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痕跡─あとあと─
痕跡─あとあと─
痕跡─あとあと─
KAKUTA
『痕跡─あとあと─』
(2014年8月10日〜17日/青山円形劇場)
撮影:相川博昭
Data
[初演年]2014年
[上演時間]2時間15分
[幕・場数]1幕39場
[キャスト]17名(男10・女7)
注:場面によって複数役を兼任する俳優もいる。
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2015.3.31
Ato, Ato (Traces - On and On) by Yuko Kuwabara 
桑原裕子『痕跡─あとあと─』 
 劇団「KAKUTA」の劇作家、演出家、女優である桑原裕子の第18回(2014年度)鶴屋南北戯曲賞受賞作品。嵐の夜に起きた轢き逃げ事件。それから10年後、被害者の母は余命宣告を受けたことから息子の痕跡を再び探し始める。関係者の証言を辿りつつ、運命に翻弄される人々をサスペンス・タッチで描く。
 プロローグ。現場のアワヒ川近くでバーを営む事件の目撃者・黒沢の証言。今から10年前の台風の夜、黒沢は増水した川に飛び込みかけた男を止める。その直後、川沿いを歩く少年が車に跳ねられるところを目撃。少年は車に撥ねられた衝撃で川へ落ちて以来、行方がわからなくなった。黒沢が運転していた男の顔を見ようとした瞬間、強風で割れたバーの窓ガラスが刺さり、黒沢は片目を失明してしまう。怪我のせいで警察への通報が遅れたことを証言の中で振り返る黒沢。

 被害者の少年・折出有樹の母・聖子の家。癌で余命半年の診断を受けた聖子はフリージャーナリスト・木俣と共に、10年前行方不明になった有樹の痕跡をもう一度探す決意をしたと聖子の義理の妹・英子に話す。英子は動揺しつつも、看護士の自分も同行すると言う。

 同じ頃、仁志田墨助が経営するクリーニング工場。墨助は従業員の竹夫を、お気に入りの女の子がいる焼肉屋へ誘う。墨助の手には店のチラシがあり、そこに自分の写真が載っていると気づいた竹夫は「消せ!」と怒る。竹夫は10年前に川で自殺しかけた男だった。

 名古屋駅。出産のため帰郷する妻・みさをを沖が見送りに来ている。沖はブラック企業を退社後、公認会計士をめざし勉強中。みさをは出産の折には一緒に帰郷してくれと言って新幹線の切符を渡すが、沖の反応は鈍い。沖はあのひき逃げ事件で車を運転していた加害者。再びあの事件が起きた地元へ戻るのを恐れていた。

 焼肉店アガシに向かう墨助一行。竹夫の息子・瞬と、墨助の妹で竹夫と内縁関係にあるメイも一緒だ。アガシでは陽気な若い店長に迎えられ、墨助が執心するホステスのラーラと同僚の花子が接客につく。ここでもチラシを配った墨助は、竹夫に怒られる。瞬は花子と仲良くなり、また来ると約束する。

 聖子の証言。事件当日は銀行員の夫が転勤するための引越し前夜。苛立つ両親の口論を避け、有樹は外出したらしい。事故後、川から出た有樹の合羽以外の痕跡は見つかっていない。聖子は捜索を続けたが「川に流されてしまっただろう」という警察からの見解を受け、半年後に街を去った。「もっとできることがあったのではと、“あとあと”思った」と呟く聖子。

 聖子、木俣、英子たちは黒沢の店の2階を拠点にし、有樹の痕跡探しにとりかかる。

 竹夫のアパート。誕生日が近い瞬のため、メイは「大きな贈り物」の用意があると言う。

 工場。墨助は、瞬の写真に差し替えた新しいチラシをアガシに届けた時、ラーラが結婚すると聞いて落ち込んでいる。ラーラが中国人であることを指摘し、「永住権目当ての偽装結婚だろう」と言う竹夫。そこへ普段着の花子が瞬を訪ね、遊びに来る。

 捜索中に聖子が倒れ病院に運ばれる。そこは、みさをの父の病院だった。木俣が有樹と同じ名前、年頃の青年が八王子にいるという情報を持ってくる。聖子に休養させ叔母である自分が確かめに行くと主張する英子。

 情報の青年はアガシの店長だった。店を訪ねた木俣、英子、黒沢は有樹を名乗る店員を見つけるが人違いで、挙げ句に「親の都合で今さら探される子どもは迷惑だ」と言われた英子は怒って彼に酒をかける。墨助のチラシを渡し、「クリーニング代を請求する」と言う有樹。墨助は竹夫が写っている古いチラシを黒沢が持っているのを見て、写真を瞬に差し替えて刷り直した新しいチラシを黒沢に渡す。 

