The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
Contents
エコウ・エシュン
Profile
エコウ・エシュン(Ekow Eshun)
ICA芸術監督(Artistic Director of the Institute of Contemporary Arts [ICA] London)。1968年英ロンドン生まれ。ロンドンスクール・オブ・エコノミクスで政治と歴史を学ぶ。28歳で男性向けファッション雑誌『Arena』の最年少編集長となる。1999年には、「イブニング・スタンダード」紙が選ぶ「イギリスで最も有能な30歳以下の人物」の1人に選出され、その後も主要紙、TV、ラジオにしばしば登場し、現代芸術と文化の推進者として評価が高い。2005年にICAの芸術監督に抜擢され現在に至る。2007年1月、国際交流基金の招きで、日本のコンテンポラリーアートおよび文化の現状を視察するため来日。
ICA
インスティテュート・オブ・コンテンポラリー・アーツ(ICA )
ICA
http://www.ica.org.uk/
Presenter Interview
2007.3.23
As the Institute of Contemporary Arts (ICA) celebrates its 60th anniversary, what is the vision of its new artistic director? 
インスティテュート・オブ・コンテンポラリー・アーツ(ICA)が60周年 新芸術監督のヴィジョンとは? 
美術から映画、クラブ系音楽まで、先端のアートを紹介する機関として、世界のツウ好みに知られるロンドンのインスティテュート・オブ・コンテンポラリー・アーツ(ICA)が今年で設立60周年を迎える。しかし、ICAがあるのがバッキンガム宮殿に続くザ・マル(The Mall)であることからもわかるように、そのとんがりぶりも、確固とした改革精神の伝統に基づいた「王道」をいくものと言える。2005年に芸術監督に就任し、ジャーナリストとしても活躍するエコウ・エシュン氏に、さまざまな顔を持つICAが核とする方針や、現在の動向について尋ねた。
(インタビュー・構成:稲葉麻里子 2007年1月 東京・国際交流基金にて)


──ICAの成立ちとこれまでの歴史について教えてください。
 ICAは1947年に設立され、今年で60年目を迎えます。なぜICAの始まりが、他でもないこの時だったか、と考えると、当時、欧州は第二次世界大戦、ホロコーストを経験し、また日本が原爆を落とされて間もない戦後でした。そこに、ピカソやT・S・エリオット、W・H・オーデンなど、画家から詩人に至る当時の代表的な芸術家が集い、「アートはよい未来を築くことに役立つ」という信条に基づいて、ゆるやかな、半ばクラブのような形で発足したのが始まりです。
 その頃のイギリスの美術館やギャラリーは、過去の作品の展示に焦点をあてていましたが、ICAはその意味で、初めて、近・現代の芸術、しかも、絵画のみならず、彫刻、詩、文学、音楽などジャンルを超えて扱うという意味で非常に革新的でした。初期のメンバーには、ピカソ、エリオット、オーデン、ディラン・トマスなどがいましたが、彼らは、「アートは人々に、自分が何者でどう生きているのか、よりよく思考する方法を示す」と考えていました。それは、ICAの精神として、以後60年間続いています。

──どのような施設があり、どのように活動していますか?
 ICAが現在の場所、ザ・マルに移ったのは1968年です。バッキンガム宮殿の近くにというのは不思議な感じですが、伝統に相対する先端のアートを見せる場としては、いい位置にあるともいえますし、何よりロンドンの中心にあるのは恵まれています。意識あるアーティストたちの自主的な集まりとして始まったので、それまでは特定の場を持たずに、ロンドンの中心の、小さな場所や仮の施設を使用していましたが、ザ・マルに移ってからは、公的な芸術機関として、きちんとした助成金を受けるようになりました。
 現在、運営資金の3分の1はアーツ・カウンシルからで、残りは私たち自身で調達します。現在のICAには、2つの映画館と、ギャラリー、劇場、講演会などを行うスペース、バーがあります。といっても基本的には19世紀の建物ですので、同じ家にある部屋を使い分けている、という感じです。施設は午前2時まで開いていて、音楽に関しては、平日に[ロック、ジャズなのどの]コンサート、木・金はクラブ・ナイトをやります。
 設立以来、現在に至るまで、アクション・ペインティングで知られるジャクソン・ポロック、特に80年代に人気を博したキース・へリング、最近では映像アーティストのビル・ヴィオラなど、イギリスだけでなく、世界的に、当時の先端を行くアーティストの個展を開催してきました。イギリスのアーティストでは、デイヴィッド・ハックニー、ピーター・ブレイクなどがいますが、こういったアーティストの特徴は、単なる純粋な美術に留まらず、一般社会、彼らをとりまくより広い世界――音楽、はては政治にいたるまで――に関心があるということです。このような姿勢はアート、文化、思想すべてを扱い、斬新な発想を提示するICAに合うものです。
 スタッフは、非常勤を含めて80名ほどです。ICAは、発足当時から、常にディレクターとして誰か1人はおいていましたが、私が着任してからは、ICAが多彩で複雑な組織ということもあり、ディレクターの役割を芸術面と財政面の2つに分け、それぞれを担当するディレクターをおくことにしました。従って、現在の組織は2人のディレクターと、映画、講演会、展示などのクリエイティブ部門およびマーケティング部門、スポンサー担当、技術担当部門、さらに役員会で成り立っています。

