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French cultural policy enters pivotal era
再考の時期にきたフランスの文化政策

■参考文献・資料
V. Dubois: La politique culturelle: Genèse d'une catégorie d'intervention publique Belin, 1999.
K. Eling: The Politics of Cultural Policy in France Macmillan Press, 1999.
D.L. Looseley: The Politics of Fun: Cultural Policy and Debate in Contemporary France Berg, 1995.
D. Wachtel: Cultural Policy and Socialist France Greenwood Press, 1987.
R. Wangermée & B. Gournay (Council of Europe report) : Programme européen d'évalution: La politique culturelle de la France La documentation francaise, 1988.
フランスの文化政策を検証する
また、果たしてラングが目指した「文化の民主化」が実際的な効果をもっているのかどうかも、実のところはっきりしない。文化の民主化や芸術教育などの施策を含んでいる「文化開発」という予算項目は、左翼政権誕生により、割り当てとしては前年度比で1,440パーセントもの上昇を果たした。しかしそれは、それ以前の「文化の民主化」向けの予算がないに等しかったからで、実は81年度の文化開発の予算は4,100万フランでしかなかったのである。それにこの予算枠は、グラン・プロジェへの支出などの影響により、次第に縮小していった。
それに対し、演劇や音楽といった主要な文化セクターの予算は、社会党政権誕生によって文化予算が倍額近くになったにもかかわらず、文化予算の内訳では従来と同じく高い比率を保ち続けた。すなわち、以前は無視されていた美術部門が123%の予算増加となったし、映画やオーディオ・ビジュアル作品が220%増となったものの、演劇や音楽のような伝統的なセクターも、それぞれ75%と50%の予算増加となったのである。つまり助成の配分の割合にはほとんど変化がなかったのだ。
このような事情を鑑みると、ラング以後の文化的多様性の保護・促進という政策目標は、現実的な効果としては限定的なものだったように思える。もちろん先述したように、耳目を引きつけるような大衆文化への諸々の支援策は実施されているわけだが、実はそれらも単発的なものが多く、予算規模的に考えてもそれほどの額ではない。つまり80年代以降のフランスの文化政策は、大きなパイを用意することで多様な文化活動が助成を受けるチャンスを与えはしたが、助成における伝統的で制度化された芸術の優位性は維持される結果となったのであって、実は見かけほどに革新的なものではないのである。
なぜこのような結果になっているのかという疑問に対して、エリングはインタビュー調査を積み重ねた結果、制度化された芸術分野に存在する強力な利益団体による政策形成への干渉、という回答を導き出している。すなわち、伝統的な芸術分野には十分に影響力のある利益団体が存在しており、それらが政策担当部局に対して強く働きかけ、自らの権益を確保する活動を行っているというのである。これは、国家主導型という、フランスの文化政策に対して従来から与えられてきたイメージに反する実態であろう。それに対し、利益団体が存在しえない「文化開発」のような予算項目や、組織力の弱い大衆文化や未成熟な創造領域は、利益団体による交渉力をもたないために政策担当部局の判断力が強く働き、その予算規模は時勢によって容易に左右されてしまうのだという。
したがって、82年以降の文化予算の発展は、結果的に支援対象のセクト化を推し進めるものだったとも考えられる。裏を返せば、文化の多様性を真に支援するために必要なはずの、セクト間の調整がほとんどなされなかったのだ。要するにラング以後の文化政策は、シンボリックなレベルでは文化的多様性の認知をした。だが同時に、伝統的な価値体系や文化的権威の温存にも貢献していたといえる。

フランスの事例から学ぶべきこと
以上のようにフランスの文化政策は、従来考えられていたほど地方分権化が進んでいるわけでもなければ、文化省が絶対的に政策決定権を掌握しているわけでもないようである。所詮制度は人が利用する道具であり、使い方次第でその効果は変化してしまう。単純な制度比較によって各国の文化政策を理解した気になってはならないだろう。
もっともこのようにさまざまな問題点を見出すことのできるフランスの文化政策だが、文化的価値基準の多様化した現代において、なおも積極的に文化支援の主要なエージェントたらんとしている文化省とその下部機関の姿勢は、やはり注目に値するだろう。
先述のように文化省、あるいはDRACの価値判断が文化的な「質」を保証するものとして認知されているということは、(もちろん支援対象の決定等の価値判断は独立的な専門委員会が担当しているわけだが)それだけ当該部局自体が文化に関する判断力を磨き、また部局の判断・決定に関して責任をもって臨んでいるということでもある。だからこそ、フランスの文化政策担当部局は政策の理念や目的を明示することを重視しているし、またそれを実行している。
(初出:2000年10月「地域創造」Vol.9)





 
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