The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
Contents
Presenter Interview
Pioneering the role of the university-based arts center, The Hopkins Center for the Arts in New Hampshire, USA
大学付属の芸術センターの草分け 米ニューハンプシャー州のホプキンス・センター
──ひとつ思い出したことがあります。私たちジャパン・ソサエティーが川村毅演出による『Aoi / Komachi』の2007年春の北米ツアーをプロデュースしていた時、HOPをツアーの巡回先に組み込む相談をさせていただきました。その時に、「この作品は女性問題や日本のポップ・カルチャーなど、いろいろな角度から眺めることができるので、ダートマス大学のさまざまな学部を巻き込むことができそうだ」という話がでました。このアン・ガルジョアのプロジェクトでも他の関連学部を巻き込んだのですか。
 ええ。社会学、地理学、歴史、宗教などの学部を巻き込んでいます。学部以外にも、タッカー・ファウンデーションといって、学生が地域に労働奉仕をする時にコーディネートなどを行う部署も参加しています。
 芸術系の学部以外を巻き込んだいい例としては、昨年行ったマース・カニングハムへの新作委嘱のプロジェクトがあります。カニングハムは長期レジデンシーせずに、公演前1週間だけ仕込みやリハーサルのためにキャンパスで過ごしました。たった1週間でしたが、カンパニーのメンバーは、モーション・キャプチャーの技術協力や、抽象数学と身体運動の関係をデモンストレーションするなど、キャンパスのあちこちで活動してくれました。
 この新作は、舞台美術にロバード・ラウシェンバーグの絵画を使用していたため、美術学部は授業の一環としてリハーサルを見学し、絵画についての講義も行われました。また、カニングハムと(彼のパートナーだった)ジョン・ケージ財団の理事長を招いた対談も行いました。コンピューター科学学科の学生は、カニングハムが舞台で使用した鳥の絵を3Dアニメーション化する課題に取り組みましたし、さらに同学部の教授陣も参加して、ダンサーたちにモーション・キャプチャーのセンサーを付けて彼らの動きと3Dの鳥の動きを連動させる実験も行われました。
 このように、私たちは芸術系の学部だけでなく、キャンパス中の非常に多くの教授陣との関係を構築しています。HOPに招聘するアーティストが、公演以外の機会で接する人々の数は、学生と地域住民を合わせておそらく2万人以上になるのではないでしょうか。何しろものすごい数の関連イベントが実施されますからね。

──先ほど「HOPは学部の学生のつくった舞台作品をプロモートする役割も担っている」と言われました。実際、HOPのウェブサイトを見ると、学生のコンサートや学生の舞台の告知・宣伝が、世界の超一流のプロのグループ(招聘アーティスト)の告知と全く同列の扱いで掲載されています。
 HOPで“一般に向けて公開されるイベント”は、すべて「ホプキンス・センターの催し」という位置づけであり、大学が独自で行う学術シンポジウムなど一部の例外を除いて、「ホプキンス・センターの催し」のためのマーケティングはすべて我々の業務となっています。
 ダートマス大には各種の学生アンサンブル──ダートマス交響楽団、吹奏楽団、合唱部、ヘンデル協会、ワールド・ミュージック打楽器アンサンブル等々──がありますが、これらの指導に当たっているのは学部の教授ではなく、プロの音楽家です。実は、このプロの音楽家がみんなHOPのスタッフなのです。私たちはこれを「相互カリキュラム」と呼んでいます。というのも、学生アンサンブルの活動は、授業の一部や単位の対象にはなっていないものの、特別カリキュラムとして行われているからです。そして、これら“プロの指導による学生アンサンブル”のマネージメントは私たちが担当しています。その面から言えば、学生アンサンブルはHOPの常駐カンパニーとも言えます。
 私たちは、彼らの演奏会の日程を管理・調整し、演奏会をマネージメントし、チケットを販売し、そしてその他の一流のプロの団体のプログラムと同列に扱ってプロモートします。私たちはこうした学生の活動をサポートしたり助言したりするプロデュース的な役割も担っています。

──例えば学生の音楽アンサンブルの場合、具体的な演目は誰が決めているのですか?
 各アンサンブルを指導しているプロのディレクター──つまり各アンサンブルの指揮者でHOPのスタッフということですが──がディレクションしています。ディレクターの方向性だけで決まるわけではなく、学生の資質や力量なども考慮する必要があるため、演奏会直前まで演目が決まらないことも多い。「マーラーにしたいけど、金管奏者が揃うかどうかがわからない」とか。シーズン・ブロシュアに掲載する学生プロダクションのプログラム内容が曖昧なのはそのためで、予めシーズン・テーマを設けてプログラミングをすることもできなくて、マーケティングをする立場の私にはやっかいなことです。

──プログラムの質を一定に見せるためには、一流の招聘アーティストのプログラムと学生のプログラムとを別々にして宣伝したほうがいいとは思われないのですか?
 地域の人々は、どれが学生のものでどれが招聘アーティストのものかよくわかっています。しかも、両方の観客はその多くがオーバーラップしています。ダートマス交響楽団のチケットはいつも完売で、大勢の地域の人々が駆けつけますが、同じ人々がテナーのイアン・ボストリッジのコンサートにも来てくれる。彼らは違いを知った上で、両方を楽しんでいます。ですから、両方を並行して宣伝し、上演することで失うものは何らないと思っています。

──学生アンサンブルも年間のシーズンに組み込むとなると、招聘アーティストをブッキングするためのスケジュール調整がそうとう複雑になりそうですね。
 複雑です。ダートマス大は4学期制を採用していて、1学期あたり9〜10週。公演カレンダーを見ていただくとわかりますが、招聘アーティストの公演は各学期の最初の月に集中していて、ほとんど毎日のように行われています。そして各学期の2カ月目には、ほとんどの公演が学生のプロダクションになっています。つまり、学期の後半には演奏会ができる水準に上達している、ということなんですね。例えば今春、新学期は3月末にスタートしますから、4月の1カ月間は招聘アーティストのプログラムで、5月に入るとほとんどが学生のプログラムになり、演奏会や公演が終わったら、はい卒業というわけ(笑)。やっかいですが、慣れてしまえばどうなるかの読みはできます。

──そうしたプログラムの周期はマーガレットさんがここに着任してからの14年間でつくり上げたものですか?
 着任した時にはすでにこうしたパターンは出来上がっていました。なにしろHOPはもうじき50周年を迎える組織ですから。それよりもやっかいなのが、スペースの問題です。HOPには900席のコンサート・ホールと480席の劇場があります。演劇学科がプロダクションを制作する時に使えるスペースはこの劇場のみで、セットもステージ上で組んでいくため、私がこの劇場を招聘アーティストのために使えるのは、学期の始まりのごく短い期間だけ。その限られた日程にアーティストをブッキングするのは易しい作業ではありません。私はこのチャレンジングな“限られた日程”を、年に4回もっているわけです。
 
BACK
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
NEXT
TOP