──入場者、観客層はどんな特徴がありますか? 会員組織はありますか?
 年間入場者はのべ約25万人です。私たちの会員制度は少し複雑で、現在も再編成中ですが、いわゆる会員は1万人います。通常は、入場料として2ポンドかかります。本当は無料にしたいところですが、宮殿が近くにあり、こちらは夜中の2時まで開場していてお酒なども出すので、そこまで出入り自由にはできない、ということで・・・ですが、メンバーになれば、年会費を1回払うと後は何度来ても無料になり、実際それは効果的だと思います。何回も来てくれることで、私たちとも意見交換ができますから。
 入場者にはとても恵まれていると思います。例えば年齢層も、イギリスの他のアートギャラリーや美術館は、40〜50代が中心ですが、ICAの主要層は18歳〜30代とかなり若く、学歴が高い人も多いです。彼らは好奇心が強く、新しいことに関心があるので、こちらも冒険ができます。
 例えば、ICAでは有名なザ・クラッシュ、スミス、シザーシスターズ、フランツ・フェルディナンドなどが無名だった初期のころのコンサートをやっているんです。だから、今は無名でも、今週のコンサートに出演したバンドが、来年はすごく大物になっている可能性もある、そういう期待感もあるでしょう。ジャンルに限らず、私たちは、すでに「出来上がった」アーティストではなく、常に「現在」を最優先にします。挑戦的で、実験精神にあふれ、ときに過激でもある新しい才能をまず一番にとりあげ、来場者にとっても「自分はそのアーティストをいち早く知っていた」と言えるようにしたいのです。無難なものを並べてもあまりわくわくしませんしね。

──若い才能や斬新な企画が特徴のようですが、ICAの創立者たちは、ピカソや、T・S・エリオットのような、すでに大変な名声を得ていた大御所ですよね。
 もちろん高名な芸術家たちですが、彼らはまずモダニストであり、なぜ地位を築いたかというと、リスクを恐れずに、斬新で革新的な表現形式を示したという業績で知られたわけですから、ICAの今とつながっているでしょう。例えば、私は10歳の時に初めて家族とICAを訪れました。それ以来、フランスの哲学や、ロシアのアバンギャルド芸術に初めて接したのも、自分にとって重要な本に出会ったのもここです。
 同じように、ICAの来場者は、新しい考え方や異なるものの見方に対してとてもオープンですが、ICAに入るとまず書店があり、さまざまな文化や思想を紹介する書籍を揃え、来る人は入るとおのずとそれを目にしますから、影響を受けるでしょう。それゆえ、すべての人に気に入られる場所でもないことも承知しています。しかし、このようにICAは人を啓発する役割も担い、創始者たちの意図したことにかなっているといえます。

──今後さらに観客層を広げるための、マーケット戦略はありますか?
 あえて言えば、より国際的なお客さんをとりこみたいですね。例えば私は、ロンドンの美術やデザイン学校の総合体「ユニバーシティ・オブ・アーツ」の役員にもなっていますが、これらの学校には、ご存知の通り、日本や韓国など、海外から驚くべき多数の留学生がいますので、彼らのような人たちにもっときてもらえるようにするのが私の今後の仕事の一つですね。こういう多国籍な顔ぶれを誘致できるのも、ロンドンという大都市の利点ですから。

──若者はいいとして、シニアの観客層はどうですか?
 ICAの講演会は、好評を得ている事業の一つです。講演の内容によって違う新聞、メディアを選んで告知していて、これには幅広い年齢の人々が集まります。テーマは基本的に、現代のさまざまな思想についてですが、関心が高いのは、宗教、国際情勢などです。切実な問題だからでしょう。
 ICAの強みですが、これまでに、講演者には、各世代を代表する思想家や知識人を招いてきました。最近では、ノーベル賞経済学者のアマルティア・セン、カンタベリー大司教のローワン・ウィリアムス、イギリスの若手作家を代表するゼイディ・スミスなどが来演しました。他にも、アメリカのフェミニスト/作家ナオミ・ウルフ、重要なイスラム研究者タリク・ラマダン、哲学ではフランスのアラン・バルディユ、今、非常に注目されているスロベニアのスラボジュ・ジジェックなど、錚々たる顔ぶれがいます。こういう方々にとっても、ICAで講演するというのは、過去の偉大な知識人に名を連ねる重要な機会になると捉えてられるので、ほとんど快諾してもらえます。いつも講演と活発な議論が交わされ、その後は、講演者と聴衆が、隣のバーに流れて討論を続ける、という光景が見られ、そのことを誇りと考えています。講演会はその意味でも重要な事業ですね。
 
| 1 | 2 | 3 |
NEXT
TOP