The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
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マイケル・マース
マイケル・ジョージ・マース
(Michael George Maas)
ARTSCAPE支配人
data
ARTSCAPE
D F Malan Street
Foreshore
Cape Town
8001
tel: +27 (0) 21-410-9800
fax: +27 (0) 21-421-5448
artscape
http://www.artscape.co.za/
Presenter Interview
2006.3.29
South Africa's comprehensive culture center  ARTSCAPE and its programs 
南アフリカの総合文化センター ARTSCAPEの取り組み 
南アフリカ共和国のパフォーミング・アーツの現状について、同国第二の都市ケープタウンにある「アーツケープ」劇場(ARTSCAPE THEATRE CENTRE)の支配人(Chief Executive)、マイケル・ジョージ・マース氏に、同劇場の活動状況とあわせて話を伺った。
(聞き手:田中伊都名)


──日本では南アフリカの舞台芸術事情はあまり知られていません。まずマースさんが支配人をしておられるアーツケープの概要から教えてください。
歴史的な背景からお話しすると、アーツケープの前身は「ケープ・パフォーミングアーツ・ボード」(以下、CAPAB)でした。CAPABは、演劇、オペラ、バレエ、オーケストラのプロダクションのカンパニーとして1967年に発足しました。劇場の運営と作品制作のための資金はすべて南アフリカ政府から出ていました。ここでプロデュースされた作品はクオリティーの点からみても素晴らしく、国際的水準の舞台を生み出せるカンパニーだったと思います。
1994年の初の民主主義的な総選挙により、南アフリカ共和国の政治ではさまざまな変革が行われたわけですが、芸術の分野も例外ではありませんでした。当時、南アフリカでは4つの舞台芸術の組織が──ケープタウン(CAPAB)、ブルームフォンテーン、プレトリアとダーバンという主要都市に1つずつあって──政府からの舞台芸術に関する補助金の大部分を受け取っていました。
新体制となり、より多くの南アフリカの人々に、より公平に資金を配分するための制度が政府により導入されました。4組織が主に使っていた資金は、「ナショナル・アーツ・カウンシル」という新たに設立された組織にまとめて与えられ、ナショナル・アーツ・カウンシルが南アフリカのより多くの芸術団体に平等に資金を分配することになりました。
その結果、4組織は次の解決策のいずれかを選択せざるを得ないことになりました。 a) 資金を調達し、カンパニーの一部として芸術制作団体(アート・フォーム)を維持する。 b) 所属する芸術制作団体を解散する。 c) 芸術制作団体はインフラ面での支援体制を受けながら、自ら資金を調達していく──といった選択肢です。
1997年に私が支配人に着任した時、CAPABには800人もの雇用者がいました。その中には、オペラ歌手、演劇の俳優、オーケストラの演奏者、バレエやコンテンポラリーダンスのダンサーたちなど、たくさんのアーティストが含まれていました。
CAPABの財政状況はよくなく、自由になる限られた資金では劇場と芸術制作団体の双方を維持することはできない、と私は判断しました。しかし、今までと違った芸術制作団体も好ましくないし、長年かかって培い蓄積してきた経験が失われるのはもったいない……。
そこで、私たちは芸術制作団体を分離し、それぞれが独立した運営機能を持って作品制作のための資金を探すという形をとりました。「ケープタウン・オペラ・カンパニー」「ケープタウン・シティ・バレエ団」「ジャズアート・コンテンポラリー・ダンス・シアター」「ケープ交響楽団」の4つです。
演劇の分野でプロの劇団をつくるということは、私たちのところのみならず国内全般に当てはまるのですが、カバーできなかった点です。役者たちはカンパニーに所属していたとしてもフルタイム雇用ではなく、しばしば1つのプロジェクトから次のプロジェクトへ渡り歩くという形で活動しています。南アフリカにはたくさんのフリーランスの俳優がいますが、彼らが演劇を学びながらいろいろな作品に出演して知識を増やし経験を重ねることができる仕組みがまだありません。
アーツケープは、事務部門のインフラ、財政的人的な資源のマネージメント、劇場のスペースの割り当て、それから他の運営面技術面での支援を提供することによって、分離した芸術制作団体を援助しています。
アーツケープが政府から受け取る助成金は、劇場の運営費、劇場のインフラストラクチャーを動かしていく経費、舞台技術および劇場運営のスタッフの費用などに充てられています。現在のこのスタイルは、(カンパニーをもたない)日本の多くのコンサートホールや劇場に似ていると思います。