 帰宅した竹夫はメイに「プレゼント」について訊く。メイは竹夫が素性を偽っており、瞬も実の子でないことを以前から察していて、3人が家族になるための戸籍を作るつもりだと言う。

 退院する聖子を手伝うみさを。そこへ名古屋から帰郷していた沖が買い物から戻り、聖子が残した有樹のビラを見て凍りつく。

 川沿いを歩く木俣と黒沢。黒沢はクリーニング工場のチラシに、見覚えのある人物が写っていた気がすると言い出す。

 終業後の工場。誕生日ケーキを用意したメイが瞬を探しているが、姿が見えない。墨助から「瞬は花子と川にデートに行った」と聞き、動揺する竹夫。

 花子をアワヒ川に連れて来た瞬は、「自分には10歳以前の記憶がなく、父はアワヒ川で生まれたとしか教えてくれない」と語る。

 みさをの実家。沖が険しい顔で有樹の捜索サイトを見ている。「今日で事故から10年。夜には台風も来る」と言うみさをに、沖は「有樹を轢いたのは自分だ」と告白する。

 黒沢のバー。黒沢は古いチラシに掲載された竹夫の写真を「あの夜、川に飛び込もうとした男だ」と言う。だが、聖子は新しいチラシの瞬を見つめている。

 黒沢と工場を訪ねた聖子は、竹夫に「息子を助け、そのまま連れ去ったのではないか」と詰め寄る。竹夫は「瞬は俺の息子。母親はメイだ」と突き放し、メイも話を合わせる。聖子は確信が揺らぎ憔悴して帰って行く。

 木俣が店番するバーに、みさをと沖が訪れて状況を尋ねる。沖はたまらず「犯人は“その時”が来るとわかっているはずだ」と呟く。店を出た夫婦は帰ってきた聖子らとすれ違うが、傘に遮られ互いに気づかない。

 花子の家。彼女は日本に来てすぐ偽装結婚していた。瞬の過去を聞いたから、自分の話もする気になったと言う花子。秘密を分け合い、並んで横たわる二人。

 病院の新生児室。みさをはバーを出た直後に陣痛が始まり、出産していた。感動する沖に、みさをは「あのことは誰にも言わない。あなたも言わなくていい、この子のためにも。でも、二度とこの子は抱かせない」と別れを告げる。

 バー。一時帰宅する英子を見送ったあと、聖子は木俣に「捜索をもう諦める」と切り出し、「最後の頼みごと」をする。

 竹夫は帰宅した瞬に「お前は拾い子で本当の名は折出有樹だ」とぶちまけ、出て行けと言う。飛び出していく瞬。それは、竹夫が出頭することを決めたうえで、一時的に瞬を家から離すための芝居だった。

 竹夫の告白。10年前、事業に失敗し死のうとしていたこと、黒沢に止められた後、跳ねられた有樹を助けたこと。記憶喪失の有樹に、医師の前で「自分が父だ」と説明して以来、次第に懐く彼に救われたこと。

 「有樹の人生を奪い、瞬を私の人生にしたこと」の罪を一生償っていくと言い残し、竹夫は去る。

 木俣に頼んで自転車でアワヒ側周辺の町を巡っていた聖子は、最後に自転車で川沿いを一人で走りたいと言う。木俣はカメラでその背中を追う。

 川沿いを歩く瞬と花子。向かいから聖子がヨロヨロと走ってくる。2人の前で倒れそうになる自転車を瞬が支える。

 会釈し、すれ違う3人。瞬は歩き去るが、次の瞬間、聖子はすべてを見つけたように振り返る。

作者プロフィール:
東京都出身。1996年、劇団「KAKUTA」を結成。2001年より劇作・演出を手がける他、俳優としても出演し、中心的な役割を担っている。緻密なプロットによるウェルメイドな作風にこだわり、日常を生きる人々の感情を濃やかに描き出す。また、屋外や遊園地、プラネタリウム、ギャラリーなど劇場外の空間を利用した公演やリーディングも行っている。外部プロデュース公演や映像作品への脚本提供、外部での演出、出演も多数。代表作『甘い丘』では07年に第52回岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされたほか、09年再演時には作家・演出家として第64回文化庁芸術祭新人賞を受賞。外部に書下ろした11年の『往転』も同年の鶴屋南北戯曲賞と岸田國士戯曲賞の最終候補となった。
 
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