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ロマンス
ロマンス
こまつ座&シス・カンパニー共同プロデュース『ロマンス』
(2007年8月3日〜9月30日/世田谷パブリックシアター)
演出:栗山民也
撮影:谷古宇正彦
Data
[初演年]2007年
[上演時間]約2時間45分
[幕・場面数]2幕15場
[キャスト数]6人(男4・女2)
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2008.3.31
Romance by Hisashi Inoue 
井上ひさし「ロマンス」 
 少年、青年、壮年、晩年のチェーホフをそれぞれ別の役者が演じ、『桜の園』や『三人姉妹』など彼の作品を織り込みながら、面白い筋立てと音楽のあるボードビルにしたチェーホフの評伝劇である。


 未成年者の見物が禁止されているボードビル小屋に、変装して潜り込んでいるのを警察署長に見つかり、家に連れて帰られた少年チェーホフ。彼は、当時のロシア文学最高の傑作であるゴーゴリの『検察官』がボードビルに発想を得ていたことを知り、うんと面白いボードビルが書きたいと願う。

 憧れのモスクワ大学医学部に進んだ青年チェーホフは、勉学のかたわら、貧しい家族のために雑文や小品を書きまくっている。優秀な成績で卒業した彼はモスクワの繁華街に医院を開く。チェーホフの妹マリヤは、貧しい人たちのために採算を度外視した医療を続ける兄の弱い体を気遣って、イワンという青年からの求婚を退け、最低10年は兄の面倒をみると決心する。

 サハリンに転地したチェーホフは、現地の人々の悲惨な生活に心を痛める。私はこの世に連帯責任を感じていると語る彼のもとに、壮年チェーホフが現れ、慰めながら入れ替わる。

 モスクワの南に位置するロパースニャ公立病院の医局長に就任したチェーホフは、患者のソバーリンが自殺したのを、未亡人の懇願で他殺と診断するゴタゴタに巻き込まれる。チェーホフは、このところ不可解なまでの回復を見せていたソバーリンの胃潰瘍を不可思議に思っていたが、病を癒したのが彼の発明した独特のブリッジゲームによる「笑い」だったのだと気づく。

 場面はモスクワで一番高級なホテルのレストラン。初演が失敗に終わった『かもめ』について、新しい演劇は新しい演技方法で上演しなければならない、とスタニフラフスキーとダンチェンコが語り合っているところにタバコ売りをしている女優オリガが現れ、毎晩血の出るほど稽古をしている『かもめ』の一節を披露する。その自然な演技にすっかり惚れ込むスタニフラフスキーは彼女を起用して『かもめ』を上演し、大成功を収める。

 今やロシア随一の大文豪となったチェーホフ。しかし、世間の評判にのせられて、いかにも文学といった感じの「最高の短編」しか書けなくなっている自分に嫌気がさしている。一生に一本でいいからうんと面白いボードビルが書きたいと祈るように願った少年の自分を、人間の至福である「笑い」を作り出そうと夢見た青年時代の自分を、台無しにしてしまった気分でいるのだ。小説でできないのでしたら、戯曲でおやりになればいいと進言するオリガ。チェーホフには、辛味の効いたボードビルとしての次回作『三人姉妹』の構想が膨らむ。

 チェーホフとオリガは結婚し、妻はモスクワで女優生活、夫はヤルタの自宅で執筆生活を送りながら妻に「わたしのいとしい可愛いひと、素敵な奥さん、明るい明るいともしびさん」と手紙を書き送る日々。そして、壮年チェーホフが晩年チェーホフに入れ替わると、長く煩っている結核菌はついに腸にまでおよび、身体はガタガタになっている。相変わらず妻とは離れた暮らしをしているが仲はよく、観客を笑いに誘うはずだった『三人姉妹』を、お涙頂戴の叙情劇にしてしまったスタニフラフスキーに憤激するなど、チェーホフのボードビルへの思いは続いている。マリヤとともに病気治療にモスクワへ向かう列車の一等個室。深夜。通路から少年、青年、壮年の3人のチェーホフが現れ、それぞれ母校や世話になった病院の図書館に生きている間ずっと本を送り続けておくれとマリヤに頼む。ひとりひとりに頷くマリヤ。3人のチェーホフは、晩年のチェーホフと笑顔で挨拶を交わし去っていく。彼らを見送り、じっと窓外を眺めるマリヤ。

 出演者が全員登場し、6人の俳優が「あなたは素晴らしくボードビルな人だ。あなたのつけた道は今も険しい」とチェーホフを歌で讃える中、幕。

作者プロフィール:[生年]1934
山形県東置賜郡川西町(旧小松町)生まれ。上智大学外国語学部フランス語科卒業。1964年より放送作家としてNHKの人形劇『ひょっこりひょうたん島』の台本を共同執筆し、現代的センスによる笑いと風刺で多くの人々に愛される。69年『日本人のへそ』で演劇界デビュー。72年江戸戯作者群像を軽妙なタッチで描いた『手鎖心中』で直木賞を受賞。同年、『道元の冒険』で岸田戯曲賞および芸術選奨新人賞受賞。84年に自身の作品を上演するカンパニー「こまつ座」を旗揚げ。「日本語」に対する深い愛情とその博識により、笑いと日本語の醍醐味を伝える数々のヒット作を発表し、長年にわたり演劇界および文学界を牽引。「東京裁判三部作」「昭和庶民三部作」は、「日本国憲法第9条」「戦争責任」がテーマ。戯曲『化粧』『藪原検校』、広島の被爆者が主人公の『父と暮せば』などは海外公演でも高い評価を得ている。
 
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