The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
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ゴー・チンリー
ゴー・チンリー(Goh Ching Lee)
シンガポール・ナショナル・アーツカウンシル アーツクラスター・ディベロップメント・シニアディレクター、シンガポール・アーツフェスティバル ディレクター
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シンガポール・ナショナル・アーツカウンシル

http://www.nac.gov.sg/


シンガポール・アーツフェスティバル

http://www.singaporeartsfest.com/
*エスプラナード
2002年にオープンしたシアターコンプレックス。2,000席の劇場、1,600席のコンサートホールの他、それぞれ200席強のキャパシティを持つシアタースタジオ、リサイタルスタジオを持つ。また、屋外スペースでは毎週末無料のイベントが実施されるなど、シンガポールのパフォーミングアーツの中心としての地位を確立している。
www.esplanade.com

*アーツハウス
1827年に建てられた旧国会議事堂を改装したアーツセンター。2004年にオープンした。展示ギャラリーの他、小規模なブラックボックス、映画上映スペースを持つ。
www.theartshouse.com.sg

*ドラマセンター
2005年11月にオープンした、シンガポールで最も新しい劇場。旧ドラマセンターは1955年に開設され、特に地元劇団の作品が多く上演され親しまれたが、シンガポール歴史博物館の増改築のために2002年に閉鎖。それに代わる劇場として、新築された国立図書館内に開設された。ナショナル・アーツカウンシルが直接管理する劇場の一つ。615席のプロセニアム・シアターの他、120席のブラックボックスを持つ。

*2年間のメジャーグラント・スキーム
アーツカウンシルが指定する主要な芸術団体に対し、活動費および作品製作費を2年間にわたって助成するスキーム。2005年時点では6団体が指定を受けており、年間2百万ドルを超える助成が行われた。インタビューに登場するシンガポール・ダンスシアター、ネセサリー・ステージ、シアターワークスも指定団体に含まれている。
Presenter Interview
2006.6.6
A look at the Singapore arts scene, invigorated in recent years by new theaters and festivals 
新劇場やフェスティバルなど、活性化するシンガポールの芸術文化シーンに迫る 
シンガポールでは、近年、地域でも最大級の劇場であるエスプラナード(The Esplanade)をはじめ、アーツハウス、ドラマセンターなど注目すべき新しい劇場が次々オープン。また、2000年に発表された、政府の「ルネッサンス・シティー」報告書において芸術の重要性が強調され、予算が増加するなど、芸術文化シーンが活性化している。シンガポール・ナショナル・アーツカウンシル(Singapore National Arts Council)のアーツクラスター・ディベロップメント・シニアディレクター(Senior Director of Arts Cluster Development)で、シンガポール・アーツフェスティバルのディレクターでもあるゴー・チンリー(Goh Ching Lee)さんに話を聞いた。
(聞き手:滝口健)


──シンガポールのパフォーミングアーツ・シーンの最近の発展をどのようにご覧になっていますか?
最近の顕著な発展は、ある意味で1980年代後半の、シンガポールを文化的に活気に満ちた社会にしていこうとする政策の結果であろうと考えています。ナショナル・アーツカウンシルが設立されたことにより、過去10年の間、我々はシンガポールをユニークなグローバル芸術都市に発展させるというミッションを遂行してきたわけです。これらインフラや資金の源流をたどっていくと、80年代半ばまで遡ることができると思います。この時期に、芸術が国家のアジェンダの一部になったということもできるでしょう。
それ以前のシンガポールは、経済的な基礎の確立、貿易の発展、教育、住宅問題、あるいは基本的な社会インフラの整備に注力していました。1965年の独立直後には、シンガポールのGDPはアフリカの国々よりも低いレベルにあったのです。今日のシンガポールの発展をみるとついつい忘れがちになるのですが、当時はこうした事項が緊急の課題になっていました。
80年代に入って初めて、国民が「我々は長い道のりをたどってきたが、ようやく物質的な満足の他のことを考える時間ができるようになった」と感じ始めたのだと思います。人々はより高度な教育を受けるようになり、これまでとは違うもの、すなわち芸術を求めるようになってきたのです。これが最近の進展の原点です。
「ルネッサンス・シティー」報告書よりも以前に、もう一つの重要な報告書が提出されています。1987年の「文化と芸術に関する諮問委員会報告書」です。この委員会は、副首相が座長を務める、極めてハイレベルの委員会でした。委員会では、国民の要望や、「文化的に活気に満ちた都市」を実現するための方策など、芸術に関するニーズ調査が行われました。それを受けて発表された報告書では、ナショナル・アーツカウンシルの設置やエスプラネードの建設、芸術家を育てるための教育機関であるラ・サール・ポリテクニックの設立、さらには新しい美術館の開設などが提言されました。このレポートがなければ、シンガポールの芸術の状況はかなり違ったものとなっていたことでしょう。このレポートの提言にもとづいて、ナショナル・アーツカウンシルは1991年に、エスプラネードの運営会社は1992年に設立されました。
もう一つの重要な進展は、「アーツ・ハウジング・プログラム」です。私たちは、リトル・インディア、チャイナタウン、ウォータールー通りといったエリアに残っている多くの歴史的な建造物をアーティストのためのスペースに改装しています。アーティストはそこで作品をつくり、リハーサルをし、さらには劇場スペースとして使うこともできるようになっています。彼らは家賃の10%だけを負担すればよい、すなわち残りの90%は政府が補助するという形になっています。

