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Presenter Interview
Looking at French policy in culture and the arts through the activities of the front-line administrator, Jean Digne
実務家として常に第一線をリード ジャン・ディーニュ氏の歩みで辿るフランスの文化政策
──文化政策や文化外交といえば国民国家の独占物だった時代が長く続きましたが、国の重要性は、一方では欧州統合の深化に伴う、ヨーロッパ・レベルの文化政策の形成、もう一方では地方自治体の文化政策によって、相対的なものになりつつあるように思いますが、いかがでしょうか。
今日でも、フランスは中央集権的な側面を強く残してはいますが、戦後のフランスは、一貫して政治体制、そして文化の地方分権化を進めてきました。もちろんそれも、あまりにも多くの権力、そして芸術文化が、それまでパリに集中していたからですが。近年、文化予算の上でも、地方自治体が文化に費やす予算の総額は、文化省の予算を上回るようになりました。国は、ヨーロッパ、地方、県、市の4つのレベルの行政組織とのパートナーシップなしには、何もできなくなりつつありますし、国際文化交流でも、国が一手に文化外交を担うのではなく、地方自治体が大きな役割を果たす時代になりました。

──とはいえ、フランスでは、地方における文化施設も、主要なものについては、国、地方、県、市が運営助成金を出し合う混合助成が普通です。国の関与を抜きにした、ほんとうに自治体独自の文化政策はあまりないのではないでしょうか?
フランス北部のノール=パ・ドゥ・カレ地方のイニシアティヴで、トゥールコワン市に創設された学校、ル・フレノワ(国立現代芸術ステュディオ)はおもしろい例だと思います。映像を中心に、複数のメディアにまたがった現代アートの実践教育と作品創造をおこなう機関ですが、これは国ではなく、ノール=パ・ドゥ・カレ地方が中心になって実現したものです。もちろん、開校して成功が明らかになると、国も運営予算にお金を出し、現在では助成金額も均衡するようになりました。けれど、今日でも、国がやめるといってもノール=パ・ドゥ・カレ地方は続けるでしょうが、ノール=パ・ドゥ・カレ地方がやめるといえば国もやめるというでしょう。

──日本でも、創造都市をキーワードにした、都市の文化政策に対する関心が近年、特に高まっています。フランスの都市の文化政策について、もう少し考えをお聞かせください。
フランスで、国の文化政策とは別個の独立した地方自治体の文化政策が形成されるのは主に1970年代です。それ以前は、文化は観光あるいはスポーツとセットにした部局で扱われるのが普通でしたが、1970年代を移行期として、市(フランスには日本のような市町村の区別はない)には文化担当助役をトップとした文化専門の部局がおかれるのは当然のことになりました。1981年にミッテランを大統領として左翼が政権につくと、文化を取り巻く環境も大きな変化を知ることになりますが、最も大きく変化したのも、市のレベルでした。多かれ少なかれパリに対する対抗意識を持ちながら、既存のやり方を変えて、新たな考えを最も採り入れたのは市だったのです。
都市における文化政策は、文化をそれ自体として考えることも重要ですが、同時に、都市計画、環境、レジャー、生活の質の向上など、市民生活と切り離すことなしに考えることが不可欠だと思います。都市の文化は高級芸術だけではありませんし、文化が持続可能となる環境全体を整えることが大切です。
廃止になった工場や駅など、過去の遺物ともいえる建築を現在の文化施設に転用させることで、変身を遂げることに成功した都市も、ナント市をはじめ多く存在します。文化はさまざまな変化のための武器になるのです。まだ、その意味では文化政策は、政策連携がまだ充分ではない、やれることをやっていないといえるかもしれません。大学においてだって、パリ圏にはおよそ50万人の学生がいますが、学生と文化を結びつけるためのメディエーション(媒介)の仕事の余地は、まだまだあるでしょう。仮に私がパリ市長になったら、パリの大学におけるオルタナティヴ・アート・スペースをまず整備しますね。
都市の文化政策の目的は、変化を引き起こすこと、新たな表現、新たな領域、新たな観客を獲得すること、都市が備えているのに市民が知らずにいる魅力を知らしめることにあると思います。けれど、それは唯一の手段で実現するものではなく、多様な、時には互いに矛盾し合うほどの手段を用いて、実現すべきものだというのが私の考えです。自治体の規模はまちまちですし、その歴史と伝統も、社会学的構成も大きく異なります。そもそも都市の市民生活は一様ではありません。どの都市にもあてはまる一般的な文化政策というものはないと思います。芸術施設の責任者はアーティストであるべきなのか、アドミニストレーターであるべきなのか、考えてみても、これは一概にはいえないわけです。

──最後に、2008年に日本とフランスは外交関係樹立から150周年を迎えます。この節目の年には、色々と文化的な催しが準備されているわけですが、何かご提案はありますか?
親日家であったジャック・シラク前大統領の下、日本とフランスの間には特別な関係が築かれたと思いますが、それをもっと発展させることは必要です。国と国の間だけでなく、創造都市を鍵として、都市の間にも発展しつつある文化交流をさらに推進することが必要でしょう。そのときに、それを形式的な姉妹都市協定にとどめてしまわないことですね。地方分権については、フランスの方が少し時期的に先行しているわけですが、その過程でフランスの地方自治体が経験した文化政策の変化、とりわけ、新しいことを恐れずにやろうとするダイナミズムを伝えられたらいいですよね。
 
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