお話になってますけど、それはヨーロッパから見た東洋のイメージです。私らから見たらどこの国かわからないですから、中国にこだわる必要はない。キャラクターを出す中国の京劇の隈取りみたいなメイクは、歌舞伎の隈取りを使えばいいし、衣装も歌舞伎のものでいい。オペラはコーラスが非常に重要なんですが、ヨーロッパの人というのは合理主義的なものの考え方をしますから、衛兵であるとか侍女であるとか、ひとりひとりに役を付ける。年齢はこれくらいだとかキャラクターも付けますね。そうすると衣装も全部変えなきゃならない。能で考えるとコーラスは地謡なんですが、地謡の衣装は全部紋付きです。だから今回のコーラスはグレーと白の貫頭衣でいいのではないかと思っています。ちょっと役柄のある人は、その上から何か羽織る。すると衛兵が侍女にもなれるわけです。成功するかどうかわかりませんが、しかしまあ、お客様にはわかりやすいんじゃないでしょうか。
 
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