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泳ぐ機関車
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泳ぐ機関車
劇団桟敷童子『泳ぐ機関車』
(2012年12月13日〜25日/すみだパークスタジオ 倉)
演出:東 憲司
撮影:長田 勇
Data
[初演年]2012年
[上演時間]2時間
[幕・場数]2幕
[キャスト]21人(男10、女11)
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アーティスト・インタビュー(東 憲司)
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2013.3.29
Oyogu Kikansha (The Swimming Locomotive) by Kenji Higashi 
東 憲司『泳ぐ機関車』 
 東憲司が、自身のルーツである九州の炭鉱町を舞台に描く三部作の最終章。時代は太平洋戦争終戦直後。小さな新興炭鉱の盛衰を背景に、炭鉱主の息子である虚弱児ハジメと、知的障がいのある炭鉱災害孤児の“カミサマ”が、破綻した炭鉱の地下にあるという“涙の海”に妄想の機関車を走らせるまでをダイナミックに描く。
 序章。主人公・三好ハジメによる回想。父・辰介が妻・玉恵、娘の千鶴と美代を伴い、玉恵の母で地元の歓楽街を仕切る野毛綾華を訪ねてくる。目的は炭鉱を買う資金を貸してもらうこと。傍らには辰介の右腕・能嶋や、玉恵の弟・伸治、叔父・義助らもいる。冷徹な商売人の綾華だが、辰介の真っ直ぐな情熱を感じ、娘や孫への思いもあって、高利で2年の返済期限付きながら投資を請け負う。大団円のはずが、直後産気づいた玉恵はハジメの出産と引き換えに命を落とす。

 妻の死を乗り越え、赤堀炭鉱の経営に乗り出す辰介。賃金などで炭坑員を厚遇し、やる気で生産効率を上げようという辰介の理念。赤堀炭鉱は大いに栄え、瞬く間に8年が過ぎた。

 第一幕。三好家の住居。周囲には玉恵の愛したひまわりが満開だ。「どんな時にもひまわりのように笑っていなさい」というのが、子どもたちへの玉恵の教えだった。お手伝いの鈴子が家事をし、その祖父で大工の甚平が離れをハジメの勉強部屋に改装している。離れの隣りには廃坑となった坑道を祀った小さな鳥居。千鶴と美代も学校から帰宅する。ハジメの担任・加藤が家庭訪問に訪れ、辰介は炭坑員に酒をふるまおうと連れ帰るなど、満ち足りた日常が描かれる。

 そこへ綾華が伸治や義助夫婦を伴って現れる。低迷する自身の商売への資金提供と、今は赤堀炭鉱の社員である伸治や義助を優遇するようにという談判が目的。続く辰介と炭坑員との酒盛りでは、炭坑事故の一酸化炭素中毒のため自殺した坑夫・梁瀬の未亡人と母親が登場し、明日がその命日だと語られる。

 長男として期待をかけられながらも、ひ弱なハジメは鳥居に菓子を供え願い事をするようになる。と、茂みからダンボールでつくった小さな機関車に乗った薄汚れた少年が現れ、菓子を取る。機関車に乗れと誘う少年。ハジメは少年を「カミサマ」と呼び、その夜から二人は友達になる。

 翌日。梁瀬の未亡人・瑞枝と母ふくに会うため、西町に訪れる辰介。そこは社会の底辺の者が流れ着く貧民街。見舞い金を渡そうとする辰介を、瑞枝は激しく罵倒する。

 別の時空では、ハジメと神様の交流が描かれる。野球選手になりたいというハジメの夢が描かれる幻想のさなか、帰宅する辰介。深夜まで外で遊ぶハジメを辰介は叱りつけるが、転がっているバットに気づき、二人は野球の練習に興じる。そこに、炭坑事故を告げるサイレンが鳴り響く。

