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Presenter Interview
Founder Val Borne talks about   the Dance Umbrella festival
創設者ヴァル・ボーンが語る フェスティバル「ダンス・アンブレラ」とは?
──ダンス・アンブレラの、フェスティバルを貫くテーマというか、根幹を説明していただけますか?
漠然としてバカげて聞こえるかもしれませんが、とにかく「Excellence(絶品さ)」、ですね。それと「Diversity(多様性)」。“国別”という風な考え方はもっていません。「フランス」というテーマが今回はありますが、だからこそこれが初めてのことになるわけです。といったところで、今回だって米国のマーク・モリスも入っているし、米国人でドイツにいるフォーサイスもいる。カナダのダニエル・ルヴェルもいるし、そのほか8つの英国のカンパニーが混じっています。だから「これこれの国のダンスをテーマにしています」というような機軸はまったくありません。まぁでも、もしも国別という考え方でテーマを組んだら、おそらくフランスとアメリカくらいしかテーマになり得ないでしょうね。この二つの国からであれば選択肢は十分にありますから。実際、今回ももっと予算があればフランスから持ってきたいものはもっとありましたね。

──イギリスという国は、一般には「ダンスの国」というよりも「演劇の国」という風に認知されているように思うのですが…。劇場の数をとってみても、ダンスの劇場はいくつかあるだけですが、演劇をやる劇場は数限りなくあります。
確かにそうですね。何しろシェイクスピアで始まっていますし、我々の文化は「文字」というか、文学をよくする国です。ただ、ダンスは急成長しています。私たちがフェスティバルを始めた78年には、イギリスには12個のダンス・カンパニーと4人のソリストたちがいるだけでした。でも今はダンス・カンパニーが少なくとも300はありますから。

──現在のダンス・アンブレラの「使命」は、イギリスのアーティストをプロモートするというのではなく、とにかく「Excellent(絶品)」なものをプロモートする、という姿勢なのでしょうか?
「Excellent」なものをプロモートするのと同時に、イギリスのアーティストを国際的な文脈の中で紹介するということも大切な使命です。よその国から作品を探す時には、英国産のそれより優れているものを選ぶという視点と、英国内では見られない種類のものを選ぶという視点とがあります。つまり、「どこかしら違って」いて、しかも「特別なアイデンティティーやキャラクターがある」ものを選ぶわけですね。と言っても私がたったひとりで選ぶのではなく、同僚のベッツィー・グレゴリーと一緒にものを見て一緒に選ぶわけですが。または私が見たことの無いものでも彼女が選んだものを──彼女の目を信用していますから──そのまま採用したりもします。

──「今年はじめて」という話をするならば、もうひとつ『Brief Encounter(簡潔なる遭遇)』というシリーズがありますね。これは新人のアーティストをサポートするための新企画ですか?
ふたつの路線を狙って作ったものなんです。ひとつは、新人のため──かつて一度もダンス・アンブレラに参加したことの無いアーティストのための参加の場所として──つまり、フェスティバルの構成の枠を広げて若いアーティストも取り込もうという試みです。もうひとつは、中堅や大物クラスのコレオグラファーでも、見せたいものが一晩ものの作品ではなく20分とか30分とかの小品であれば、そんな作品も取り上げていきたいという思いで企画しました。実はローズマリー・ブッチャー──もう20年か25年くらい活躍しているエスタブリッシュしたイギリス人のソロの振付家ですが──が、今年はすごく小さな20分くらいのソロを作るというので、それをこの『Brief Encounter』に含められればと思っていたのですが、結局彼女はもっと長い作品にしたいということになり、そんなわけで、第1回目の『Brief Encounter』は新人ばかりになりました。
『Brief Encounter』には、ちょっとした仕掛けがあります。サドラーズ・ウェルズ劇場とベイリス・スタジオとは、入り口は別々ですが同じビルの中にあるでしょう。だから、例えばメインの劇場のサドラーズ・ウェルズで7時半開演のプログラムを見る予定の人が、どうせだから、と、その前早くに出かけてきて6時半から始まるベイリス・スタジオでの小さな出し物をついでに見る。ベイリスでの演目は20分とかせいぜい30分の小作品が一本だけですから「ついで」に寄ることができるというわけ。サドラーズ・ウェルズでのその晩のチケットを持っている人は、ベイリス・スタジオへの入場料は無料です。ただ、サドラーズ・ウェルズは1500席、ベイリス・スタジオは150席程度ですから、全員が入れるわけではなく早いもの勝ちですけれど。それに加えて、ベイリス・スタジオの出し物だけを見るという客──この人たちは、5ポンド、まぁ安価ですが入場料を払わなければなりませんが──もいますから。

──なるほど、面白い。ボクシングなどである「前座マッチ」みたいなものですね。
そう。観客にとってのウォーミングアップ。サドラーズ・ウェルズの観客はとてもコンサバティブで、新しいものを見ようとしないんです。彼らをなんとか惹きつけて、小さな、でもまったく新しいものをかいま見てもらう──これが『Brief Encounter』のコンセプトです。面白いでしょう? さて、うまくいくかどうかお楽しみに(笑)。

