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留鳥の根
留鳥の根
伏兵コードvol.4『留鳥の根』
(2011年5月27日〜30日/インディペンデントシアター1st)
演出:赤星正徳
撮影:堀川高志
Data
[初演年]2011年
[上演時間]90分
[幕・場面数]
[キャスト数]5人(男3・女2)
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2013.2.28
Ryucho no Ne (Roots of non-migrating birds) by Mari Inada 
稲田真理『留鳥の根』 
 関西で活躍する劇作家を対象とする「OMS戯曲賞」、第19回の大賞受賞作品。タイトルの「留鳥」は、カラスなど季節による移動をしない鳥の総称。養殖業が盛んな海辺の町での生活風景を、どこか悪夢のような歪みとともに描く。交番の巡査、選挙活動に熱をあげる町会議員、議員の恋人で心を病む若い女性、零細の養殖業を営む夫婦、かすかな接点をもつ五人は、それぞれの望んだかたちの愛情を得られず心を軋ませる。
 五月の深夜の交番。脱いだ靴を両手に女が飛び込んできて、若い巡査が事情を聞く。女はユカリといい、入水自殺を試みたらしい。気持ちが落ち着いて、ユカリは帰っていく。以来ユカリは、たびたび交番に立ち寄っては巡査に話を聞いてもらうようになる。

 巡査は海辺の野原を巡回する。町会議員の赤松が、堆肥袋を持ちゴミ拾いしている。巡査がねぎらいの声をかけると、赤松議員は、町の人の役に立つのが自分の生きがいだと明るく告げる。

 巡査は議員をまぶしく見つめる。自分も警察官として、町民のために働きたい、町の太陽でありたい、と素朴に願ってきた。

 海岸近くに住む夫婦がさみしげに話している。ふたりは、養殖のハマチが高値で売れず、生活資金に困り始めている。新しい養殖の資金援助も断られ見通しが立たない。

 妻は夫に、昨夜見た夢の話をする。

 山で、カラスの群れが雨宿りをしている。目を開けている烏と目を開けていない烏がいた。目をつむっているのはじっと考えている烏、目を開けているのはなにも考えずにボサッとしているように彼女には見えた。しかし、他の人から見れば、その反対かもしれない。妻はよくよく見て、強者の烏に異議を唱えた。でもなにも変わらない。強者は強者のままだ、という。

 夫は、自分がその場にいればお前の意見を汲んで行動する、と妻をねぎらう。二人は仲睦まじい。

 気持ちが沈みがちな巡査は、不安の発起点を探るために、自分の仕事の確認作業をしようとして架空の逮捕劇を一人で演じてみる。そんな時にはいつも、巡査の周りにミッキーマウスの幻がどこか忌まわしくあらわれるのだ。

 「ミッキーは黒い鼠だよね」と彼はつぶやき、自分を育ててくれた亡き祖母がいつも歌っていた、黒い鼠の歌を少し間違って思い出す。巡回中にも暗い気持ちが込み上げて来るが、原因が分からない。

 この作品の登場人物たちは、形こそ違え、誰もが正体のない不安におびえ、はけ口も見いだせずに煩悶しているのである。

 巡査が田んぼを通りかかる。田んぼにあやしい人影をみつける。女が男の股間に顔をうずめている。女はユカリで、男はあの若い議員、赤松だ。

 ユカリは、恋人に献身的につくしても、愛されていないように感じる、と言っていた。巡査は、ユカリの恋愛を心配しはじめる。

 養殖業の夫婦が公園を歩いていると、赤松議員が話しかける。何か困りごとはないか、お役にたてないか、と聞きながら自分の選挙用のビラを渡す。実は、夫婦の養殖業に資金援助を断ったのは、赤松の叔父なのだが、まるで気づいていない。

 夫婦を前に、赤松議員は自分がいかに町民のために活動しているのかアピールし続ける。赤松は、抽象的な「みんな」のためには尽力するが、目の前の具体的な人間には冷淡な俗物なのである。

 夫婦は議員に、恨めしい気持ちを抱き始める。

 巡査は、同じ人助けの気持ちがあっても、根本に思いやりの気持ちがなければ、人のために何もできないのではと深夜の交番で考える。数体の黒い鼠=ミッキーが現れる。

 巡査は、夜明けとともに、スコップを手に取り裏山に駆け上る。祈りを捧げるために踊りながら、地面に掘った穴に顔を埋め、町民のために太陽になりたいと決意する。

 しかし、太陽への道は放火だった。なにも起きない町は幸せに鈍感だから、ユカリがつけた火をぼくが消せば町民の太陽になれる。そういう理屈だ。

 巡査の善意はねじ曲がって悪意のようになり、恋人との関係をほのめかしては、脅迫まがいにユカリをまるめこむのだった。

 夫婦と巡査が街角でであって、騒がしくなってきた選挙運動について世間話をする。僕も町民のためになりたい、という巡査に、ならばお金をかしてほしい、と夫婦は頼む。

 巡査はたじろぐものの、なにか食べてください、と千円渡す。自分にはお金がないのでこれだけしか渡せない、とすまながる。

 夫婦は、自分らの話を聞いてくれるのはお巡りさんだけだと感謝する。行政には期待できない、たとえば議員さんには想像力がない、と憤りを告げる。

 雨が降り始め、交番で、巡査と夫婦、巡査を訪ねてきたユカリが、雨宿りの格好になる。突然、ユカリを追って赤松議員が交番にやってくる。

 交番のなかの顔ぶれをみて、赤松は思わず「烏合の衆」と呟き、慌ててとりつくろう。

 赤松と二人になったユカリは、股間に顔をうずめる様に強要されるが、股間を握り潰し、依存に決別する。

 町民のために太陽になりたいと巡査は思うが、他者のために他のことを犠牲にしても、全てを助けられない。祈りを捧げるために踊るが、うまくいかないことに焦りを感じ絶望する。

 夫婦は海辺に赤松議員を呼び出す。議員の叔父に、養殖の資金提供を頼んでほしいと頼む。選挙活動で忙しいからまた今度、と1万円を握らされる。話をきいてください、と食い下がる夫婦に、さらに1万円を地面に投げ捨て、去ってしまう。

 夫婦は長距離バスで大阪に向かう。議員からの二万円でバスのチケットを買ったのだ。大阪の都心のバスロータリーで、夫婦は横断幕を張る。

 「議員赤松は、お金で票を獲得しようとしている! 弱者を馬鹿にしている! 私達は烏合の衆と吐き捨てられた」

 横断幕のまわりに人が集まってくる。

 巡査がユカリを連れて田んぼに向かう。田んぼでは赤松議員が首をつっていた。夫婦の抗議行動のせいで、次の選挙が危うくなったためとも想像できるが、定かに語られない。

 ユカリは「人の気持ちを思いやれなくて、何が人助けよ」とつぶやいて立ち去る。  巡査はひとり、遺体を下ろす作業を続ける。

作者プロフィール:
1976年10月20日愛媛県生まれ。劇作家・演出家・俳優。「伏兵コード」主宰・代表。1999年、遊気舎にコロスとして参加後、オーディションを経て入団。2005年、遊気舎を退団。2006年、自らの演劇ユニット「伏兵コード」を旗揚げ、主宰・作・演出を務める。2011年までに伏兵コードとして4回公演を行い、作品を発表。ラジオドラマ・外部公演などにも作品を提供。伏兵コード以外に、劇団・プロデュース公演に多数出演、俳優としても活動している。2011年に、第18回OMS戯曲賞佳作を『幸福論』にて受賞。2012年に、第19回OMS戯曲賞大賞を『留鳥の根』にて受賞。
 
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