 第二幕。事故後の炭鉱では地下水の浸出や雨のため坑道を水が塞ぎ、17人が逃げ遅れ、さらにメタンガスの爆発まで起きる。辰介は爆発が広がらぬよう、坑員を犠牲にし、坑道に水を流し込む苦渋の選択をする。辰介一家は事故の責任を問われ、世間の非難を浴びることに。営業再開のめどが立たぬうえ、遺族への保証金などで会社は見る間に傾いていく。

 炭坑員たちの涙や苦しみでできた地下の冷たい海を渡ることができる、“泳ぐ機関車”をつくり、その蒸気で海を温めたいとカミサマに訴えるハジメ。

 やがて追い詰められた辰介は失踪する。折しもエネルギー政策の転換により、石炭の値崩れも始まっていた。

 綾華が三好家を訪れ、三人の孫を預かってくれる親戚を見つけたと告げる。その間にも、未払いの賃金をよこせと甚平や炭坑員たちが押しかけてくる。騒ぎのなか、朽ちるように逝く綾華。鈴子も三好家を去ることになり、ハジメたちの周りからは次々に人が去る。

 久しぶりに姿を見せるカミサマ。年明けには町を出ると言うハジメに家出を唆し、一緒に“泳ぐ機関車”をつくろうと誘う。機関車の材料探しにカミサマが来た場所はあの最底辺の人々が流れ着く西町だった。

 ハジメはそこで、瑞枝と暮らす辰介を見かける。追いすがるハジメにも答えず、絶叫しながら水に逃げ込む辰介。出てきた瑞枝が二人を引き剥がし、辰介を家に連れ込む。

 激しいショックを受けたハジメは、自分には泳ぐ機関車づくりも、冷たい涙の海を温めることも無理だと言い、カミサマを残して走り去る。背後の瑞枝の家では辰介が首を吊る。

 翌日。ハジメたちを引き取る松尾が現れる。人の良さそうな松尾に安堵する子どもたち。だが坑員に義助も混じり、三好家の金目のものを持ち出そうとして、止める松尾や伸治と殴り合いになる。本当に何もなくなってしまったことを、実感する子どもたち。

 年が明けた寒い日。三人は伸治の見送りだけを受け、松尾のもとへと歩み出す。ハジメは後から追いかけるからとひとり居残り、鳥居の下、廃坑道の蓋を開けてカミサマに語りかける。

 すると満開のひまわり畑とともに、カミサマが現れ、「頑張れ」と手を振る。やがて花びらが舞い散るひまわり畑に玉恵、綾華、辰介の姿が。三人はハジメに「生きろ!」と強く呼びかける。

 暗闇でも笑い、いつか冷たい海に自分の機関車を泳がせると決意するハジメ。
 「頑張れ、僕…頑張れ、僕の愛する者達!!!!!!!!!」

 舞台は一転して大海原に。海を突き進む巨大な機関車が現れ、ハジメはその光景を背負って力強く歩み続ける。

作者プロフィール:
劇作家、演出家。1964年、福岡県出身。1999年秋に「劇団桟敷童子」を旗揚げ、劇団代表を務める。作品の多くは炭鉱町の筑豊など出身地・福岡が舞台。倉庫などに凝った舞台美術を仕込み、集団的なパワー溢れる群像劇で高く評価されている。代表作は『泥花』(2006)、『オバケの太陽』(2011)、『泳ぐ機関車』(2012)の炭鉱三部作。『しゃんしゃん影法師』(2004)、『風来坊雷神屋敷』(2005)、『海猫街』(2006)で3年連続岸田國士戯曲賞の最終候補となる。『海猫街』で平成18年度文化庁芸術祭優秀賞(関東の部)、12年には文学座アトリエの会公演『海の眼鏡』の戯曲と劇団桟敷童子公演『泳ぐ機関車』の戯曲・演出で第47回紀伊國屋演劇賞個人賞、トム・プロジェクトプロデュース『満月の人よ』と『泳ぐ機関車』で第20回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。『泳ぐ機関車』は第16回鶴屋南北戯曲賞も受賞した。
http://www8.plala.or.jp/s-douji/
 
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