The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
Contents
Presenter Interview
What is SESC, the Brazilian organizations that runs 30 comprehensive culture and arts facilities in Sao Paulo State
サンパウロ州内だけで30もの総合文化センターを運営するセスキ(SESC)とは?
アンティゴネ
アンツネス・フィリョ監督の最新作『アンティゴネ』
Photo: Nilton Silva
アンツネス・フィリョ
演劇監督アンツネス・フィリョ氏とCPT演劇研究センター員の女優たち
Photo: Evelyn Ruman
──リカルド・フェルナンデス氏はセスキの舞台芸術部門の責任者として14年間勤めた後、現在は独立プロデューサーとして活躍されています。現在、その舞台芸術部門はどうなっているのですか?
彼は独立してからも、常にコンテンポラリーで前衛的な傾向を持つ事業企画を進めており、セスキの受け入れ企画を提案してくれています。フェルナンデス氏は今でも、セスキのコンテンポラリーについての見識そのものなのです。彼は以前の舞台関係事業のみならず、演劇、ダンス、美術などをコラボレートする複合的な企画を提案してきます。これが本当の意味で現代を反映した文化事業かもしれませんし、彼はそれをよく感知しています。
また、フェルナンデス氏は14年間のキャリアから、セスキの組織構造や事業方針をよくご存知です。ちょうど今、日本から「劇団解体社」というグループを招聘し、ブラジル国内公演を行う準備を進めています。また、6月にドイツで行われるワールド・カップ関連文化事業の一部のキューレーションも担当しています。彼は、ドイツと日本を中心に交流していて、最先端のコンテンポラリーな企画をキュレーションするには最適な人材です。

──各部門はすべてセスキ職員が担当しているのですか?
セスキは常に職員の育成に重点を置いてきました。職員全員、あらゆる専門講座や外国に留学するチャンスがあります。私はその制度のパイオニアでした。私自身、70年代にスイス、ローザンヌの高等行政学院に留学し、その後は多くのセスキ職員をそこに送り込み、文化・レジャー行政の高等教育を受けさせています。それによって、職員はより豊かな知識をもって業務を果たすことができるようになります。
ブラジルでは、社会文化関係の仕事をするために特殊な知識を持つ必要はないという観念がどこかにあります。それは大きな間違いです。その分野で活躍するためには、アーツアドミニストレーション、アーツマネージメントの基礎はもとより、企画力を養う必要があります。セスキでは、その分野のプロを積極的に育成しています。
セスキ職員は事務からスタートして管理職になる仕組みになっています。しかし、セスキ職員のみによる組織ではなく、他の機関や団体からも専門家を受け入れて、新しいプロポーザルや視点を提供してもらっています。セスキにおける人材育成は理論や理想に留まったものではなく、実践的に行われています。

──セスキと演出家アンツネス・フィリョの関係について教えてください。
1980年代初期には、アンツネス・フィリョはすでに演劇、テレビでも活躍し、多くの名作を世に送り出していましたが、彼の夢は舞台俳優、演出家、劇作家、照明技術者など、いわば舞台のプロフェッショナルを育成するセンターを作ることでした。彼は1982年にセスキにその案を持ちかけ、演劇研究センターの設立を提言しました。アンツネス・フィリョは仕事の上では類のない厳格な人物です。私は彼のことを「演劇の禁欲者」と呼んでいるほどです。アンツネス・フィリョの場合、仕事に対する厳しさに増して、計り知れない実行力と創造性を備えています。彼はおそらく、この国で最も偉大な演出家でしょう。
セスキに職員として受け入れられることによって、彼の希望も叶い、今や演劇研究センターでは、舞台俳優やディレクターなどが養成されているのをはじめ、ブラジルの演劇・テレビ界で活躍するスター達を送り出し続けています。また、照明技術者、セットデザイナーや衣裳デザイナーなども養成されています。
最近では、演劇グループも創設され、活動しています。セスキではアンツネス・フィリョの創造活動のために、劇場や稽古場だけでなく、舞台美術や衣裳を制作し、印刷物を制作するための工房も提供しています。
アンツネス・フィリョは、ブラジルに初めて大野一雄を紹介した功労者でもあります。故楠野隆夫(70年代後半にブラジルに移住した日本人舞踏家。暗黒舞踏をはじめ、ブラジルのダンス界に新鋭な息吹を与えた)の家族と国際交流基金と共同で実現しました。大野一雄は世界中の舞台にインパクトを与えた革命的なアーティストですが、もはや、セスキの一員と言ってもいい存在です。

──セスキの舞台芸術関係事業はマルチカルチャー的な特徴を持っているように思います。
そうですね、それが条件なのです。セスキの文化事業の戦略の一つがまさに多文化主義に基づく多様性の追求と、文化的相違に対する尊重なのです。ですから、セスキでは伝統文化の紹介の場も提供しますし、革命的で前衛的な表現も紹介できるわけです。
ここで強調すべきことは、とてもデリケートな見解なのですが、アートにはトランスグレッション(境界侵犯)が欠かせないということです。文化の発展と向上には一種の破壊行為が必要なのです。ピカソが女性の顔を断片的に3つの次元に解体して描いた行為は革新的で、トランスグレッシブでした。定められた境界を侵犯する行為は、舞台芸術はもちろん、アート一般に適用することができますし、そこにある多文化主義、価値の多様性を受け入れることはお互いの尊敬に基づいています。つまり、セスキの主となるプロジェクトである社会福祉というのは、極端な平等性 に基づく人間の社会的評価を基本にしているのです。それは宗教的なあるいは政治的な意味合いを持ちません。文化的問題なのです。文化的観点から見れば、人類はすべて原則的に平等なのです。

──その観点からすると、ブラジルの多文化主義の基盤は整っているのではないでしょうか。
ある意味ではそうですね。多民族国家ですから、当然のことながら文化の多様性はブラジルのアイデンティティと一致します。大阪の民族博物館の中牧教授もそう言われていました。「ブラジルは多文化国家として発展し、世界史において大きな役割を果たすことになる」と。また、同じ多民族国家であるアメリカはデカダンスに陥っているとも言われていました。私はこの話をさらに展開するだけの知識を持ってはいませんが、確かに、アメリカ国内における民族コミュニティ同士の交流は薄いですし、ゲットーもあります。それに比べれば、ブラジルには経済・社会的な問題はありますが、ブラジルを形成するあらゆるコミュニティ同士の交流は極めて健全に行われていると言えます。
 
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