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カスリン・マクドウェル
カスリン・マクドウェル
(Kathryn McDowell)
data
コーポレーション・オブ・ロンドン
(Corporation of London)

ロンドンは32の区とthe Cityに行政区が分かれている。シティの行政を担う自治体を称して呼ばれているのがコーポレーション・オブ・ロンドンである。他の区役所などの地方公共団体と同様、地元の警察、消防、道路清掃など一般の行政サービスを担っているが、居住人口が他の区と比べ極端に少ないことなどから、伝統的に、議会や市長は、政党別のいわゆる普通選挙とは違う方法で選出、指名される。コーポレーション・オブ・ロンドンの存在意義は、むしろ、世界の金融の中心であるシティの発展と宣伝にあるといわれ、この地域だからこそ得られる潤沢な法人税を活用して、バービカンセンターの運営を始め、文化芸術活動にも多大な補助を行っている。
http://www.cityoflondon.gov.uk/Corporation


*最先端の現代建築
ここ数年、建設ラッシュに沸き、多くの新しい建築が生まれているが、シティでは、2004年夏に完成したサー・ノーマン・フォスター設計による超高層のスイス・リ再保険会社ビル(その形状から、「ガーキン=ピクルス用のきゅうりという意味」との愛称で呼ばれる)が注目を集めた。80年代中旬には最新技術を駆使したリチャード・ロジャース卿のロイズ保険会社の本社社屋が建設されており、教会など古い建築とともに並存している。
An Overview
Presenter Interview
2005.7.20
The  
世界の金融センター「シティ」に根ざした シティ・オブ・ロンドン・フェスティバル  
古い教会などの歴史的建造物と最先端のビジネス街が融合した「シティ」。歴史的建造物を会場にするなど地域の特徴を活かし、立地企業との連携により実施されているこのフェスティバルについて、ディレクターのカスリン・マクドウェル氏に聞く。
(聞き手:稲葉麻里子)
※このインタビューはロンドンで発生した同時爆破テロの前に収録したものです。



──フェスティバルの歴史と成り立ちについて教えてください。
シティ・オブ・ロンドン・フェスティバルは、エディンバラやブライトンと並ぶ、英国で最も古いアートフェスティバルの一つで、60年代初めに始まりました。
シティは、独自の市長、議会、コーポレーション・オブ・ロンドン*と呼ばれる行政サービスを持つ、ロンドンで最も古い自治区です。セント・ポールを中心に、50にもおよぶ古い教会があるなど由緒ある建造物に恵まれる傍ら、今ではオフィスビルとしての最先端の現代建築*も林立しています。シティ内の居住者は5000人ですが、勤務する昼間人口は50万人に上ります。日本を始め、グローバルな多国籍企業がひしめきあう、世界の金融と商取引の中心地として知られている一方で、シティのわずか数マイル外には、ロンドンの中でも、非常に貧しく、恵まれない地域が広がっています。
フェスティバルは、ビジネス街という、せわしく、無味乾燥になりがちな地域に芸術文化を取り入れよう、という当時の市長の発想から始まりました。フェスティバルの総裁は市長が、副総裁はセント・ポール大聖堂の司祭が務めるのが慣習となっています。シティの市長は、Lord Mayorと呼ばれ、その年に最も活躍したビジネス界などの有力者が1年の任期で就任する、名誉職に近いポストですが、代々の市長は、シティにおける文化活動の必要性を感じているようです。70年代後半に設立されたバービカン・センターも、今ではパフォーミング・アーツにおける、シティのみならずロンドンの主要な会場になっています。
フェスティバルの開催時期は、毎年6月下旬から7月初めの3週間、夏休みを控え、皆がうきうきした気分になっている時期を生かして、シティにあるあらゆる建物で、コンサート、パフォーマンスが開かれます。セント・メリー・ル・ボー教会で鳴らされる鐘が、フェスティバルの開催を告げます。訪れる人も様々で、シティで働く人、住む人、またシティの歴史や建築に興味のある人たちなど、幅広い層を巻き込んでいると思います。私は2001年にフェスティバルのディレクターに就任しました。

