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Presenter Interview
Placing top priority on new writing and nurturing playwrights   Scotland's Traverse Theatre
新人作家育成と新作戯曲の重要拠点 スコットランドのトラヴァース・シアター
*6   Playwrights' Studio Scotland
スコットランドの劇作の発展のために政府主導で設立された団体。劇作家トム・マッグラスとトラヴァース・シアターが長年にわたって働きかけ、スコティッシュ・アーツ・カウンシルの支援を受けて設立に至った。スコットランド在住の劇作家、および英国内在住(場合によっては海外在住)のスコットランド人劇作家を対象に、新作戯曲の開発や演劇公演の質を高めることなどを目標に活動している。
毎年メンターとして選ばれた経験豊かな複数の劇作家が、経験の浅い劇作家の技術を高め、作品を仕上げていく「Mentoring」、初歩段階にある劇作家を対象に、スタジオのアソシエイト劇作家が数カ月に渡って劇作法から指導していく「Evolve」、新たな才能の発掘のために設立された国主催の戯曲賞「Ignite」、一般から戯曲を受け付けて演劇のプロフェッショナルが読み、感想や意見を返すとともに提携している有名劇団や劇場にその戯曲を紹介する仲介作業「Fuse」など、さまざまな事業を展開している。2005年のエディンバラ・フェスティバルでは、BBCスコットランド・ラジオドラマと4劇団との共同で、ドラマ・リーディング・シリーズ「Plays Aloud」を開催した。
拠点はグラスゴー。クリエイティヴ・ディレクターはジュリー・エレン。
www.playwrightsstudio.co.uk
──トラヴァース・シアターは文芸部(*5)を持つスコットランドで唯一の劇場だと聞きましたが。
はい、文芸部を持つ劇場はいまだトラヴァース・シアターだけですが、2001年にPlaywrights' Studio, Scotland(*6)というすばらしい組織が設立されました。そこでは私たちと同様、自主的に送られてくる戯曲を読み、新作戯曲を発掘する作業が始められています。Playwrights' Studio, Scotlandは劇団でもなければ、公演制作もしませんが、劇作家に対して戯曲についての感想や意見を返し、助言をします。さらに、このような劇作家たちと仕事をしたいと思っているけれど、文芸部を持つほどの財源がないという多くの劇場のために、その役割を代行しています。Playwrights' Studio, Scotlandは、今年からリーディング公演を始めました。NTSでも劇作家との仕事を積極的に行ってはいますが、投稿戯曲は受け付けていませんし、評価の定まった劇作家に新作を委嘱するなど、もっと高いレベルの劇作家と仕事をする傾向にあります。

──トラヴァース・シアターとPlaywrights' Studio, Scotlandは連携していますか?
スコティッシュ・アーツ・カウンシル(SAC)がPlaywrights' Studio, Scotlandを設立するための調査を行った際に、その責任者が作業の拠点をおいたのがトラヴァース・シアターで、当時の文芸アシスタントがサポートしました。私たちはスコットランドで唯一の文芸部を持つ劇場ですし、劇作家との仕事に経験も知識もあり、また劇作家の大規模なデータベースを保有していたので、トラヴァース・シアターの貢献は大きかったと思います。実際、Playwrights' Studio, Scotlandの最初のアイディアのいくつかは、当時文芸ディレクターだったジョン・ティファニーから出たものです。
最終的に、Playwrights' Studio, Scotlandは、SACの助成を受けてスコットランドのすべての劇作家や劇場、劇団を支援する完全に独立した組織として設立されました。ですから、現在は、プロジェクト毎に必要に応じて連携しています。例えば、最近では、スコットランドを代表する劇作家トム・マッグラスの生誕60年を祝う催しを共催しましたし、翻訳を対象にした奨学基金の設立のためのSACに対するロビー活動にも共同で取り組んでいます。また、トラヴァース・シアターの劇作家養成にかかわるイベントはすべて、Playwrights' Studio, Scotlandが毎月発信するインターネット・ニュースで劇作家たちに告知されています。

──文芸マネージャーという肩書きは私たちにとっては聞き慣れないものですが、どういう役割を果たすのですか。
文芸マネージャーは、演出家が劇場のヴィジョンに沿った作品を見つける手助けをします。例えば古典を上演している劇場ならば、しばらく上演されていない面白い芝居を見つけてくるとか、自分がシーズンのラインナップに入れたいと思う芝居のために何かするというようなことです。トラヴァース・シアターのような新作上演の劇場での文芸マネージャーの役割は、新しい劇作家を見つけたり、ベテランの劇作家に新作を委嘱したりすることですね。
文芸マネージャーという仕事は、若い頃に始める仕事ではなく、さまざまな経歴を経て就くものだと思います。今では大学にドラマトゥルグになるためのコースがありますが、文芸マネージャーとは少し違うと思います。私はこの種の教育は受けたことがありませんが(現在では関連コースを教えていますが)、英文学を専攻しており、それが文章の分析能力を高めたり、書かれたものの善し悪しを見極めたりするのにとても役に立っています。文芸マネージャーになるために専攻したわけではありませんが──。

