The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
Contents
キャサリン・メンデルソン
キャサリン・メンデルソン
(Katherine Mendelsohn)
トラヴァース・シアター文芸部マネージャー
data
トラヴァース・シアター
Traverse Theatre Cambridge Street, Edinburgh EH1 2ED
Lothian Scotland
http://www.traverse.co.uk/

エディンバラ・フェスティバルで活躍していたJim Haynesら若手アーティスト・学生らにより1963年に創立される。当時はトラヴァース・シアター・クラブと呼ばれ、エディンバラ市内のローンマーケットLawnmarketというかつての売春宿街に建物があった。Haynesは当時Paperback Bookshopという劇団を率いており、この名前からも彼の新作戯曲や文学作品の上演に対する熱意がうかがえる。

69年には、グラスマーケットGrassmarketの倉庫群を改修して拠点を移し、その後、Saltire CourtというCambridge Street沿いの現在の場所に移転。1992年にエディンバラ市により、216〜350席のホールと100席のスタジオ、カフェなどを備えた新しい劇場が建設され、The Traverse Theatre Ltdが運営する英国初のスタジオシアターとして再始動。

創立以来、一貫して新作戯曲の創作・上演を芸術的方針として掲げ、スコットランドはじめ国内外の劇作家に対し新作を委嘱して執筆活動を支援してきた。その新作上演数の総計は600本を越え、60年代のスタンレイ・イヴリング(『The Balachites』)、イエイン・クリックトン、70年代のジョン・バーン(『The Slab Boys Trilogy』)、80年代のリズ・ロケッドLiz Lochhead(『Perfect Days』)、90年代のデイヴィッド・グレイグ(『Outlying Island』)、デイヴィッド・ハロワー(『Knives in Hens』)ら、国際的に評価の高い劇作家を輩出してきた。彼らの作品は世界中で上演され、英国のみならず海外へのツアー公演も行われている。

2000年には、スコットランド・アーツカウンシル(SAC)により、新作戯曲を創作し、新人作家発掘のための拠点劇場として認められるなど、現在では「Scotland's New Writing Theatre(スコットランド新作戯曲劇場)」と称されている。また、2004/2005シーズンには日本をはじめ、中国、フランス、ポルトガルなどとの国際プロジェクトを実施するなど、海外戯曲の紹介にも力を入れている。現在の芸術監督は演出家のフィリップ・ハワード。委嘱した新作は、トラヴァース・シアターがプロデュースするTraverse Theatre Company の公演として上演し、国内外のさまざまな劇場やカンパニーとコラボレーションをしながら活発なツアー活動を行っている。

作家育成の教育機関としての役割も果たし、学生がプロの劇場スタッフと協働して舞台上演する「Class Act」や、プロの劇作家の指導のもと3年以上にわたって戯曲創作を学ぶ「Young Writers' Group」などの事業を通して青少年の劇作を奨励している。

*5 文芸部
芸術監督が率いる芸術部門の重要な部署として位置づけられ、文芸マネージャー、文芸育成マネージャー、文芸アシスタントの3人で構成。アソシエイト演出家と2人のプロデューサーとともに活動し、トラヴァース・シアター・カンパニーとして上演する新作の委嘱の他、劇作家に関わるさまざまな仕事を行う。

また、毎年夏のシーズンは有名な演劇祭であるエディンバラ・フェスティバルの主要会場の一つとなっている。

今シーズンのプログラムは下記のサイトにある。
http://www.traverse.co.uk/

トラヴァース・シアター2004年度事業概要
収入総額:1,322,642ポンド(カフェ売上げ含まず)
支出総額:1,317,486ポンド

年間ステージ数:534
[自主制作公演:80 / 旅公演:43 / 提携公演:395(劇団数66) / その他 16]
エデュケーション・プログラム:37
育成プログラム:10
エキシビション:11
Presenter Interview
2006.7.18
Placing top priority on new writing and nurturing playwrights   Scotland's Traverse Theatre 
新人作家育成と新作戯曲の重要拠点 スコットランドのトラヴァース・シアター 
自らを「劇作家の劇場」と呼び、劇作家への新作戯曲委嘱、戯曲ワークショプ、文芸部による投稿戯曲の発掘、リーディングなどを実施。新作戯曲の国際的発信拠点のひとつ、トラヴァース・シアターの取り組みを同劇場文芸部マネージャーのキャサリン・メンデルソン氏に聞いた。
(インタビュアー:谷岡健彦、構成:中山弘美)