──その『Brief Encounter』に出演するアーティストも、小品といえどもちゃんと公演のギャラは受け取るのですか?
もちろん。彼らに対する待遇は、正規のプログラムと同じです。

──昨年のフェスティバルの入場者は3万9千人でしたね。その人口の内訳はどんなでしたか? 年齢層とか、白人だとかインド系だとかの人種の構成は?
劇場によっていろいろです。例えばサドラーズ・ウェルズの客は、だいたい高年齢・高収入の人たち。あの劇場に若い観客を取り込むには、入場料の操作が必要です。サドラーズ・ウェルズの良い席は25ポンド(約5000円)くらい。日本に比べればたいしたことのない金額かもしれませんが、イギリスではこれは高額です。12ポンドという低料金の席もありますが、すごく後ろの遠くの良くない席です。そこで、ダンス・アンブレラでは、ステージにかぶりつきのところに立ち見席を作った。すごく良い場所だけど、料金はたったの5ポンドです。楽ちんな靴さえ履いてくれば文句なし(笑)。人気は上々です。このチケットを買う人たちの多くは、ダンスを見たり劇場に行くという習慣の無い人たちで、でも「たった5ポンドだし、ちょっと試してみるか」という動機で出かけてくるわけです。彼らが初めてサドラーズ・ウェルズに来たというのはすぐわかります。最寄りの地下鉄の駅では、「劇場はどっち?」と道順を聞く人たちを多くみかけますものね。この立ち見席のシステムは4年続けていますが、とても成功しています。

──では逆に、サドラーズ・ウェルズの常連客は、例えばザ・プレイス・シアターのような実験的な小劇場に出かけて行くのでしょうか?
ほんの少しですね。それを改善するためにフェスティバル全体のチケットを一カ所で買えるボックス・オフィスの仕組みを作ろうと努力しているのですけれど。もしもそういうボックス・オフィスがあれば、4〜5カ所の違った劇場で行われるプログラムのチケットが一度に購入できる。でも、各々の劇場はそれぞれ別々のルールでチケット販売をしていますので、実現はとても困難です。だから、「フェスティバルの演目のまとめ買い」ということができない。チケットの購入者は、いちいち別々の劇場に電話をかけて、別々にチケットを買わなければなりません。
フェスティバル全体の傾向を言えば、そうですね、かつては女性が7割、男性が3割でした。これが近年変化していて、いまでは6対4くらいの割合になっていると思います。プレイス・シアターではおそらく5対5に近いですね。

──フェスティバル運営費の5割が、国の援助で成り立っていますね。このことによって「入場料を安くおさえて若い観客開拓をしなければならない」というような制約とか義務が生じているのですか?
いえ、私たち自身が、料金を抑えたいと思っているのです。高年齢・高収入の客しかいないというのは、危険なことです。若い世代の客が足を向けるようにしていかなければなりません。

──高年齢・高収入の人たちが高いチケットを買ってくれれば、フェスティバル自体の経営は安定する、でもフェスティバルに未来の観客がいなくなるからですね。
その通り。面白いことに、劇場以外の場所でプログラムを組むと、新しい観客が来てくれるんですよ。最初にやった“劇場以外”のプログラムは、米国のコレオグラファーのサイト・スペシフィックの作品(注:その場所の特殊性を生かして演じるよう作られた作品)で、国立歴史博物館でした。その次が大英図書館、国立スポーツ・センターのクリスタル・パレス。テイト・モダンでマース・カニングハムのもやりました。今年はまたテイト・モダンが会場になっていますが、それがさきほど言及したローズマリー・ブッチャーの作品です。

──なるほど。様々な種類の場所を会場にすることが、新しい観客を開拓するための武器になるということですね。それが理由で「ダンス・アンブレラ」のホームというべき場所を作らないでやってきているんですか?
ひとつの建物の中にとどまりたいと思ったことはありません。例えばローザスに『Rain』や『Drumming』といった大がかりな舞台をやってもらった時はサドラーズ・ウェルズでやりました。でも2年前に、ローザスを率いるアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルがソロをやりたいと言った時──そしてそれは面白いことだと思ったのですが──にはプレイス・シアターでやりました。そんなフレキシビリティーがあるんですよ。今年はジョセフ・ナジがグリニッジ・バレエ・ホールの中に特設舞台を作ります。巨大なカラッポのスペースなのですが、その中に180席の特設会場が建設されるんです。

──なんかお金がかかりそうですが(笑)、資金源は?
そもそもはカンヌのダンス・フェスティバルのためにフランス政府が新作委嘱してできた作品ですから。ナジはプレイス・シアターでという話もありましたが、彼のやりたいところでやらせるという方針を貫いて、特設会場をしつらえることになった。もしもある作品にとってバービカン・シアターが最もふさわしければバービカンを、サドラーズ・ウェルズならサドラーズ・ウェルズを、ということができるのが、フェスティバル自身のホーム劇場を持たないことの利点です。もちろん不利な点もありますよ。例えば、さきほど述べたボックス・オフィスの問題とかね。
 
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