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苛々する大人の絵本
苛々する大人の絵本
庭劇団ペニノ『苛々する大人の絵本』
(2009年10月/ドイツ・ベルリン HAU劇場公演)
撮影:Tim Deussen, www.fotoscout.de
Data
[初演年]2008年
[上演時間]1時間
[幕・場面数]2幕8場
[キャスト数]4人(男2・女2)
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2010.5.28
Irairasuru Otona no Ehon (Frustrating Picture Book for Adults) by Taninokuro 
タニノクロウ『苛々する大人の絵本』 
 作品ごとに、自宅マンションを改装した小劇場や野外などに人間の妄想の世界を表現した空間をを創りだし、深層心理に迫る演劇を発表しているタニノクロウの代表作のひとつ。舞台空間を上下に分割し、上では老女姿の豚と羊の日常生活を、下では身体を拘束された学生服姿の男のモノローグを展開。やがて上と下は繋がり、性的イメージを喚起させる様々な会話が繰り広げられる。


 天井の低い部屋。上手では丸太が天井を貫き、下手では丸太が床を貫いている。舞台奥の壁に窓がふたつ、左右の側面にドアがひとつずつ。天井の近くの壁に帯状の電光掲示板が設置され、幕と場のタイトルが表示される。

 上手のドアが開き羊が登場。天井を貫く丸太に「出ろ、出ろ」と語りかける。下手のドアからは豚が登場し、椅子やテーブルを運び食事の用意を始める。丸太から白い液体が滲み出していて、それが調味料になっている。下手の丸太は樹液を順調に出しているが、上手の丸太は枯れかけているらしく出ない。丸太の手入れや「ボート屋を開きたい」というお喋りをしながら、羊と豚は樹液を分け合って食事をする。

 食後、自室に引き上げる2頭。ほどなく豚が泣きながら戻って来る。飼っていた小鳥が死んだのだ。羊は悲しむ様子もなく、鳥の死骸を部屋の壁にあった巣穴に押し込む。外では雨が降り出した。天井の丸太を雨がつたい、雨水は床の割れ目から流れていく。羊と豚は丸太の世話とボート屋についての会話を繰り返し、やがて暗転。

 暗転が明けると、床下にも明かりが入る。ミニチュアの鉄道が走る箱庭のようなセット。中央には全身を縛られ、胸に少女の人形を置いた学生服姿の男が眠っている。目覚めた男は、受験生である自分の身の上話を始めるが、全身の拘束に気づいてもがき出す。やがて身動きが取れないのは、自分の股間に木の根が絡みついているせいだとわかる。

 階上に羊と豚が現れる。2頭が上手の丸太に触れると、連動するように男の股間に快感が走り、男は射精する。と同時に木からは白い液体が噴き出す。

 男の声で地下の異変に気づいた2頭は、床の穴越しに会話を始める。豚は男に見覚えがあり、「ゲイボルグ様」と呼びかけるが、男には豚の記憶はない。だが次第に名前は村島であること、受験勉強と性的抑圧に疲れて眠り込んだことなどを思い出す。男は拘束を解くよう頼むが、2頭は自分たちでは無理だと言い食事を始める。

 やがて自力で拘束を脱した村島が、階上に上がって来る。身の上話をしてから勉強を始めた村島は、豚を母、羊を妹の美津子と呼び、自分のための食事の用意を命じる。

 料理と樹液の説明をする豚を引き寄せ、キスする村島。さらに羊が作ったカクテルを飲むと村島は上機嫌になり、豚に数学の問題を出す。それは豚と羊のどちらが嘘をついているかの思考実験で、いくら考えても豚に答えは出せない。

 村島は新たな料理に樹液をかけるよう命じるが、樹液をかけ続けるうち股間に激痛を覚える。苦しむ村島のために運び込まれるベッド。シーツをはがした村島は、そこに大きくなった少女の人形を見つける。

 人形に向かって「美津子じゃないか」と呟く村島。と、ドアが開き、小さな学生服姿の男が現れる。小さな男はベッドに近づくと服を脱ぎ、人形と性交する。小さな男は、自分の性器をぬぐったティッシュを村島に渡して眠りにつく。村島の股間の痛みもいつの間にか消えていた。

 静かな室内に雨音が響く。開いたドアから豚の声だけが聞こえ、先の思考実験について会話が交わされる。

 「洗い物に行く」と去る豚。残された村島は眠っている小さな男に近づき、その性器にペンを刺す。洗い物の水音が微かに聞こえる。村島はなぜか水音に欲情。その欲情に反応するかのように小さな男の性器が膨らみ、舞台は暗転する。

 明かりが点くと室内は朝の風景。羊が丸太に向かい「出ろ、出ろ」と呟く光景が再現され暗転。電光掲示板に「おしまい」の表示が浮かぶ。

作者プロフィール:[生年]1976
1976年、富山県出身。2000年、昭和大学医学部在学中に同大学演劇部メンバーと共に「庭劇団ペニノ」を旗揚げ。劇団代表・劇作家・演出家であるとともに、現役の精神科医でもある。庭劇団ペニノは、現実には存在しないタニノの妄想を、細部までつくり込んだ空間造形により表現することを特色とする。初めて本格的に執筆した戯曲『笑顔の砦』(07年)および子役の教育プログラムとして俳優たちが“擬似家族”を演じるという劇中劇の構成をとった『星影のJr.』(08年)により、2年連続で岸田戯曲賞最終候補にノミネート。『苛々する大人の絵本』で2009年にドイツのHAU劇場の演劇祭に参加。2010年夏にスイス、オランダ公演を行う予定。
http://www.niwagekidan.org
 
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