The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
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マーガレット・ローレンス
Profile
マーガレット・ローレンス氏
(Margaret Lawrence)

ホプキンス・センター プログラム・ディレクター

ホプキンス・センター http://hop.dartmouth.edu/
Profile
Presenter Interview
2009.2.28
Pioneering the role of the university-based arts center, The Hopkins Center for the Arts in New Hampshire, USA 
大学付属の芸術センターの草分け 米ニューハンプシャー州のホプキンス・センター 
米国において数ある大学付属の芸術センターの草分けとして、50年以上にわたって活動してきたダートマス大学のホプキンス・センター。学生アンサンブルによる公演、世界の一流アーティストによる公演、滞在制作による新作委嘱などを提供し、地域の「文化中心地」として重要な役割を担ってきた。米国を代表する舞台芸術プレゼンターのひとり、同センターのプログラム・ディレクター、マーガレット・ローレンス女史に、大学付属の芸術センターの役割と多彩なプログラムについて聞いた。
(聞き手:ジャパン・ソサエティー芸術監督 塩谷陽子


──ホプキンス・センターはダートマス大学付属の劇場ですね。日本では「大学付属の劇場とか、大学が運営している劇場などというと、そこはもっぱら学生の活動のための施設なのだろうと解釈されてしまうのが普通です。ところが米国では全く違っていて、市や州の中で最も優れた劇場は大学付属の劇場で、そこではプロの劇場運営者が企画した世界の一流の作品を一般市民に向けて上演しているケースが非常に多い。ホプキンス・センターもそうした劇場のひとつですが、まず、その成り立ちからお伺いしたいと思います。また、同センターの組織、運営体制、事業内容がダートマス大学とどう関係しているのかについてもご説明いただけますか。
 ホプキンス・センター(HOP)は1962年に建てられました。さまざまなジャンルの芸術を対象にした大規模な複合芸術センターをキャンパス内に建設しようとする動きがアメリカのあちらこちらの大学で起こった、その潮流の先駆けのひとつです。
 北米では、メジャーな劇場の多くが大学のキャンパスに付属しています。アメリカでは、公(行政)が芸術センターの運営を行うことは非常に稀なため、大学付属の芸術センターがメジャーなプレゼンターの役割を果たすべく成長してきた経緯があります。つまり、アメリカでは大学が自らを「学生に教育を与える場所」というだけでなく、そのコミュニティーの人々に対して「文化の中心地」としての機能する場所だと、自覚しているのです。

──1960年代以前には、大学付属のアートセンターというものは存在していなかったのですか? 
 カリフォルニア大学(UC)バークレー校などは、カル・パフォーマンスという劇場をもう100年も前からキャンパス内に擁していましたが、「多様なジャンルを対象にした複合芸術センター」という発想は、60年代の潮流以前にはありませんでした。HOPはまさにその先駆けでした。「複合芸術センター」としては、“大学付属”ということに限らず、ロサンゼルス・ミュージック・センターやニューヨークのリンカーン・センターよりもHOPのほうが先です。HOPの1年後にオープンしたリンカーン・センターのメトロポリタン歌劇場は同じ建築家がHOPをモデルにして設計したものです。
 HOPには、ただ劇場があるだけでなく、ギャラリーがあり、リハーサル・ルームがあって、そして映画上映も行っている。HOPは、こういう多ジャンルの文化事業を提供する施設を「地域の文化の中心」としてキャンパス内に建設しようという、当時の実験的な試みの、まさに最初のプロトタイプとなったわけです。
 HOPと大学および地域との関わりについてお話すると──。HOPは、ダートマス大学の一部であり、私自身も大学に雇用されています。ですが、私たちHOPのスタッフは、大学の学部・研究部門に属する職員ではなく、プロのアート・アドミニストレーターであり、大学の副総長に直属しています。HOPのビルの中には、芸術系の学部──演劇学部、映像&TV学部、音楽学部、そして美術学部──が入っていますが、彼らはHOPとは独立した“店子”のような存在です。けれども、学部と私たちは「店子と大家」の関係をはるかに超えたもので、常に緊密な協働・コラボレーションを行っています。また、私たちは、学部の学生のつくった舞台作品を一般に向けてプロモートするという役割も担っています。

──HOPと芸術学部との協働とはどのようなものですか? 例えば、教授が「これこれのアーティストやカンパニーをHOPで招聘・主催してほしい?」と提案するとか?
 そうであれば素晴らしいですが、たいていの場合はその逆で、私のほうから学部に対して提案します。例えば、この春までの3年間、演劇学部や他のさまざまな学科を巻き込んであるプロジェクトを行っています。それは、ドリス・デューク・チャリタブル財団の「クリエイティブ・キャンパス助成」を受けて実現したもので、「ひとりのアーティストの視点からテーマを考える」というプロジェクトです。そこで取り上げたテーマが「Class Divide(階層社会)」です。つまり、「上位にいる“持てる者”」と「下位にいる労働者層」との格差、この国の人間を二分し経済を二分している大きな社会経済問題をテーマにしました。
 そのプロジェクトの一環として、劇作家で俳優のアン・ガルジョアに、私たちの地域の住民の生活やその格差をもとにした演劇の新作を委嘱しました(*この新作、『You Can't Get There From Here(ここからじゃあそこへは辿りつけない)』は、HOPにて2008年11月に初演)。そのため、2年にわたって彼女は大学の演劇学部に何度も出入りすることになりました。
 アンのリサーチは、コミュニティーの住民やキャンパスの学生たちとの1対1の会話や、グループ・ディスカッションという方法で始められました。例えば、女子学生とのグループ・ディスカッションでは、「“階層”って何?」「初めて『この人とは階層が違う』と思ったのはいつ?」「お金持ちの人、あるいはお金の無い人に対して、これは顔に出せないなという感情を抱くことがある?」──といった質問を投げ掛けるわけです。
 こういう方法で非常に多くの住民や学生がプロジェクトに関与しました。また、ダートマス大学でも戯曲ワークショップなど色々な活動が行われました。昨年、HOPは、「ワーク・イン・プログレス(中間発表)」としてセットなし・俳優が片手に台本をもってのリーディング形式で新作を上演しました。公演後には観客とアンとのディスカッションを行い、もちろん学生たちも参加しました。
 このプロジェクトは、私が先導したものですが、その上で、演劇学部に対して「ワークショップだけではなく、“階層社会”をテーマに何か考えられない?」といって、プロジェクトへの参加を執拗に働きかけました。
 その結果、今年、学生たちによる『怒りの葡萄』の公演が企画されました。『怒りの葡萄』は貧困と労働運動──つまり“階層社会”をテーマにしたものですから。このように演劇学部としてこのプロジェクトに正式に参加することになったわけですが、その意思決定は彼ら自身によるものです(*『怒りの葡萄』はHOPにて2009年2月18〜28日上演)。
 こうした学部とのコラボレーションの成否は教授陣との付き合いを通じて彼らの興味や熱意をどれだけ共有できているかが鍵になります。インフォーマルですが、私は常日頃から演劇学部の教授陣と個人的な関係を築いているので、彼らの好みを知っています。音楽学部については、HOPとある種の提携関係を築いていて、学部のほうから毎年3グループの招聘要請がきます。私たちはそれをブッキングし、1週間のレジデンシーに招きます。グループを選ぶのは音楽学部ですが、プロデユースするのは私たちHOPです。
 
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