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ガラパコスパコス
ガラパコスパコス
はえぎわ
『ガラパコスパコス〜進化してんのかしてないのか〜』
(2010年12月17日〜29日/こまばアゴラ劇場)
撮影:梅澤美幸
Data
[初演年]2010年
[上演時間]1時間45分
[幕・場面数]1幕15場
[キャスト数]16人(男8・女8)
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Play of the Month
2011.2.23
Garapakosupakosu by Seiji Nozoe 
ノゾエ征爾『ガラパコスパコス』 
 派遣のピエロとして働く青年・太郎が偶然の出会いから認知症の老婆・まち子と共同生活を始める。太郎の行動を理解できない周囲の人々が巻き起こす騒動とともに、生まれては老いていくことを繰り返す様を人間の“進化”と捉え、ユニークな演出で描いた話題作。黒板でつくられた何もない空間にチョークで装置や小道具を描きながら、ドラマは進行していく。


 プロローグ。派遣のピエロ、木村太郎の日常が台詞なしで描かれていく。黒板に自宅の間取りを描く太郎。着替え、仕事先の遊園地では手品なども見せるが、拙い芸は子どもからも相手にされない。ただ一人、通りがかった老婆・まち子だけが、うれしそうに手品で出した紙の花を持ち帰る。仕事を斡旋している事務所の上司にも叱咤され、落ち込んで帰宅する太郎。家のそばには昼間出会ったまち子がおり、太郎は転んだ彼女を助けた流れで部屋に招き入れてしまう。いつしか眠りに落ちる二人。
 翌朝、まち子が近所の老人ホームから抜けだして来たことを知った太郎は、慌てて彼女をホームに返そうとするが、寂しげな姿にほだされ再び部屋へと連れ戻るのだった。

 以降は通常の台詞のやりとりになる。

 太郎の部屋を兄・晴郎とその妻・静香が訪ねて来る。扉を開けず、受け答えもしどろもどろの太郎に「恋人ができたのか!」と喜ぶ晴郎。晴郎の背後には、常に、申し訳なさそうに頭を垂れる後輩・耕介が付いて回っている。邪険に追い払う晴郎。

 挿話として「バスに乗れない女」のエピソードが描かれる。床にバス停を描くため屈むと、女が背負ったリュックサックから文具がばらまかれ、それを拾う間にバスは行ってしまう。女はこの後もバスに乗れない場面を繰り返す。

 時間は遡り、まち子がいる老人ホーム。スタッフの明日(あした)と明後日(あさって)がボーリングゲームに興じる入所者たちを監督している。明日は「全ての人間に共通しているのは生まれることと死ぬことであり、老いもまた成長の通過点の一種。縄文時代などから比べ格段に伸びた人間の寿命を鑑み、このまま寿命が伸びた場合には老いの先にさらなる成長・進化があるのでは」という独自の理論をとうとうと話している。
 やがてまち子の不在に気づく二人。慌てて捜すが行方はわからず、二人は責任を問われてクビにされてしまう。まち子の娘・昌子が泣きながら母の身を案じ、傍らにはその娘・先子も心配気にいる。

 太郎とまち子は仲睦まじく暮している。仕事はぱっとしないが、事務所の新人・渡は太郎に好意的で、上司の花丸はそれが面白くない様子だ。
 帰宅途中、太郎は高校の同級生だった緑に再会。彼女はすぐ隣りに、高校時代の恩師・柱谷と結婚して住んでおり、妊娠中だと言う。高校時代、内気な太郎にとって高圧的な柱谷の存在はプレッシャーでつらい思い出でしかなかった。帰宅した緑は夫に太郎の話をするが、夫婦の会話はどこか噛み合っていない。
 さらに太郎は隣人を名乗る男から英語で話しかけられる。男は無闇と親しげで、困ったことがあればいつでも連絡をくれと電話番号を残していく。苛々しながら部屋のドアを開けた太郎はまち子の出迎えに癒される。

 数日後、太郎の部屋に兄夫妻と耕介が立っている。恋人だと思っていた存在が老婆だったことに驚く兄たち。まち子は痴呆が進み、会話も行動も支離滅裂になりつつある。太郎は彼女を世話するため、仕事も休んでいる様子。凍りついたように動けないでいる太郎と兄たちのところに無断欠勤を心配した渡が訪ねて来る。

