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て
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ハイバイ『て』
(2008年6月/下北沢 駅前劇場)
撮影:岩井泉
Data
[初演年]2008年
[上演時間]
[幕・場面数]一幕八場
[キャスト数]12人(男8・女4)
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2009.9.9
Te by Hideto Iwai 
岩井秀人『て』 
 引きこもりの経験をもつ作者が、認知症の祖母の死をきっかけに家族と向き合った自伝的な作品。「家族ってとっくに家族じゃないけど、どうやっても、家族」をテーマに、父親のドメスティック・バイオレンスでお可笑しいほどに歪んでしまったトラウマ一家の再生を描いたもの。


 プロローグとエピローグは、母方の祖母・井上菊江の教会での葬儀場面。メインは、祖母が亡くなった日の出来事を二人の人物の異なる目線で描き分けた回想シーンによって構成されている。

 菊江の葬儀。立ち会っているのは菊江の娘・通子の家族たち(山田家)。母・通子、父(名前が指定されていない)、長男太郎、長女よしこ、次男次郎、次女かなこ、および次郎の友人の前田、よしこの夫の和夫。「皆様・・神様はいますか?」「神様は、どこにいますか?」意味ありげな牧師が葬儀屋二人とともに出棺までを進行している。

次郎の目線による回想:
 山田家全員が久々に実家の隣にある祖母・菊江の家に集まる。次郎は友人の前田を誘う。
 菊江は認知症で、その手にはデッサンのモデルとして使う木製の手が握られている(全編、菊江の手は木製の手が演じる)。
 菊江は太郎と同居している。太郎がコレクションした車のパーツが応接間に広げて置いてある。次郎は、祖母がまだ生きているのにそんなことをしている太郎の無神経さが気に入らない。
 次郎、前田、よしこの会話の中で父親のかつてのドメスティック・バイオレンスの様子があきらかになる。太郎が最大の被害者で、車のコレクションがもとで殴られたこともあったのだ。
 菊江の部屋でカラオケをやることになり、太郎の次に父親の被害にあっていたよしこは、久々に集まった家族全員が参加することに執着する。カラオケを楽しむ家族の団欒らしい風景。しかし、バンドで歌っているかなこはそのプライドからかたくなに歌うことを拒み、いたたまれなくなって部屋を飛び出す。
 子どもたちそれぞれの思いなどおかまいなしに、父親はカラオケを楽しんでいる。無神経で手前勝手でいいかげんでどこか強圧的な父親の存在に、とうとう次郎が切れてとっくみあいのケンカになる。
 「死ぬまで呪ってやる」という次郎に「嬉しいよ」という父親。「言うだけ無駄だ」という太郎に「それも無理だ」という次郎とよしこ・・・。
 そんな騒ぎの最中、菊江が息を引きとる。
 翌朝、葬儀屋がやってきて遺体を運び出す。ボーッと佇む母の背後にフラリと菊江が現れ・・・。

母・通子の目線(作者の岩井秀人が演じる)による回想:
 認知症の菊江は娘の通子の顔さえ見分けがつかない。おばあちゃん子だった太郎は通子とともに親身に菊江の世話をしている。太郎にはたまにやってくる次郎の祖母に対するふるまいが無神経に見えてしかたない。
 よしこが夫の和夫とともに北海道旅行のおみやげをもって現れる。小姑との折り合いが悪く、通子に実家の近くに引っ越すことにしたと告げる。
 カラオケが始まると前半は次郎が見たのと同じ家族の団らん風景。後半、通子がそっと部屋の中を覗くと、笑顔で歌いながらみんなが組み体操のピラミッドを作っているのが見える。全員がひとつになろうと努力しているシュールだけど一見楽しそうな様子に、通子は号泣しながら一緒に歌う。
 そこに、歌を強要されたとかなこが泣きながら飛び出してくる。かなこは、歌わなかったのはプライドの問題ではなく、みんなの殺気だったような異様な空気のせいだという。
 父親と次郎のとっくみあいの後、よしこに「なぜ離婚しなかったのか」と尋ねられた通子は、無言で威圧してくる夫の存在が怖かったと告げる。
 夫と二人になったとき、「別れない?」と切り出す通子。「そうするか」という夫に「別れたら済むの?」とたたみかける通子・・・。
 言い争いの最中、菊江が息を引き取ったことに気づいた通子は、堰を切ったように激しい怒りと悲しみを夫にぶつける。
 翌朝、無神経なカラオケのことでよしこと太郎が言い争っている。家族の立て直しのために菊江を利用したとなじる太郎・・・。葬儀屋が到着し、兄弟4人で棺を持ち上げたとき、太郎は声をあげて泣き始める。

 火葬場。菊江の希望だからと、牧師は賛美歌を歌いながら家族全員で棺を火葬炉に納めさせようとする。うまく棺を納めることができず、棺を抱えたまま口々に罵りあう山田家の人々。
 「死ね!」「ちゃんと見ろよ!」「なんでこんなことになってんだ」・・・
 その怒鳴り声がやがて怒りにまかせた賛美歌へと替わり、その声にたたき起こされたかのように菊江も棺からでてきて一緒に歌うのだった。

作者プロフィール:[生年]1974
1974年東京生まれ。15歳から20歳くらいまでを、今でいう「引きこもり」として過ごす。2001年桐朋学園大学演劇科卒業。2002年に竹中直人の会『月光のつつしみ』に代役として関わったことをきっかけに、喋り言葉の演劇を知り、2003年にプロレスラーになりたい引きこもりの話を書いた『ヒッキー・カンクーントルネード』でハイバイを旗揚げ。以降、ハイバイの全ての作品の作・演出を担当し、俳優としても出演。
ハイバイ
2003年に武蔵小金井(東京)で作・演出の岩井秀人を中心に結成。岩井自身の、16歳から20歳まで引きこもりだったシリアスで個人的な体験を、演劇という装置で濾過して“生々しいけれど笑えるコメディ”に変換。自己と他者との距離感に敏感過ぎる「自意識のアンテナ」が、 あらゆる距離感を等価にする「現代口語演劇のメソッド」を介すと、独自の切実さとおかしさを発揮すること、それが意外と多くの人のシンパシーを得ることを発見しつつ、近年では岩井の世界も自分、家族、他人と広がりを見せている。代表作は『ヒッキー・カンクーントルネード』『おねがい放課後』『て』。(プロフィール作成協力:徳永京子)
http://hi-bye.net/
 
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