──スコットランド演劇について簡単に教えていただけますか?
スコットランドには昔から優れた詩人や小説家、哲学者などあらゆる分野に有名な作家たちがいましたが、彼らが文学言語ではなく、生活言語で市井の声を劇作にのせて演劇として成立させ始めたのが1960年代になってからです。この時期、労働者階級の家庭生活を辛辣に描いた『キャシー・カム・ホーム』(*1)のようなテレビドラマシリーズが英国内で人気を集め、それがひとつの転機となって作家が脚本や戯曲へと広く活動をシフトしていきました。ロンドンやアイルランドと比べてスコットランド演劇は後発ではありますが、文学的教養が高いので劇作家のレベルは非常に高いですし、俳優や演出家にも才能のある人たちが大勢揃っています。
こうしたスコットランド演劇の発展を支えてきた要素としては、トラヴァース・シアター(1963年設立)のような新しい演劇の創造を目指す劇場の存在ももちろんありますが、もうひとつ、ハイランド地方や島嶼部などへの巡回公演を主な活動としているインディペンデント・カンパニーの存在があります。「英国の人口の7%が84%の富を所有する」というところから名付けられた政治色の強い小劇場7:84シアター・カンパニー(71年設立 *2)や、グリッド・アイアン・シアター・カンパニー(95年設立 *3)などが現在まで活動している代表的なカンパニーです。
スコットランド演劇界の最近の話題が、2006年にスタートしたばかりのスコットランド国立劇場(National Theatre of Scotland/NTS *4)です。NTSは上演施設を持たず、国内外のアーティスト、カンパニー、劇場などあらゆる集団と共同製作しながらプロダクションをつくるクリエイティブな組織です。例えば、2006年4月には、NTSとGITCの共同製作による「ローム」がエディンバラ国際空港で上演されました。こうした共同製作を理念とするNTSの設立や、スコットランド政府が芸術支援を積極的に行うことにより、スコットランド演劇はさらに活発になっていくと思います。NTSが今後のスコットランド演劇の芸術ヴィジョンとエネルギーを一手に引き受けていると言っても過言ではありません。

──現在のスコットランド演劇界におけるトラヴァース・シアターの位置づけを教えてください。
トラヴァース・シアターのアイデンティティは、劇作家との作業にあります。
80年代に入ってからは特に、イギリス人劇作家の発掘、育成に焦点を当ててきました。90年代からはさらに、国内だけでなく海外の劇作家も含めて、新しい世代のスコットランド人劇作家の育成と支援を明確な目標として掲げています。名実ともに確立された劇作家に新作を委嘱するのと同時に、新たな才能を見いだしたいと思っています。私たちはトラヴァースのことを「劇作家の劇場」と呼んでいますが、私たちがすべきことは、劇作家のヴィジョンがどこにあるかを知ることです。そして演出家たちがすべきことは、溢れ出てくる彼らの言葉のすべてを観客に伝えるために懸命に作品に取り組むことなのです。

──具体的には劇作家育成のためのどのような事業を行っているのですか?
私たちは年間を通して劇作家を育成するためのさまざまな活動をしています。例えば、トラヴァースでは年に6〜8本の新作を劇作家に委嘱していますが、こうした劇作家に対しては、第1稿が上がった後に作品を練り上げるためのワークショップとして、演出家が主役級の俳優と台本を読み込み、リーディングして聞かせます。自作を声で聞くのはとても大切なことで、作品の長さやテンポ、どこが効果的でどこが効果的ではないかについて、文字とは全く違った感覚がわかります。また彼らは、その作品を担当する演出家や文芸マネージャーとマンツーマンで劇作のワークショップを行います。構成や細部について議論が行われ、その作品が最良のものになるよう、プロが叱咤激励します。
ちなみに、新作を委嘱する場合は、上演の予定については全く触れません。好きなだけ時間をかけて書いてもらいます。でもこれは、たくさんの委嘱作品の制作が並行して進んでいて、いつでも上演を考え得る作品がたくさんあるということでもあります。最初は短編戯曲を依頼して、それが長編へのステップとなる場合もありますが、すぐに長編を委嘱される幸運な劇作家もいます。つまり、いつも個々の劇作家に合わせた方法を選ぶことが大切で、システムもルールもありません。