──トラヴァースではリーディング事業を積極的に企画しています。これはどのようなものなのでしょう。
リーディングというのは舞台装置や衣裳のない公演のようなものです。俳優たちと演出家が芝居に取り組み、稽古をしますが、稽古は非常に短い時間しかやりません。俳優は台本を手に持って演じるので、必要ならば台本を見ることもできます。驚くべきことに、すばらしい俳優を起用した時など、台本があっても気を散らされることはなく、本公演と遜色のない仕上がりになることがあります。観客からも、芝居や演技についてより純粋な体験をしたという反応がよく返ってきます。
リーディングをする理由には現実的な側面もあって、本公演よりもずっと低予算でできるということがあります。併せて、観客が芝居に触れる機会をもっと多く提供しようという積極的な理由もあります。例えばオーストラリアから本公演を招聘しようとすると、多額の費用が必要ですが、劇作家を招聘して、地元のカンパニーがリーディングをすれば、観客は同じ費用でもっと多くの面白い芝居にアクセスできるようになるわけです。
それと、リーディングを行うもうひとつの重要な理由が劇作家の劇作の助けをするためです。リーディングは劇作家が観客とともに初めて自分の作品を見るすばらしい機会になります。プロダクションの制作途中でリーディングを行うこともありますが、これは劇作家にとって草稿段階で戯曲を聞くことができる、またとないチャンスとなります。

──スコットランドで海外の戯曲を上演するのは難しいことだと思われますか?
トラヴァース・シアターは、観客も芸術監督も海外の作品にとても寛容なので、海外戯曲の上演にとって大変相応しい場所になっています。私としても海外の演劇の紹介はとてもやりたいことのひとつで、英訳を必要とする新作戯曲もたびたび手がけています。私の専門の大部分は、劇作家とともに彼らの戯曲の翻訳作業をし、それらが原作と同程度のクオリティがあるかどうか、つまり翻訳が単に言語の翻訳というのではなく、芝居のエネルギーやスピリット、繊細さが翻訳されているかどうかを確認することです。こうした海外戯曲をリーディングするだけでなく、本公演にまでもっていくために劇作家とともに翻訳作業を進めるPlaywrights in Partnershipというプログラムもあります。

──それはどのようなプログラムですか?
Playwrights in Partnershipでは、本当に手がけたいと思う海外の戯曲を、その作品にもっとも相応しいスコットランド人(もしくは英国人)劇作家とともに翻訳し、上演します。もしその戯曲が書かれているオリジナル言語をスコットランド人劇作家が話せない場合は、できるだけよい結果を得るために原作者である海外の劇作家をプロジェクトにしっかり巻き込むようにしています。
その一つの方法として行っているのが、私たちがホスト役を務めて双方の劇作家が一定期間同じところに滞在する「レジデンシー」です。これは極めて重要な作業で、「翻訳ドラマトゥルグ」としての役割を担う私と、オリジナル戯曲の劇作家、英国内で上演するために英語で翻訳をするスコットランド人劇作家がともに仕事をします。
私たちは戯曲の逐語的な翻訳の最初の段階、まさに言語的な翻訳の段階から双方の劇作家とともに作業を進めます。この段階ではまだまだ粗訳で、戯曲の本体と同じぐらいのメモ書き(脚注)でいっぱいになることもよくあります。この脚注がとても重要なもので、それを参考にしてスコットランド人劇作家がその翻訳に創造的な解釈を見つけ出し、上演台本として決定稿を作り上げていきます。これはあくまでオリジナル戯曲に忠実なものであって、スコットランド人劇作家が異なる方向に進み、別の作品を作るということではありません。オリジナル戯曲のエッセンスを掴み、単なる言語の意味においてのものではないそのエッセンス、つまり戯曲のスタイル、エネルギー、リズムを理解するということなのです。
例えば、現代戯曲では、スラングや罵り言葉といった口語的表現を登場人物が多用しますが、これは極めて翻訳することの難しい表現です。私たちはオリジナル戯曲の劇作家たちに、その言葉が芝居の中でどういう瞬間にどのような意図をもって発せられ、どれほどのインパクトを与えているのかを尋ねます。彼らは、「その母親はいつでも悪口雑言なのか」「彼女はどのぐらい強く罵り言葉を使ったか(軽いのか、かなりショッキングなのか)」「それは彼女のキャラクターから外れた普通ではない行動で、その場面での緊迫した何かの刺激を受けた結果なのか」といったことを答えてくれます。それによって翻訳する劇作家は英語台本にどの言葉を使うか選ぶことができますし、それがオリジナル戯曲の雰囲気に近づく選択になるのです。
 
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