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かたりの椅子
かたりの椅子
二兎社 公演35『かたりの椅子』
(2010年4月2日〜18日/世田谷パブリックシアター)
撮影:林 渓泉
Data
[初演年]2010年
[上演時間]2時間40分
[幕・場面数]2幕4場
[キャスト数]9人(男5・女4)
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2010.7.8
Katari no Isu (The Katari Chairs) by Ai Nagai 
永井 愛『かたりの椅子』 
 架空の地方都市が町おこしを目的にしたアート・フェスティバルを企画する。国からの天下りで文化振興財団の理事長になったプライドの高い元キャリア官僚、その機嫌をとる市の役人、権力におもねる専門家、夢見がちなアーティスト、他の町からやってきた女性プロデューサー、手玉に取られる市民など実行委員会は迷走を始める。軽妙な会話を重ねながら、地方都市を舞台にパワーゲームの本質を炙り出し、集団の圧力で変節を余儀なくされる人間の弱さを描いた、現代社会を象徴する群像劇。


 可多里市文化振興財団の一室。アート・フェスティバルのプロデューサーに雇われた弱小代理店の社長・六枝りんこが、財団理事長の雨田久里と常務理事の目高陽倫に呼び出されている。市の生涯学習課課長・沼瀬圭作も一緒だ。委員会の前に企画案について意見が聞きたいという雨田に、りんこは後から送られてきた改定案を絶賛する。だがそれは理事長案ではなく、実行委員長の造形作家・入川クニヒトの案だった。古い椅子を加工したアート作品を街角に置く「かたりの椅子プロジェクト」と、市民の個人史を元にした市民参加劇「可多里市外伝」。雨田は安全や衛生面の危険性、さらには個人情報漏洩の恐れを指摘し、企画を撤回するよう入川を説得せよとりんこに命じる。

 市職員・北条美月の案内で、入川のアトリエを訪れるりんこ。北条は地元の劇団主宰者で市民劇の脚本担当だと言い、入川案不採用に失望を隠せずにいる。入川は商工会の青年部長で老舗酒屋の三代目・田中栄太の好意で、倉庫をアトリエとして借りていた。企画の不採用を告げるりんこ。入川は驚くほどあっさりと不採用を受け入れる。

 第1回実行委員会開催の日。先の7人に加え、委員である可多里市立美術館館長・九ヶ谷章吾とライフスタイル・コーディネーターの戸井ひずるが顔を揃えている。挨拶だけして退室する雨田。目高が企画案の承認を求めると、栄太が急に待ったをかけ、入川案のコピーを配布する。栄太はさらに「かたりの椅子」の試作品も披露し、九ヶ谷と戸井を味方につけてしまう。

 思惑が外れた雨田は再度、りんこと部下たちを集める。根回しの策を練るさなか、りんこは自分の進退を賭して、雨田に入川との話し合いを勧める。人払いをし、二人きりになると雨田は意外にも六枝に賛同し、自分を助けて仕事を続けて欲しいと頼むのだった。

 1カ月後、準備を本格化させるべき時期にも関わらず、手続きは遅々として進まない。沼瀬も目高も言い訳を並べ、りんこの追求をかわし続ける。財団側は手続きを引き伸ばし、その間に理事長案に戻させる裏工作をしていたのだ。沼瀬が目高宛てのメールを誤ってりんこに送ったことから企みが発覚。実行委員たちはマスコミ向けの告発会見も含め、理事長側との全面対決を決意し、九ヶ谷を話し合いの使者に立てる。ところが雨田と食事をともにした九ヶ谷は彼女の泣き落としを鵜呑みにし、財団側との折衷案を受け入れようと態度を軟化させる。

 理事長のやり方に業を煮やしたりんこは直談判に。会話の中の雨田の嘘を数え上げたあと、りんこは「記者会見はやりたくない。本音を言って」と真摯に語りかける。その言葉にうなだれる雨田にはりんこの思いが通じたかに思えたが、彼女が次に打った手は、買収と脅しの二段構えで入川に実行委員長辞任を促すことだった。

 同時に入川の携帯電話にアトリエが火事だという報せが入る。現場からは灯油タンクを抱えた沼瀬が救助されたとも。雨田たちからの重圧に耐えかねた沼瀬が暴走したのだ。両陣営ともパニックになるが、雨田側はそれさえも利用して記者会見を開き、事件の原因が入川たちにあるよう巧みに世論を誘導する。

 実行委員側の結束は崩れ、入川とりんこが残るのみ。二人の心細さと迷いも深刻さを増していく。追い打ちをかけるように理事長側は脅迫と懐柔を取り混ぜ、りんこに新たな実行委員長になるよう要請してくる。

 激しく動揺するりんこ。混乱の中、いつの間にか実行委員会が始まり、理事長案の差し戻し、りんこの委員長就任が次々に可決されていく。駆けつけた入川に対し、我を失ったりんこは叫ぶ。実行委員長は謙虚でなければ務まらず、権力者と仲良くすることが重要な責務なのだ、と。

 実行委員たちの姿が消え、静寂が戻ってくる。室内には雨田と目高のみ。実はいまのやりとりは明日の委員会の想定問答だったのだ。

 そして委員会当日。雨田に取り込まれた委員たちに続き、入川もやって来た。彼は解任の企てを予測済みで、抗議もしないと言う。
「加害者は常に被害者であることにやっと気がついた。必要なのは心の底からの、自分に対する問いかけ。フェスティバルはやがて終わる。でも自分に対する裏切りは、その後も続く」と言い会議室に入る入川。
 その後姿を見送るりんこ。雨田と目高が会議の開始を告げる。ゆっくりと会議室に向かうりんこの前には、二つのドアが待っている……。

作者プロフィール:[生年]1951
1951年、東京都出身。劇作家・演出家。桐朋学園大学短期大学部演劇専攻科卒業。81年に大石静と共に二人だけの劇団・二兎を設立。92年より永井の作・演出作品を上演するプロデュース劇団・二兎社となる。社会批評性のあるウェルメイド・プレイの書き手として「言葉」や「習慣」「ジェンダー」「家族」「町」など、身近な場や意識下に潜む問題をすくい上げ、現実の生活に直結したライブ感覚あふれる劇作を続けている。97年『ら抜きの殺意』で第1回鶴屋南北賞、99年『兄帰る』で第44回岸田國士戯曲賞、2000年『荻家の三姉妹』で第52回読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞。02年より、日本劇作家協会会長を二期にわたり務めた。また『時の物置』が英国ブッシュシアターで、『萩家の三姉妹』が米国ジャパン・ソサエティで英語によってリーディング上演されるなど、日本の演劇界を代表する劇作家の一人として海外でも注目を集めている。07年秋には米国ミネアポリスのプレイライツ・センターなどが主催した「日米劇作家・戯曲交流プロジェクト」で『片づけたい女たち』がリーディング上演され、また韓国では『こんにちは、母さん』のリーディングも行われた。
http://www.nitosha.net/
 
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