──「劇場(THEATRE CENTRE)」として再出発したわけですね。
1999年、「CAPAB」の組織は「アーツケープ」となり、制作団体から劇場へと完全な変身を遂げました。新しいスローガンは「芸術を人々へ、人々を芸術へ」。新しいヴィジョンは、芸術作品をより大きな枠組みの中で提供していくこと。そこで、以前は目を向けていなかった芸術制作団体を、分離・独立した古典的な分野の芸術制作団体と共に組み込んでいき、また、自分の作品を上演したいと希望する演劇のグループやプライベートのプロデューサーたちに劇場のスペースをレンタルするということで、劇場で上演される演目の多様化を図りました。過去にはオペラ、バレエ、オーケストラ、演劇が中心となっていましたが、現在は、さまざまな芸術制作団体による幅広い作品を提供できるようになりました。
しかし、真の多様性に到達するためには、さらに南アフリカ固有の舞台芸術を育み発展させていかねばなりません。日本には高い水準に達した能や歌舞伎のような舞台芸術があって、多様性があると思います。

──観客の育成、アーティストの養成といった面ではどういう活動をしていますか?
アーツケープは単なる芸術制作団体の集まりではありません。観客育成、コミュニティーへのアウトリーチ、教育の面で重要な役割を果たしています。私たちの目的は、人々を劇場に連れてきて、そして劇場を人々に届ける、ということです。
1994年より以前、南アの社会の大部分の人々は舞台芸術から閉め出されていました。彼らはバレエ、オペラなどの公演を見たことがなく、可能性に満ちた人たちが自分の芸術的才能を伸ばす機会もありませんでした。
アーツケープではいろいろな活動をしていますが、その中でも2002年に新たに設立した「リソース・センター」は、こういった未知の才能に着目して育み、より広い活躍の場を提供し、技術と才能の宝庫をつくり上げようというものです。トレーニング・プログラムには、コンピュータ関連の講座や、読み書きの教室もあります。そういう人たちがコンピュータに触れてデータ・ベースへアクセスしたり、いろいろなアートのアーカイブを利用していってもらうためです。舞台芸術に関する多方面のトレーニング・コースは、しばしば第三者機関との協力により行われています。
常に努力しているのは、黒人のアーティストたちに機会をつくり、演技やオペラ、合唱といった彼らの自然な才能をもっとも発揮できるような芸術制作団体を育成していくことです。現在すでに多数の国際的水準のオペラ歌手と舞台俳優が現れています。
私たちの劇場はまた、コンテンポラリーダンスにも力を入れています。ダンスには異なる文化のグループに橋をかけ人々を結びつけていく素晴らしい作用がありますからね。
アーツケープは他にも2つのトレーニング・プログラムを開設しました。「ニュー・ライティング・プログラム」は、書く才能はあるがまだ書くのに必要なことを学んだ経験のない人を対象にしています。教室に参加して脚本を書き、良いものに仕上げていきます。場合によっては、とても良い脚本は、トライアル上演(ショーケース)が行われ、観客の前で公開されることもあります。これまでに2本の作品が4年間の準備期間を経て完全上演まで至るという成果を上げています。
2つ目は舞台の技術スタッフ養成のための2年間のプログラムです。舞台技術を若い人たちが学ぶ機会は、学校での講座はもとより実技研修コースのようなものさえも国内にはほとんどありませんでした。現在、劇場で舞台技術者として働いている人々の多くは、現場で学んで成長してきた人ばかりです。研修プログラムでは、劇場構造のいろいろ、音響デザイン、照明デザインといった劇場の技術サイドのあらゆる事項について学びます。現在8人の研修生がいますが、研修終了後、何人かはアーツケープのフルタイムのスタッフに選ばれると思います。パフォーミング・アーツの他の分野で活躍する人も出てくることでしょう。
 
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