The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
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Presenter Interview
The Rolex Mentor and Protege Arts Initiative, fostering encounters between artists across generations
巨匠との出会いをコーディネートするロレックス社「メントー&プロトジェ・アーツ・イニシアティブ」
──ロレックスはこの事業を「国際的」でしかも「多様性」のある事業だと強調していますが、ある種の人たちにはむしろ「欧米中心主義」あるいは「大西洋中心主義」だと見えるようです。2年に一度のガラがニューヨークで開催されることや、6つの分野の種分け方法そのものが西洋文化の因習だというあたりが、揶揄する人々の根拠ですが、こういった意見にはどう反応されますか?
6つの分野のことについては、我々は顧問委員らと常に話し合ってきていますし、恐らく将来的には「分野ごとの採択」という方法ではない方向に進むと思われます。「総合芸術の分野」を作るべきかという観点についてはすでに話し合いましたし、実際問題、現在の分野分類ではうまくあてはまらないアーティストも多くいます。だからといって「何にでも手を出す」ということも不可能です。事業を運営するために落とし込まなければならない現実性というものを直視しなければなりません。
例えば、次の第4サイクルの文学《メントー》のウォーレ・ショインカですが、彼いわく、彼の《プロトジェ》は「英語でもフランス語でもスペイン語でもどれでも良く」て、「劇作家でも詩人でも小説家でもエッセイストでもなんでも良い」と言う。あまりに門戸が広すぎます。《プロトジェ》を探し選定するという現実的な観点から言えば、もっと絞り込んでもらわねばなりません。というわけで、現実性においては、ある種の特定性は受容せざるを得ないのです。
もうひとつの問題は、分野ごとに状況が違うということですが、例えば美術を例にとりましょう。現代美術はいまどこで起こっているかと考えた場合、多くが米国で、時には英国、あるいはドイツ。中国も近頃では遡上に挙がってきています。ですが、「《メントー》に相応しい卓越したアーティストは誰?」という質問を投げた場合には、どうしてもアメリカ人の名前が次々に挙がるでしょう。こんな現実も、議論の一端になっているはずです。
いま現在、この事業がアジアやラテン・アメリカよりも欧州や米国よりになっていることは確かです。「太平洋プロジェクト」というより、「大西洋プロジェクト」ですね。次の第4サイクルの《メントー》は、米国と欧州とアフリカからそれぞれ2名ずつ。残念なことにアジアからの《メントー》はいませんし。このことは顧問委員が誰を《メントー》に推薦するかということの結果次第なのですが、つまりは、例えばアジアの影響をもっと強めるためには、顧問委員をもっとアジアから募らねばならないということになりますね。

──「大西洋プロジェクト」という問題に即して浮かぶのは、「言語の壁」という課題です。特に演劇や文学の分野においては、《メントー》がどの言語をしゃべるかということが《メントー》選出の条件になったりもするのでしょうか?
その答えは「是」でもあり「否」でもあります。理想とするところがあり、同時に、現実性という落としどころも必要です。先の顧問委員会ではハンガリア人の文筆家が推薦されました。彼の作品は翻訳出版されたことがありません。明らかに優れた文筆家ですが、ほんの少しのドイツ語を話しますが、あとはハンガリア語だけ。いったいどうやって《プロトジェ》と一緒に活動できるでしょう? ハンガリア語でものを書くことを要件に《プロトジェ》探しをするなんて…、いったい誰が彼の《プロトジェ》になれるでしょう? 前に中国人が《メントー》として推薦されたこともあったのですが、その人物は中国語しかしゃべらない。ということは、《プロトジェ》には必ず中国語をしゃべるアーティストを手配しなければならないということになってしまいます。
この問題も興味の尽きない課題ですよね、なにしろこの事業は「世代間を交差」させることに加えて、「文化や国境の交差」をも主眼にしているのですから。政治じみた宣言を出して多様性やら包括性やらを唱えることだってできますが、前出のようなケースに実際にはどう対処したら良いのでしょう? どうしたら実際にコトを起こせるのでしょう? 幸いなことに英語はいわば「国際語」であり、芸術の世界にいる人々の間においても英語は国際語として機能しています。我々はこの現実から抜け出せていない。望むべき状況とは言えませんが、これが現実でもあるのです。