 太郎とまち子の共同生活は、渡にも知られてしまう。まち子に捜索願が出ていることを知り、犯罪者と誤解される前に彼女を帰すよう説得する人々。だが、太郎はまち子との暮らしを頑なに続けようとする。たとえ、まち子をただ介護するだけになったとしても。
 時折、まち子の娘・昌子と先子が安否を気遣い祈るシーンや、柱谷夫妻の産まれて来る子どもに関する曖昧な会話が挿入される。

 補助バーに電動ベッド、太郎の部屋の様子が次第に変わっていく。

 失業して街をぶらつく明日と明後日が、太郎の部屋にいるまち子を発見する。晴郎への謝罪の念を少しでも晴らそうと、事件の発覚を防ぐと宣言し走り去る耕介。
 柱谷家では生まれてくる赤ちゃんへの喜びを語る緑に、たまりかねた柱谷が自分が無精子症であることを告げる。

 晴郎と渡の見つめるなか、太郎とまち子は部屋で食事をしている。まち子はもはや、太郎のこともわからない状態。それでも兄たちの説得に太郎は従おうとしない。だが経済的にも、精神的にも二人の生活は限界に近づいていた。
 渡や花丸に借金を申し込んで断られる太郎。留守の間にまち子は部屋をめちゃくちゃにしたうえ、自分の排泄物を食べるという凄惨な状況になっている。

 耕介は明日と明後日を止めるため、彼らに暴行し、ますます晴郎に拒絶される。
 柱谷家では、絶望した緑が手首を切って自殺を図る。
 事務所では見舞いに行こうとする渡を止めるため、花丸が仮病を使って騒ぎを起こす。

 「もう限界だ。限界ってのはお前ひとりの問題じゃない」と告げる晴郎。それでも動じない太郎を渡も見放す。
 小さく身体を丸めて眠るまち子に、太郎は泣きながら語りかける。
「まっちゃんは何なの? どこへ行くの? 俺は、どこに向かえばいい?」
 キスするようにまち子に顔を寄せた太郎を、不意に目覚めたまち子が突き離す。見つめ合う二人。やがてまち子がクレンジング・シートを取り出し、太郎のピエロ・メイクを落としはじめる。BGMにラヴェルの「ボレロ」が聞こえてくる。
 まち子からシートを受け取った太郎自らもピエロのメイクを落としはじめる。自分の唾で太郎の髪を整えたまち子は、太郎を平手打ちして去っていく。太郎の周りを老いて老いや疲労に嘆く人々が取り囲んでいる。

 まち子がホームに戻ったことを知らせる晴郎。太郎は兄に「出頭する」と言う。ピエロの衣裳を脱ぎ、スーツに着替える太郎の周りでは、これまで登場してきた人たちが「ボレロ」の曲にのせて、猿から人間への進化を模したダンスを踊り、進化について思考を重ねている。
 スーツ姿の太郎は、世間と部屋を隔てていた床の線を消し、壁に「ガ」「ラ」「パ」「コ」「ス」の文字を加えたあと、一人バス停に立つ。渡と「バスに乗れない女」も並ぶ。バスの近づく音が聞こえると、「バスに乗れない女」は車の前に立ちはだかって止めようとし、そのまま轢かれてしまう。

 心配そうに駆け寄る人々。奇跡的に生きていた女は、そのままバスに乗り込み、運転手や乗客も彼女を祝福の笑顔で迎える。緊張した面持ちでバスのドアをノックし、乗り込む太郎。居心地が悪そうに、けれど確かな決意とともに乗車した太郎は、無表情な乗客たちとともにバスの揺れに身を任せ、新たな一歩を踏み出す。

 エピローグ。バスに乗った人々は「We Are The World」を合唱している。「バスに乗れない女」の乗車を寿ぐように。歌にノリ切れない太郎も、人々についていこうと声を張りあげている。

作者プロフィール:
劇作家、演出家。1975年、岡山県出身。8歳までアメリカで育つ。99年に劇団「はえぎわ」を旗揚げ。以降、全作品の劇作・演出を手がける他、俳優としても自作に出演している。ラジオや映像作品の脚本家、俳優としても活躍。人間のデリケートな内面を、シュールな笑いと妙なリアルさを交えて描く劇作で評価を得ている。また舞台空間を巧妙に使い、抽象的ながら想像力を刺激する劇空間を生み出す演出にも定評がある。近年の主な作品に『Mジャクソンの接吻 Michael's Deep chuu-chuu』、『バター 〜サイドAのノリ、サイドBの反り〜』 、『勝、新』、『寿、命。ぴよ』など。劇作においては毎回新たな試みを行い、自身のスタイルを常に更新している。2010年、『春々』 が第55回岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされる。
http://haegiwa.net/
 
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