──フェスティバルの特徴、英国の他のフェスティバルとの違いは何ですか?
シティというユニークな地域の特性を生かしていることがあります。ここにある建造物が示しているように、古い伝統と、最先端が共存している街ですから、それが反映されるようなプログラムにしています。分野としては、シティにはバービカンセンターがあり、そこではBITEという演劇月間が同時期に開催されていますので、フェスティバルの事業は音楽、ヴィジュアルアーツを中心としています。
私たちのフェスティバルは、まず会場ありき、です。フェスティバル用のメイン会場を持つのではなく、シティならではの面白い建物を十二分に生かして、そこでどうやって一流のパフォーマンスを見てもらうか、聞いてもらうか、ということを考えます。シティのすぐそばには、サウスバンクやサドラーズ・ウェルズなど一流のホールや劇場があるわけですから、そこでできる体験をあえてフェスティバルでする必要はありません。
そこでどうするかというと、例えばギルドホールの利用があります。ギルドホールは、昔から、金細工、繊維業など各職業組合が所有する集会所という意味ですが、由緒ある素晴らしい建物であるにもかかわらず、普段は一般公開されていません。ですが、フェスティバルの期間はここもコンサート会場に提供してもらいます。同じように、ロイズやスイス・リーの本社など最先端の現代建築として国際的に知られるオフィスビルも、フェスティバルの会場の一つとなります。例えば、今年は、ロイズビルのアトリウムで、有名なピアニストのジョアナ・マクレガーが、7月4日、シティの重要な取引相手であるアメリカの独立記念日に、アメリカの現代作曲家の作品を演奏します。この横には古くから交易船の出航時に鳴らされている鐘があるなど、歴史的にも意味のある所です。
また、シティの景色が360度見渡せる、ノーマン・フォスターによる、画期的なデザインのスイス・リーの本社、通称「きゅうりビル」では、この建築と同じくらいに、その時代に衝撃的と称された、シュトックハウゼン70年代の作品『シュティムンク』が歌われます。もちろん、シティのあらゆる通りにある小さな教会でも、古典から現代を曲目に取り入れた室内楽や合唱のコンサートを行っています。これらの教会は、セント・ポール大聖堂で知られるクリストファー・レンが習作として設計したといわれていて、ここでいくつか音楽を聴いて、最後に、セント・ポールでの大規模なコンサートに行けば、この偉大な建築家の軌跡も同時に感じられると思います。
プログラムを組んでいて印象的だったのは、一流アーティストと言えども、必ずしも大きなコンサートホールではなく、小さくても自分の好きな雰囲気のスペースで演奏することも望んでいる、ということです。ヴァイオリンのヴィクトリア・ムローヴァなども、ある小さな空間で自分のミュージシャンと共に、実験的なコンサートをやりたいと提案してきました。魅力的な会場がアーティストを呼ぶ、ということが強みとなり、お陰で他のフェスティバルに遜色のない高い質のパフォーマンスを提供することができています。
ベテランのアーティストが特別な会場で意欲的なプログラムを組む傍ら、同時に活動を開始してまもない才能ある若手を紹介することにも力を入れています。今年でいえば、今やパーカッション界の女王ともいえるエブリン・グレニ−から、昨年デビューしたばかりの、アンナ・デニスという素晴らしい歌手も登場します。また、教会や街の広場などを生かした、無料のランチタイムコンサートなどのイベントも、フェスティバルを通じて行われています。
ヴィジュアルアーツについても少し紹介しましょう。先にご紹介した最新の建築や古い教会に呼応するようなインスタレーションをアーティストに委嘱するプログラムもあります。面白いのは、フェスティバル自体が展覧会を企画しなくても、シティには宝のような絵画や美術品があるということ。例えば、ベアリング、ウォーバーグ、ドイツ銀行といった企業は素晴らしい絵画のコレクションを所有しています。セキュリティ上、普段は公開されていませんが、フェスティバルの期間に限って、予約制で、これらを巡るツアーが行われています。アート好きにはたまらない企画ですし、企業側も、自社を宣伝する良い機会だと喜ばれています。
他に、シティの名所旧跡を訪ねるウォークラリーや、建築についての講演会も行われ、アートを通して街の魅力を楽しむことができる、というのがこのフェスティバルの特徴といえると思います。また、英国芸術祭協会(www.artsfestivals.co.uk)という組織もあり、定期的に会合がありますので、それぞれのフェスティバルが主張したい個性を尊重しながら、プログラムについての調整や意見交換は適宜行っています。
 
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