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イキシマ
イキシマ
『イキシマ breath island』
(2010年2月18日〜28日/精華小劇場)
撮影:清水俊洋
Data
[初演年]2010年
[上演時間]1時間40分
[幕・場面数]1幕34場
[キャスト数]11人(男5・女6)
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Play of the Month
2010.3.29
Ikishima (breath island) by Masataka Matsuda  
松田正隆『イキシマ breath island』 
 四方を海に囲まれたイキシマが舞台。登場しない瀕死の男・息(イキ)とその妻や島の住人たちによって、「呼吸」になぞらえた生死の境を行き来するさまざまなエピソードが展開。すべてを記述する男がナレーターとして語るメタシアターの手法で描かれている。


 すべて白く塗られた天井の低い横長の舞台セット。大小の窓が三つ。下手端には数段の階段、その上にスクリーンが設置され、海や砂浜、島民のインタビューなどが場面ごとに映し出されていく。

 スクリーンに映し出される原稿と、それを書く手。語り手の男が、舞台上には見えないがこの島に瀕死の男が居ること、その男を息(イキ)と名づけること、その死をあまさず書きとめようとしていることを語り、その内容を書く手がそのままスクリーンに映し出されていく。

 息の妻は、時折、船大工のもとに行き、「人が死んだらどうなるか」について一方的に話す。船大工は無言で仕事をしている。

 島のフェリー乗り場では、帰郷してきた男と地元の男が話している。祖父母の墓参りをしに帰郷したという男に、地元の男は聞かれもしていない、息の妻への横恋慕について語り出す。

 島の浜辺に密航して来た兄妹が流れ着いた。妹には体の奥が強く震える奇病がある。身元を証明できない二人は、この奇病を利用して何かビジネスができないかと考えている。 

 島を一望する高台(階段)に、女子学生姿の二人の歴史の天使がいる。読書をしながらおしゃべりをする天使たちの口調は今時の女子高生そのもの。ふと語り手の男と目が合い、「キモッ」と声を上げる。

 浜辺に流れ着いた瓶の中の手紙を読む家族、帰郷した男とダンスをする地元の男、サザエを売る海女、映画の話をする天使など、島の住人と島を訪れた人々が出会い、交わす会話が次々と短いシーンとして描かれていく。スクリーンには島周辺の景観の他、浜辺で貝を拾い歩く神父たちの姿が映し出される。

 帰郷した男は、密航兄妹の妹と話すうちに自分が「映画を撮ったことのない映画監督」だったことを思い出す。島に撮影クルーが訪れ、映画の撮影が始まる。地元の男はいつの間にか助監督になっている。監督は何を撮るか決まらないうちから、海女や息の妻、密航兄妹などにカメラを向ける。構成もストーリーもはっきりしないまま、次々にインタビューやシーンが撮影されていく。その間に、天使の一人は就職活動のために島を出て行く。

 撮影の休憩。人々はローソクを灯し、それぞれに今の気持ち、記憶に残るエピソードを語り出す。
 ローソクによって歪んで映し出された人々の影が、舞台をこの世のものではない世界に見せる。奇妙な語りが続くなか、地元の男は撮影現場に無造作に置かれた銛を見つけ、その偶然に背中を押されるように、かねてから嫉妬を募らせていた船大工の殺害を決意する。

 地元の男が持ってきたラジオから、流行のアップテンポな曲が流れ出す。曲は舞台全体に響き渡り、人々もそれに合わせて踊り、喧騒の中で船大工が地元の男に刺殺される。

 と、同時に息の呼吸が止まった。息がそのまま落命するかと思ったとき、海女の一人が「5分間息を止められる」と言い出し、自らの呼吸を止める。5分後、海女は呼吸を止めたまま落命し、入れ替わるように息の呼吸が戻る。島民たちは海女が自らを犠牲にして息を救ったと讃え、その亡骸の上に祠を建てた。

 息の生き続ける島では、相変わらず奇妙な交流が続けられている。片割れをなくした同士の天使と海女は映画の話をし、死んだはずの者たちが現われては通り過ぎて行く。

 不意に島の外の風景に切り替わる。就職に失敗して東京に流れ着き、天使であった記憶もなくし、今は劇団の手伝いをしている天使がコンビニエンスストアでコピーを取っているのだ。コピー機の閃光。その光の隙間に、島の人々とその景色があの世の風景のように垣間見える。

作者プロフィール:[生年]1962
1962年、長崎県出身。立命館大学在学中に演劇活動を始め、1990年に京都で劇団「時空劇場」を結成。97年の解散まで全作品の劇作・演出を務める。初期は郷土・長崎を題材に、長崎弁を使った会話劇を執筆。日常的な設定と淡々とした台詞回しの中に、無意識に潜む人間の業、生の呪縛を描き、高く評価されている。受賞歴も多く、96年岸田國士戯曲賞を受賞した『海と日傘』は、2003年に韓国人演出家・俳優でも上演。日本の戯曲として初めて韓国の演劇賞・東亜日報演劇賞を受賞した。04年、京都で「マレビトの会」を結成し、演出活動を再開。物語性を廃し、宗教や戦争、国家にまつわる記憶や歴史をモチーフに、 舞台上に現れる非日常の世界から現代を照射する作品を展開している。07年の『クリプトグラフ Cryptograph』でカイロ、北京、上海の海外三都市公演を敢行。
http://www.marebito.org/
 
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