──アーツカウンシルはそうした政策の実施に重要な役割を果たしているわけですね。
ええ。しかし、1990年代にはインフラの整備に焦点が当てられていたと言わざるを得ません。しかしながら、後には、ソフトウェアにより重きが置かれるようになってきました。2000年の「ルネッサンス・シティー」報告書にあわせ、5年間で5千万ドルを超える予算が認められましたが、これはカンパニーの強化、作品の制作、そしてシンガポールのアーティストに国際的なプロジェクトへの参加を促すこと等を通じ、アーティストの活動を支援するためのものでした。もちろん、それまでにもアーティストの活動支援のスキームは存在しましたが、ここで明確な転換が行われたわけです。

──特に、主要な劇団に対する助成金のスキームはシンガポールの演劇業界に大きなインパクトを与えていると思います。このスキームについてもう少し教えてください。
この2年間の助成スキームも「ルネッサンス・シティー」報告書の結果としてつくられたものです。劇団への助成はそれ以前にも行われていましたが、規模は小さなものでした。報告書に伴ってつけられた予算によって、各劇団により安定した資金援助を行える助成システムを構築することが可能となったのです。

──アーツカウンシル自体も2004年に機構改革を経験しています。この目的は何だったのでしょうか。芸術を支援する政策に何らかの変化があったのでしょうか。
これも「ルネッサンス・シティー」報告書に含まれているのですが、数年前から芸術がより広範なクリエイティブ産業の一部となっているという認識が高まってきています。芸術はそれ自身のためだけに存在しているわけではないということです。経済やコミュニティ、さらには国民形成に貢献することができるのではないか──私たちは、これを「アートのABC」と呼ぶことがあります。アート(Art)のためのアート、ビジネス(Business)のためのアート、そしてコミュニティ(Community)のためのアート、というわけです。これは、シンガポールでは極めて新しい考え方ではありますが、ある意味では世界での最近の傾向を反映したものであるとも言えます。現在では、音楽、映画、出版、ニューメディア技術といった商業セクターが相互に連関し、シンガポールの社会そのものにインパクトを与える一大産業が形成されてきているわけですから。
こうした考え方を受けて、過去2年間、アーツカウンシルは芸術の支援に、これまでとは異なった種類のアプローチをとってきました。芸術をこうした産業の一部ととらえる全体論的なアプローチです。しかし、我々のサポートはキープレイヤーだけに向けられているのではありません。将来性のある小さなカンパニーにも果たすべき役割がありますし、我々もそうしたカンパニーを支援していきたいと考えています。大小のカンパニーが相互にサポートしあえるような形が望ましいですね。このように、我々の支援のほとんどは芸術関係の非営利セクターに向けられてはいますが、私たちはギャラリーやオークション・ハウスなど、芸術に関連する事業に参入したいと考えている企業とも頻繁に仕事をしています。時には、彼らが芸術に関連するイベントを開催する手伝いをしたりもするのです。これは、資金的に協力するということではありません。企業をアートに引き込むと同時に、彼らが製品を改善する手助けをするわけです。
これらは全て、シンガポールをアーティスト、芸術関連施設、仲介者、独立のプロデューサー、運営団体、公立学校など、数多くのレベルのプレイヤーが存在する、活気のある場所とするという目的のために実施されているのです。