──《プロトジェ》たちには、どのようなキャリアを進んで行って欲しいとお考えですか? 分野によって異なるかもしれませんが……。
個人的には、彼らが彼らそれぞれの分野でインパクトを放つようになって欲しいですね。そして彼ら自身がいつの日か《メントー》になれたらと良いと思っています。第2サイクルの参加者だった南アフリカ出身の演劇《プロトジェ》、ララ・フット・ニュートンと、同・エチオピア出身のダンス《プロトジェ》、ジュナイ・ジュマル・センディの二人は、自国に戻って彼ら自身の「メントー・プログラム」をスタートしているのですよ──我々が援助している事業というのではありませんが。ロレックスのこの事業にたいそう感銘を受けて、まだ歳若いにもかかわらず「自分たちも後続するアーティストを指導する時期に来た」と感じたんです。

──この事業の予算を明かしてくれませんか?
この事業にかかるすべての投資を総額にするのは困難ですね。ガラの経費もあればその他の諸イベントの経費もあり、出版物やら選考委員にかかる費用やら、実に多くのことがありますから。でも事業の「直接の助成金」と「直接支出」に関してなら、総額で70万ドル(約8000万円)になります。6人の《メントー》各自が受け取る金額が5万ドル(約570万円)。6人の《プロトジェ》各自は、事業サイクルへの参加期間中に2万5000ドルを受け取りますが、さらに、サイクル期間終了後に彼らが打つ公演や個展や出版等の活動に対して、再び2万5000ドルを助成します。これについては、サイクル終了後2年以内に、《プロトジェ》は我々に助成金の申請書を提出しなければなりません。この他、サイクル参加期間中の《プロトジェ》の旅費などはロレックスの負担です。《メントー》が「《プロトジェ》の仕事を見に行きたい」と言った場合には、その旅費を負担することもあります。以上が「直接の助成金と直接支出」と呼ぶものの内訳です。

──用意してきた質問はこんなところですが、何か付け加えたいことはおありですか?
この事業は成長し続けており、深みを増しています。この事業に積極的に関与した人々──《メントー》や《プロトジェ》たち、選考委員や顧問委員の方々のことですが──を数えただけでも、この5年間で200人以上に達しています。しかも彼らはいずれもアーティストか、あるいは40数カ国から集まって来た芸術界の指導的立場にある人々です。スゴイことですよね。
もうひとつ、興味深いと思うのは、「出会い」が創出されているということです。この事業からは多くの副産物が生まれています。例えば、《プロトジェ》たちはこの事業を通じてお互いに知己を得ますでしょう? ここで知り合った違う分野のアーティストたちが他の芸術形態に興味を持ち、分野を越えて活動を広げて行くことを我々は期待しています。
選考委員の人々にとっても、――貴女も先刻おっしゃっておられたように──この事業への参加は有意義な機会です。《プロトジェ》として最終のリストからは漏れてしまったアーティストの中にも、選考委員たちの注目をあつめるアーティストがいたりするもので、選考委員らにとっては未知のアーティストについての情報を入手する良い機会です。彼らはフェスティバルのディレクターだったり、プレゼンターだったりキュレーターだったりという人たちですから、「この若手は《プロトジェ》には選ばれなかったけれど、私のところの来年のフェスティバルに出演してもらいたい」と思う選考委員がいたりしますし、実際にそういうことが起こっています。この意味で、この事業は、応募した若手アーティストたちすべてを間接的にではありますが支援していることになるわけです。

──実際、私が選考委員会で推薦して応募してきた演出家のひとりは、選考委員仲間のひとりであるフェスティバル・ディレクターの関心を引いて、彼の作品は2年後にそのフェスティバルに招聘されています。
ほらね。その通りなんです、とっても素晴らしい副産物でしょう?

──最後の質問です。私が選考委員を務めていた時に、選考委員は匿名だと解説されました。今後も匿名で通すべきでしょうか?
選考委員として“従事している期間”は匿名でなければなりませんが、貴女が選考委員として従事したサイクルはすでに終了していますから、もう明かしても大丈夫です。むしろ貴女が、選考委員に従事したことはとても有意義なことだった、未知のアーティストを知ることができて良かったと世間に語ってくれるのなら、それはこの事業にとっても良いことです。

──はい、必ずそうします(笑)。今日はお時間をどうもありがとうございました。
 
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