The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
Contents
外交官
外交官
劇団青年座 第218回公演
『外交官』
(2015年7月31日〜8月9日/青年座劇場)
撮影:坂本正郁
Data
[初演年]2015年
[上演時間]2時間30分
[幕・場数]2幕6場
[キャスト]10名(男のみ)
Japanese Drama Database
Contact
Play of the Month
2015.9.28
Gaikokan (The Diplomats)” by Moegi Nogi  
野木萌葱『外交官』 
 劇団「パラドックス定数」の座付き作家、演出家・野木萌葱による劇団「青年座」への書き下ろし。A級戦犯に問われた日本の外交官たち(実在の人物)が、東京裁判の法廷に初めて立つ日。日本がなぜ戦争へと身を投じ敗れたのか、外交官としてどう関わりどう責任をとるべきなのか、激論する彼らの姿を通じて国の命運に関わった男たちを描く。
 第1幕、プロローグ。1946年5月3日、極東国際軍事裁判の法廷前室。広田弘毅、松岡洋右、東郷茂徳、重光葵、白鳥敏夫らが開廷を待っている。入廷を促された5人の移動とともに、45年の戦艦ミズーリ艦上に場面が変わる。

 第1場。9月2日、ミズーリ艦上での休戦協定文書調印式。秘書官の加瀬、太田を伴った外相・重光が調印を行っている。マッカーサー連合軍最高司令官の演説に感じ入り、3人は日本の未来に希望を持つが、数時間後にはGHQから日本に軍政を敷くとの通達が。憤った重光はマッカーサーに激しく抗議し、命令を中止させる。

 事の次第を天皇に報告した重光に、攻撃の矛先が天皇に向かわぬようにと釘を刺す内大臣・木戸。

 第2場。9月12日、横浜アメリカ第八憲兵司令部で東郷元外相が事情聴取を受けている。聴取後、東郷は帝國ホテルに間借りする外務省を訪ねる。

 入り口で警備兵に止められた東郷は、居合わせた元外務省顧問の斎藤の機転で突破。出迎えた加瀬から、他所でも戦争犯罪人に対する聴取が始まったことを知る。

 東郷が去ると、斎藤は加瀬にそれぞれが責任の取り方を考えるべきだと話す。開戦以前へと記憶を溯っていく加瀬。そこへ重光が戻り、加瀬は「責任の取り方」を考えるための手立てを重光に提案する。

 第3場。9月16日、外務省事務室での会合。重光は、広田元首相、白鳥元駐伊大使、東郷らに対し、「この会合は戦前から戦後まで、この場の者たちが外交官として、それぞれ何を考えどう判断・行動したかを洗い出すためのものだ」と語る。そうすることが、戦犯になる可能性を持つ外務省関係者を救い、長く続く裁判の対策にもなるのだ、と。

 斎藤を連れ、遅れて来た松岡元外相も加わり、議論は紛糾する。重光の「責任を感じ、自らを恥じ、項を垂れて口を噤んだままでは、この国ともども前に進むことができない」との言葉に動かされ、それぞれが記憶を溯り始める。

 29年12月、上海領事館。シナを巡る陰謀で佐分利貞男が暗殺されたのではという広田からの手紙を読む総領事の重光を、関東軍作戦主任参謀・石原完爾が訪ねて来る。シナ内政不干渉を唱える首相と外務省の弱腰をなじり、軍部には行動を起こす用意がいつでもあると迫る石原。

 31年7月、満州・大連のホテル。外務省情報部長の白鳥と石原の秘密裏の会談。重光が、軍部の仕掛けた爆弾工作で片足を失ったことも語られる。外交強硬派の白鳥にも、軍部の暴走は許しがたく、話し合いは物別れに。石原は陸軍の軍事行動を示唆して去る。

 場面は45年の会合に戻り、一同は大連の会合から2ヵ月後に起きた満州事変こそが、太平洋戦争の遠因になったと論じ合う。「戦時外交は軍事行動と同じなのか」という問いに、各人の答えは分かれるが、そこには軍部に屈した外務省の姿が透けて見える。

 33年2月、スイス・ジュネーブで開かれた国際連盟総会。満州事変の責任を日本が問われるこの場に、松岡は首席全権大使として派遣されていた。満州からの撤退を迫る国連側に対し、日本政府は強行に自国の権益を主張。松岡自身は満州を国際管理下に置くという提案を飲むべきだと考えていたが、政府の承認を得られず。結果、松岡は連盟脱退を決断する。

 第2幕、第4場。45年の外務省事務室。連盟脱退は国や軍部の意向だけでなく、世論に押し流された結果だと重光が言う。それぞれの経験から軍部の台頭を許した原因を探る面々。広田は二・二六事件後、軍部に対して毅然とした処分を下せなかった自分が、日本を戦争に向かわせる基盤を作ったのだと悔いる。

 第5場。38年9月、ベルリンの日本大使館。駐英大使赴任前の重光が、駐独大使を解かれモスクワ出発目前の東郷と話している。東郷の後任でヒトラーを妄信する元軍人の大島が現れ、日独伊三国同盟の早期締結を声高に主張。東郷は激昂し、重光は一蹴する。

 翌年5月のローマ、日本大使館。駐伊大使の白鳥を、加瀬が重光の代理で訪ねている。日独伊の同盟に日本の未来を懸ける白鳥と、世界からの孤立を懸念する重光の意見を代弁する加瀬。両者に歩み寄りはない。

 第6場。45年の外務省事務室。三国同盟を自ら締結した松岡は一生の不覚だとつぶやく。重い空気のなか、それでも重光は戦争の遠因となった数々の出来事、その原因を問い続ける。同盟締結の理由、英米との関係悪化、東南アジアへの侵略、真珠湾攻撃、敗戦の見極め……。

 激論を交わしてなお5人の元外交官は、己の「罪」を確かめながらも「責任」の取り方を見出せない。うつむく他の4人に重光は「主権を取り戻し、他国と対等に渡り合える世界の一員たる日本になれるよう今後も努めよう」と語りかける。

 エピローグ。極東軍事裁判へ入廷の直前、広田は重光に向かい「誰かは必ず死ななければならない。そのために僕はここにいる」と言う(文官で唯一A級戦犯として死刑になった)。そして「この国と国民に、本当に申し訳ないことをした」と深く深く頭を下げるのだった。

作者プロフィール:
1977年、神奈川県横浜市出身。日本大学芸術学部演劇学科劇作コース(第1期)卒業。中学2年の時に劇作に目覚める。高校進学後は演劇部にて劇作・演出を担当。大学在学中の98年に、ユニットとして「パラドックス定数」を結成し『神はサイコロを振らない』を上演する。2007年、代表作となる『東京裁判』初演時にメンバーの固定化を受け劇団化。史実や実際の事件・人物を題材・枠組みに用い、大胆な想像力で物語を創造。濃密な人間関係より生まれる緊張感のある会話劇を得意とする。主な作品に、グリコ森永事件の裏側を大胆に推測する『怪人21面相』、大杉栄と彼を取り巻く社会主義者たちの姿を描いた『インテレクチュアル・マスターベーション』、2.26事件当夜を描く『昭和レストレイション』など。
 
TOP