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さようなら僕の小さな名声
五反田団『さようなら僕の小さな名声』
(2006年10月27−11月5日/こまばアゴラ劇場)
作・演出:前田司郎
©五反田団
Data
[初演年]2006年
[上演時間]1時間40分
[幕・場面数]1幕
[キャスト数]10人(男3・女7)
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2007.11.7
Sayounara Boku no Chiisana Meisei (Farewell, My Moment of Fame) by Shiro Maeda 
「さようなら僕の小さな名声」前田司郎 
 劇作家の「僕」が岸田戯曲賞をふたつもらったエピソードを縦糸に、世界が蛇に飲み込まれていくシンボリックなエピソードを横糸に、夢のようにとりとめもない物語がきわめて恣意的に綴られていく作品。著者自身が岸田國士戯曲賞に二度ノミネートされながら受賞できなかった経験もモチーフとなっている。


 小さな部屋一面に布団が敷き詰められており、僕と女が重なって寝ながら、蛇の図鑑を眺めている。以後、物語の場所がどこに変わっても、舞台そのものはこの巨大な布団の部屋がずっと使用される。
 僕は言語化以前の内的世界を、毀つことなくそのままの形で、「無意識で」描くようになんとか作品化したいと考えている。次回作として、愛を象徴する大蛇が世界を飲み込んでひとつになってしまう構想を抱えてもいる。
 女はプレゼントだと言って僕に「岸田戯曲賞」をふたつくれる。三越で買ってきたらしい。大きめのカマボコの板のような金メッキの代物である。感極まった僕だったが、受賞の記者会見で、ひとつを恵まれない国マターンに寄付すると宣言する。マターンには新宿発の夜行バスで8時間くらいで行ける。運転手はリスだ。出発を告げに家に帰ると、女は、押入から出てきた蛇に半分以上飲み込まれていた。半身だけ布団から覗かせ、帰りを待っているという。
 劇団員の女優とふたりでマターンに着くと、リスは登場したマターン人の兄に殺されてしまい、運転手を失った僕らは日本に帰るすべを失った。とりあえず兄の家に付いていくふたり。兄は、父と妹との3人暮らしだ。妹は父が大蛇とまぐわってできた蛇の子供で、母も義母も飲み込んでしまい、ほっておくと自分すら飲んでしまいかねないのだという。
 ようやく兄一家に岸田戯曲賞を寄付したものの、鍋敷きにでもされかねない扱いで、僕の気持ちはいささか複雑である。目的を達した僕らは、世界がどうなっているか見に行きたい兄に連れられ、運転手のいなくなったバスで出発することになる。その途中、海で泳ごうとした劇団員は、荒波にさらわれ、浮きの変わりに投げ込まれた岸田戯曲賞につかまるも、あえなく溺れ死ぬ。悲しみに沈む僕。一方日本に残してきた女は、もう首まで蛇に飲み込まれていた。
 このあたりではもはや、劇中の「僕」とこの作品を書き進めている劇作家の「僕」はダブルイメージ化してきており、物語はメタ構造を孕んで進行していくのである。つまり冒頭で構想されていた次回作が、いままさにここで進行中というわけである。
 アメリカのラジオDJスターであるボウゾノに会おうという兄の提案で、僕も同行することになるが、妹が世界を飲み込んじゃったから、行ってみてももう世界ないかもよ、そう言った父は、アメリカ行を邪魔するヤクザの手に落ちて殺される。日本にいる女はほとんど蛇に消化されそうになっており、さようならと僕に告げる。
 サウスブロンクスでボウゾノと出会ったふたりのもとには、死んだはずの劇団員と父が当たり前のように現れ、自分は幻なのだろうか、なんなのだろうといぶかしがる。世界を飲んだ腹痛で寝転がる妹と僕を残し、他の人物たちは去っていく。あの人たち(登場人物たち)のこと考えてあげなよと言う妹に、面倒くさくなっちゃったからと答える僕。妹は、世界と混ざっちゃったんなら、私があなたを産んであげようかと言う。僕は、妹の腹の中にいる自分の心音に聞き入っている。

作者プロフィール:[生年]1977
1977年東京・五反田生まれ。和光大卒。劇作家・演出家。1997年、19歳で「五反田団」旗揚げ。諧謔というより、脱力系の自然体なおかしみのある劇空間が魅力。『いやむしろわすれて草』が第49回、『キャベツの類』が第50回、『さようなら僕の小さな名声』が第51回の岸田國士戯曲賞にそれぞれ最終候補作となる。小説『愛でもない青春でもない旅立たない』で第27回野間文芸新人賞、『恋愛の解体と北区の滅亡』が第28回野間文芸新人賞・第19回三島由紀夫賞に、『グレート生活アドベンチャー』が第137回芥川龍之介賞にそれぞれノミネートされる。
http://www.uranus.dti.ne.jp/~gotannda/
 
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