──シンガポール・アーツフェスティバルも、この「文化的に活気のある都市」というビジョンの一部を成しているわけですね。このフェスティバルは、アジアにおける主要な芸術祭の一つとして、国際的な認知を得ていると思います。
ええ。このフェスティバルの性格は、「シンガポールをユニークなグローバル芸術都市として発展させる」という、アーツカウンシルのビジョンに沿って定められています。「ユニーク」と「グローバル」がキーワードです。「グローバル」とは、国際的な連携の志向を示します。おそらく、かつては「シンガポールは先進国に追いつこうとしており、グローバル・プレイヤーになりつつある」というようなことが語られることが多かったと思います。もちろん、これは現在でも重要ではあるのですが、もはや我々は、自分たちが達成してきたことをシェアすることを考えてもいい段階に到達しているのではないかと感じているのです。単に外国から取り入れるだけではなく、将来性のあるアーティストを送り出すことができるのではないか、ということです。
また、我々は、自分たちが東洋と西洋のどちらとも、非常にうまくやっていけることに気付きました。これは、シンガポールが東と西、すなわちアジアとそのほかの世界の間に挟まれた独特の位置にあり、多文化の背景を持っているからだと思います。私たちは両者の橋渡しという役割を果たすことができるのです。このことは、シンガポールの文化やアーティストの作品に色濃く繁栄されています。シアターワークスという劇団の芸術監督であるオン・ケンセンは、こうした交雑によって新しい種類の芸術的感受性をつくり上げた、すばらしい例と言えるでしょう。
そして、これこそが、私たちのフェスティバルにおいてコラボレーションが極めて重要である理由なのです。それはシンガポール人のアイデンティティの反映であり、私たちが文化の世界で貢献しうる分野を示していると考えています。

──フェスティバル・ディレクターとして、どのようにプログラムを編成するのでしょうか。セレクションのポリシーとはどのようなものなのでしょう?
シンガポール・アーツフェスティバルには非常に明確なアイデンティティがあります。アジアとコンテンポラリー作品に対するフォーカスがそれです。こうした全ての要素はシンガポールに住む我々のアイデンティティの反映であり、私たちにとっては極めて自然なことなのです。多くのシンガポール人の若者は新しいビジュアルの世界に親しんでいます。また、彼らは過去からの文化的な重荷を負う必要がないため、多くの新しい考えを自由に受け入れることができるのです。
観客は常に何かこれまでとは違うもの、新しいものを求めます。私たちの観客はとても若いのです。おそらく6割から7割の観客は35歳以下でしょう。したがって、私たちのプログラム編成もそれに見合ったものになります。もちろん、シンガポールの国家的なフェスティバルとしては一般の観客が親しみやすいプログラムも必要ですが。そのため、プログラムは異なる種類の演目の組み合わせになりますが、それでもなおアジアとコンテンポラリーのプログラムが主流であるとは言えるでしょう。
私たちは、それぞれのプロジェクトの過程を非常に重視します。すなわち、ユニークで興味深い創作のプロセスがあるかということです。また、作品の文脈についても考慮をはらいます。その作品が、我々に関係の深いトピックについて語っているかどうかということですね。私たちのセレクションの基準はこの2つのコンビネーションであると言えるでしょう。シンガポール・アーツフェスティバルにおいては、「革新」がキーワードとなっています。私たちは、常に独自性のあるムーブメントやプロセスを求めています。また、異なる国々や文化間のコラボレーション、すなわちインターカルチャラルな側面や、ダンスと演劇、音楽と演劇、あるいはダンスとマルチメディアといった異分野間の共同作業にも大きな関心を持っています。こうした作品は、時としてある分野に関する旧弊な考え方を打破するものになり得ますから。
テーマとしては、移民や国外移動などの問題に起因するアイデンティティの問題や、歴史について関心がありますね。歴史の文脈をたどり直すというのは、私たちにとって重要なテーマです。
 
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