──一般の劇作家を対象にした事業はありますか?
一般の劇作家については、国内外からの投稿を受け付けています。投稿作品は専門委員がすべて目を通し、私にも報告が上がってきます。投稿者には感想を送り返しています。投稿者には初めて戯曲を書いた人もいれば、プロもいます。スコットランド在住の劇作家への返信を優先していますが、彼らにとって私たちは批評をしてくれる数少ない存在のひとつなので、詳しくコメントするようにしています。
英国外の劇作家が投稿してくる目的は、主に自作がトラヴァース・シアターで上演されるかどうかを知りたいということなので、こういった劇作家には細かい感想は返しません。投稿作品が上演されることは極めて稀ですが、おもしろい劇作家を発見する重要な機会になっていると思います。ちなみに私がトラヴァース・シアターで仕事をしてきた中で、投稿作品がそのまま舞台化されたのはたった1本だけでした。でもそれが実は、後に大ヒット作品の1つになったのですが。
例外的なケースですが、才能があると感じた場合、文芸部員が直接劇作家に会って話をすることもあります。こうした話し合いは、劇作家がこの作品で何を伝えたいのかや、彼らの劇作のプロセスを知るために重要であるだけでなく、私たちが手伝えることは何かを知るためにとても役に立ちます。
また、シーズン毎に2つか3つの一般向け戯曲ワークショップをプログラムしています。これらは10人から15人の少人数で行われ、劇作へのアプローチとプロセスについて語ることのできるプロの劇作家が指導します。特別な技術や経験のある人向けのワークショップも企画しています。その場合は、ジニー・ハリス、デイヴィッド・グレイグ、ダグラス・マックスウェル、ロナ・マンローといった劇作家が指導に当たっています。
これ以外では、15歳から25歳までの劇作家の卵たちが3年以上にわたって劇作を学ぶ「ヤング・ライターズ・グループ」でも、トラヴァース・シアターと縁のあるプロの劇作家たちが、2週間に1度指導にあたっています。彼らは1週間に1度、夜に集まり、メンター役の年長のライターの下で技術を磨いています。1年目は短編やいくつかのシーンを書きながら、台詞、登場人物、構成、ストーリー、舞台演出など劇作のすべての要素について学びます。2年目には長編作品に取り組み、劇作家から個別に指導を受けます。

──アウトリーチのプログラムはありますか?
学校や大学で、新作の公演を題材にしたワークショップを教育プログラムとして実施していますし、次回公演について教師たちと語り合うフォーラムを行っています。また、年に1度開催する「クラス・アクト」という学校での戯曲ワークショップもあります。これは、プロの劇作家が14歳から17歳までの学生たちと数カ月にわたって学校で劇作のワークショップを行い、学生たちに短編を書かせるというものです。これらの短編をもとにトラヴァース・シアターの演出家が俳優と作品を練り上げて公演を行い、戯曲集として出版もします。
エディンバラやスコットランド各地のコミュニティ・センターでは、「コミュニティ劇作プロジェクト」を実施しています。これらの成人向けのワークショップは広く一般に開放されており、参加者はプロに手助けしてもらいながら初めて戯曲を書きます。また、年に一度、スコットランド南部のボーダーズから北部のハイランドまで巡回公演しますが、そのツアーに付随して戯曲ワークショップを頻繁に開催しています。このワークショップで地方在住の劇作家たちと作業し、そこから新しい才能とコンタクトを取るようになることもあります。


*1   「キャシー・カム・ホーム」
1966年12月にBBC1の「水曜ドラマシリーズ」で放映された。(脚本:ジェレミー・サンドフォード、演出:ケン・ローチ、製作:トミー・ガーネット)夫と子どもがいる若い主婦キャシー。ある出来事で夫が職を失い、家族は貧困へと墜ちて行く。子どもたちがソーシャル・サービスに保護されるまでのさまざまな困難と貧しいその日暮らしのホームレスな生活を描いたドキュメンタリー・ドラマのヒット作。

