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囁谷シルバー男声合唱団
囁谷シルバー男声合唱団
囁谷シルバー男声合唱団
演劇集団 円
『囁谷シルバー男声合唱団』
(2014年11月3日〜12日/ステージ円)
撮影:森田貢造
Data
[初演年]2014年
[上演時間]1時間45分
[幕・場数]1幕9場
(ただし、時間経過や場面転換を示す暗転などの演出は極力廃し、スライドするように次の場面へと移ることを希望する旨がト書きに明記されている)
[キャスト]9名(男6・女3)
Japanese Drama Database
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Play of the Month
2015.3.30
Sasayaki-dani Silver Dansei Gasshoudan (Sasayaki Valley Silver Male-voice Chorus) by Hiromi Sumi 
角ひろみ『囁谷シルバー男声合唱団』 
 岡山県在住の劇作家、角ひろみによる第59回(2014年度)岸田國士戯曲賞最終候補作品。演劇集団 円による「女流劇作家書き下ろしシリーズ」の第3作。高齢者施設として再利用される予定の山間の廃校を舞台に、高齢となって再会を果たした同級生たちが、子ども世代を巻き込み、束の間の命を燃やす様を近未来劇として描く。
 舞台は、数年先の未来、夏。山間にある笹越町の集落・囁谷の廃校になった中学校。

 窓の外には木彫りのマリア像が見える。70代くらいの男・松田が悄然と現れ、「10代の自分が、目覚めたら突然老人になっていた」とマリア像に訴える。同級生・宮本と蛭子が現れ、松田が痴呆のため記憶に混乱を来たしていると気づく。

 町から出て行く同級生の多い中、林業に従事した彼らはこの地に残り合唱団を運営していたが、昨夜は団長・井上の四十九日。メンバーはいまや3人のみだ。

 会議をする3人を同級生の千鶴子が見ている。町は今、学校を含む周辺の土地を高齢者施設の建設用に買収しており、反対派もいる中で千鶴子はいち早く土地を売却していた。気まずく向き合う4人。松田の息子・幹夫が、既に業者が着工しており学校も立ち入り禁止だと追いたてる。

 秋の午後。死んだ井上の娘で施設職員の加奈が入居希望者の北野と細野を案内している。この教室は木工を習う作業室になるという。加奈は待ち合わせに来なかったもう一人の希望者と連絡が取れず焦っている。

 そこへ合唱団の3人が現れ、加奈らを無視してクリスマス・コンサートの会議を始める。合唱団員と北野らは同級生だった。マドンナ・沢田あゆみの話題などで盛り上がる5人。

 降り出した雨の中、また千鶴子が教室内を見ている。宮本は北野と細野を合唱団に誘い、千鶴子にも「マネージャー」にと持ちかける。突然ビショ濡れの女が現れる。遅れていた入居者はあゆみだった。一瞬で男たちの気持ちを奪い去るあゆみに、苛立つ千鶴子は帰郷の理由を問い詰める。「死に場所を探していた」と囁くあゆみ。

 秋の宵。加奈と幹夫がマリア像を動かそうと悪戦苦闘している。集落のシンボルでもある像を撤去し、意気を削ごうというのだ。以前にも高齢者施設で働いていた加奈は、団員たちの間に不穏な感情が流れていることを察し「このままでは泥沼になる」と言う。

 晩秋、団員たちが歌のパート分けをしている。全員がリードボーカル希望で譲らず、喧嘩寸前。そこへ鉈をもった松田が現れる。痴呆が進んだ松田は鉈で見えないものと闘おうとするが、結局は息子のもとへ戻る。

 初冬、夜。宮本が楽譜に目を通している。若者に戻ったような松田が現れ、宮本の昔の恋人・京子の話を延々と語る。松田は自分のせいで二人が別れたと思い込んでいる。

 翌日夕方、曲選びの会議。体調の悪い北野は加奈に付き添われ、松田は息子(幹夫)に楽譜を持たせ、蛭子とともに入ってくる。囁谷のシンボル・千年杉のある林を加奈が全部売ったことを責める蛭子。入居者は介護の必要が高まるごとに1号棟から4号棟へと移り、最後は樹木葬で千年杉の林で木々の根元に埋められるのだと言う。

 故郷に戻り、死後はその土に還る。出戻り組には理想の死に場所である施設も、地元組には換わり行く故郷の象徴でしかない。両者の狭間に立たされ、苛立つ加奈は楽譜を奪い、撒き散らす。
 
 皆が去ったあと、楽譜を拾い集める宮本とあゆみ。不意に宮本は、葬儀用の黒いハンカチをあゆみに返す。それは20代の終わり、父の葬儀で帰郷したあゆみが宮本に貸したものだ。その、一度だけのあゆみの帰郷が、宮本と京子の仲を裂くことになった。あゆみを押し倒す宮本。すり抜けたあゆみは床の楽譜を拾い続ける──。

 師走。マリア像の跡地で北野がタバコを吸っている。寄り添う千鶴子を北野は外国旅行に誘う。16歳で見た映画『サウンド・オブ・ミュージック』への憧れを語る千鶴子。旅立つように歩き出す二人。

 クリスマス前。加奈と幹夫が教室の片づけをしている。いよいよ改装工事が始まるのだ。「町が消えるってどんな感じだろう」と呟く加奈。

 そこへ正装した宮本がゆっくりと入ってくる。続いて蛭子と細野、ドレス姿のあゆみも。どれもあゆみが仕立てた衣裳だ。北野と千鶴子も加わり、黒の正装で居並ぶ彼らは葬列のようにも見える。松田だけがいない。

 机を繋げてステージを作る男たち。いつしか加奈たちも手伝い始める。遠くで雷の音。
 
 男たちが机の上に立ち歌い出そうとした瞬間、あゆみが「1号棟の林に煙が見える」と言い出す。他の誰にも見えない炎を見つめるあゆみ。

 戸口に松田が現れ、指揮者の位置につく。迫る炎に叫ぶあゆみを制し、松田が指を掲げる。男たちが最初の一音のために口を開く瞬間、暗転。

 「My Favorite Things」の曲が続く。

作者プロフィール:
1974年、兵庫県尼崎市出身。宝塚北高校演劇科卒業。95年に女性だけの劇団「芝居屋坂道ストア」結成する。劇団では劇作、演出、出演を担当。日常に垣間見える「生」の瞬間、喪失の記憶などを叙情的に描く作品に定評がある。2005年に解散。結婚を機に06年より岡山に移住し、現在は岡山を拠点に各地の劇団、制作団体に戯曲を提供している。99年『あくびと風の威力』で第4回劇作家協会新人戯曲賞佳作、北海道知事賞、07年『螢の光』で第4回近松門左衛門賞、14年『狭い家の鴨と蛇』で第20回劇作家協会新人戯曲賞など受賞歴多数。14年は『宝島』も第14回AAF戯曲賞最終候補にノミネートされた。
 
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