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グッドバイ
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グッドバイ
『グッドバイ』
(2013年11月29日〜12月28日/シアタートラム)
演出:寺十 吾(じつなし・さとる)
撮影:谷古宇正彦
Data
[初演年]2013年
[上演時間]1時間30分
[幕・場数]9場
[キャスト]5人[男4、女1] 
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2014.3.13
Goodbye by So Kitamura 
北村 想『グッドバイ』 
 第17回鶴屋南北戯曲賞受賞作。北村想が、日本文学へのリスペクトを込め、オリジナル戯曲を発表するシリーズの第1弾。モチーフは、太宰治の未完の長編『グッド・バイ』。8人の愛人をもつ初老の大学教授・黄村(こうむら)は、絶世の美女を雇い、結婚することになったと騙して、女たちとの関係を清算しようとひとり一人訪ねていく…。
第一場。大学の教授室。

 黄村教授は、助手の渡山に文句を言っている。美人であることを条件に募集した秘書を面接しているにもかかわらず、美人がまったく現れない。後一人で打ち切りを宣言する黄村。そこへ、30番目の応募者・三舞理七(みまいりな)が通される。その美貌に黄村は理七の採用を即決する。

 秘書の仕事とは、黄村の婚約者を装い、8人の愛人宅を訪問して別れ話をまとめるというもの。

 黄村は、1年前に大学の女性理事長と結婚したものの、いまだに愛人たちと別れていないことがバレて、4月までに関係を精算せよと迫られていたのだ。精算できなければ離縁され、教授職も失う。

 理七は、何て非常識な仕事だと河内弁でまくしたてる。その訛のあまりの下品さにたじろぐ、黄村と渡山。採用をためらうと、理七はいう。自分は河内弁しか喋れない。河内弁の何がいけないのか。そこで、彼女をしゃべらせなければいいと、黄村は採用を決定する。

 助手の渡山と二人きりになった理七は、おどろくべきことに流暢な標準語で親しげに話しはじめる。どうも彼らは知り合いで、今度の計画には何か裏があるらしい。

第二場。夜、おでんの屋台。

 二人が拠点とするのは路地のおでん屋の屋台。計画が功を奏し、黄村と理七が美容室を経営する愛人と別れてきた様子を話している。別れ際に理七が言う決め台詞「good bye」もうまくいった。ところで、おでん屋の店主は理七に何やら記憶でもありそうな気配。

 屋台に常連らしい男客がいるが、男は道頓堀の出身で、理七の訛りを疑い、河内音頭を歌ってみろと試す。理七は歌詞をよく覚えていないと誤魔化すが、何とか歌いきる。

第三場。翌昼、開店前のおでんの屋台。

 愛人宅に行くために理七とおでん屋で落ち合った黄村は、亡妻は「饗応夫人」と呼ばれたほど、人に親切だったと、48歳で亡くした妻との思い出話をはじめる。また、今から尋ねる愛人は、黄村に心中をもちかけたことのある女なので、簡単に別れられないだろう、とも言う。

第四場。夕刻のおでん屋。

 黄村はまた理七を相手に亡妻の思い出話をしている。子どもを流産した話、誕生日にパラソルを贈った話など。理七は、その愛の深さに、次第に心を動かされる。黄村が理七に故郷の河内について尋ねる様子を見ていた女客(初演ではシンガーソングライターの山崎ハコが出演)が、河内音頭をモチーフにした持ち歌「きょうだい心中」を弾き語る。

第五場。教授室。

 渡山に、理七は5人の愛人との別れ話がまとまったと報告する。渡山は、黄村の妻の理事長と取引しており、別れ話が成就した暁には准教授に昇格し、結婚資金も用立ててもらう約束だった。

 実は、理七は渡山の婚約者で、黄村が9人目の愛人として目をつけないよう河内弁をしゃべらせていたのだ

第六場。開店前のおでん屋。

 理七は、店の親父に標準語で話しかけてうろたえるが、親父は客のことは詮索しないととがめない。親父は、黄村と亡妻が、若い頃仲良く屋台に飲みにきていた思い出話をする。

第七場。洋品店。

 黄村が日傘を選んでいる。別れ話が成就したら理七にお礼に渡すつもりだった。それはかつて亡妻に送ったものとそっくりな日傘で、宛名カードについ妻の名前を書いてしまう。

第八場。おでん屋。

 黄村と理七は最後の別れ話に行くため落ち合う。理七は標準語で、黄村の愛人たちがいわゆる「愛人」とは違うのではないかと詰め寄る。

 理七は、別れ話の後、愛人たちの話を聞きに行ったと告げる。いわゆる肉体関係はなく、黄村は金銭的な援助や精神的な援助をしていただけだった。人に親切にしていた妻を懐かしんで困っていた女性を助けたのではないか、愛人がいると思うことで愛の対象を失った喪失感を埋め合わせていたのではないか、と問う理七。

 黄村は脱力し、愛と別れがたかったのだと認め、理七をその場で解雇する。「good bye」と別れを交わす二人。泣き崩れる黄村を、屋台の親父が諫め、理七を追うよう背中を押す。

第九場。道行き。

 佇む理七のもとに、黄村が駆けつけて日傘を差し出す。雪の夜に理七が日傘を差すと、桜が舞う。
 初老の男と若い娘のロマンスを祝福するかのように、山崎ハコが歌う『夜のパラソル』(北村想作詞)が響く。

作者プロフィール:
1952年滋賀県生まれ。劇作家、小説家、エッセイスト。自らの作・演出により「TPO師★団」(1979年設立)を振り出しに、「彗星 '86」(1986年設立)、「プロジェクト・ナビ」(1986年設立)と名前を変えながら劇団活動を展開。79年に発表し、15年にわたって上演を続けた代表作『寿歌(ほぎうた)』で小劇場演劇の旗手として注目される(2003年に劇団活動に終止符)。1984年に『十一人の少年』で第28回岸田戯曲賞受賞。『雪をわたって 第二稿 月の明るさ』で紀伊國屋演劇賞個人受賞。2013年からSIS companyのプロデュースにより日本文学へのリスペクトを込めた新作戯曲シリーズをスタート。太宰治の未完の小説をモチーフにした第1弾の『グッドバイ』で第17回鶴屋南北戯曲賞受賞。これまで執筆した戯曲は約200。小説、ラジオドラマ、エッセイなど幅広く活動。2013年に「恋愛的演劇論」(松本工房発行)を上梓。
 
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