*2   7:84シアター・カンパニー
世界が混沌とした社会状況の中にあった1971年、当時リヴァプール・エブリマン・シアターと強い提携関係にあった劇作家ジョン・マッグラスが、社会を変えるためには新しい演劇の形が必要と考え、ブルジョア階級に支配された劇場からの離脱を決心してイングランドで設立した劇団。同年のエディンバラ・フェスティバルで「Trees In The Wind」という作品を発表。この作品が大ヒットし、2年に及ぶツアーも観客に熱狂的に受け入れられたことで、マッグラスは歴史、文化、さらには政治的な伝統が息づくスコットランドで劇団を設立することを決意、73年にスコットランドの7:84が設立された。拠点はグラスゴー。
7:84というカンパニー名は66年にエコノミスト紙に発表された「英国の人口の7%が84%の富を保有している」という統計結果からきている。社会政治的なプロセスへの演劇の介入の可能性を探ること、誰にでも親しめる上演言語を作り出すこと、観客と俳優との垣根をなくすこと、劇場ではない空間で上演すること、演劇に触れる機会のない人々のところで上演をすることなどを劇団のポリシーとして掲げてきた。
スコティッシュ・アーツ・カウンシルやグラスゴー市などから助成金を受けているが、06年3月1日にアーツ・カウンシルが助成金を全額カットする決定を下したことに対して、現在,政府への嘆願署名キャンペーンを展開している。芸術監督は2003年から務めるロレンゾ・メール。

*3   グリッド・アイアン・シアター・カンパニー
1995年にエディンバラを拠点に結成。同年トラヴァース・シアターで第1回公演「Clearance」を上演するやいなや、質の高い作品作りが高い評判を呼ぶ。以後、一般的ではない特定の場所で上演する作品を含め、立て続けにヒットを放っている。
97年の初のフル・スケールの作品『The Bloody Chamber』は、エディンバラのロイヤル・マイルの下の地下納体堂で上演、99年の『Monumental』はグラスゴー・シチズンス・シアターのホワイエや裏道、駐車場などを使ってのプロムナード・パフォーマンスとして上演された。2003年にエディンバラ・フェスティバル・フリンジで上演された『Those Eyes, That Mouth』はチケットは完売し、演劇賞を総なめした。
ここ数年はロンドン、ニューヨーク、アイルランド、ヨルダン、レバノンなどでも上演し、高い評価を得ている。プロデューサーはジュディス・ドハーティ、演出家はベン・ハリスン。

*4   スコットランド国立劇場 National Theatre of Scotland(NTS)
2006年設立のスコットランド初の国立劇場。上演施設を持たないため、施設開発や維持に資金を投入することのない代わりに、クリエイティブ・ワークに専心し、自主制作や劇団、アーティストとのコラボレーションで作品を作り上げ、ツアーを主体に活動する。スコットランド内をくまなく、劇場に限らず学校やコミュニティなど場所を選ばずに、あらゆる世代を対象にしたさまざまなタイプのパフォーマンスを届けることを大きく掲げている。主要な劇場との提携や共同制作もあり、ライシアム・シアター(エディンバラ)やグラスゴー・シチズンス・シアター、トロン・シアター(グラスゴー)などでの上演なども予定されている。さらに海外のカンパニーとのコラボレーションや海外ツアーも視野に入れている。
また、学校や地域でのパフォーマンスを通した表現教育や、パフォーマンスへのアクセスを容易にするための活動もさまざまな集団との恊働で臨んでいる。さらには劇作家、デザイナー、演出家などのアーティストとの作業を通して、スコットランドの才能をプールしていくことや、トレーニングを終えたばかりの若い俳優や制作者を独自に教育することなどを目標としている。
スコットランド政府からスコティッシュ・アーツ・カウンシルを通して2003−04年に100万ポンド/2億2,000万円、2004−06年(3月まで)に 750万ポンド/16億5,000万円 の予算が投入された。 芸術監督ヴィッキー・フェザーストーン、本拠地グラスゴー。
 
| 1 | 2 | 3 |
NEXT
TOP