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Presenter Interview
Berlin’s HAU as an epicenter of the performing arts — What’s the ideas behind its aim to “Create friction in the world?”
パフォーミングアーツの震源地HAU“世界に摩擦を起こす”その企みとは?
──リリエンタールさんは、2003年からHAU(Hebbel am Ufer)の芸術監督と経営責任者を兼任されています。HAUはベルリンの下町でトルコ人移民が多く住んでいるクロイツベルク地区にある3つの劇場(ヘッベル劇場ほか)からなる劇場運営組織ですが、どのような経緯で就任されたのですか。
 当時のヘッベル劇場の芸術監督が私を後任に推し、形式的な手続きとインタビューを経て決まりました。3劇場を統合して運営することはその前任者とベルリン州の意向で決定済みでした。HAU1(500人収容)はその建物の雰囲気といい、規模といい、国際的な招聘に最適な劇場ではありません。国際プロジェクトや外国からの招聘公演に非常に適している中規模のHAU2(200人収容)、小規模(100人収容)のHAU3が加わって、より多彩なプログラムの展開が可能になりました。

──現在のHAUの予算その他概要について教えてください。
 毎年ベルリン州から450万ユーロ(約6億円)が予算として支給されます。プログラム予算として別途40万ユーロ。合計して500万ユーロ弱。これに外部からの資金を獲得する努力をしており、毎年100〜200万ユーロをプログラム予算にプラスしています。職員は24人。
 ダンスと演劇部門に各一人キュレーターがいます。限られた人数の職員で1年に120のプロジェクトを手がけるので、一人一人の仕事は広範囲に及び、結局広報担当者であってもフェスティバルのキュレーションをすることもあります。年間来場者数は7万人。平均して70%の席が常に埋まっています。

──HAUのプログラムについて教えてください。
 HAUのプログラムでは、常に“摩擦を起こすこと”を試みています。例えばアルゼンチン出身でベルリン在住の振付家コンスタンツァ・マクラスのダンス作品『Hell on earth』は出演者の半数がダンサーで、あとはパレスチナ、アラブ、トルコ移民の子どもたちでした。この作品はあえて伝統的な建築様式をもつ劇場HAU1で上演しました。
 HAUのプログラムには2つの重点があり、そのひとつが移民問題です。劇場のあるクロイツベルク地区は50%が移民の出身と言われ、トルコ人が大半を占めています。その中でHAUは若いトルコ人の演出家、キュレーター、舞台美術家、役者とプロジェクトを実施し、移民の状況をプログラムで取り上げるような試みを行い成功しています。移民というテーマを扱うプログラムを劇場として実施し、彼らに対して扉を開き、彼らの問題や意見を取り上げること自体、今でもかなりセンセーショナルなことです。

──移民系住民は観客としてHAUにやって来ますか? ドイツの劇場の客席で移民系住民や外国人をみることはあまりありませんが……。
 ドイツのトルコ移民のコミュニティは家族単位の結び付きが強く、上演作品のキュレーターや演出家あるいは役者がトルコ系であるなど、自分たちの仲間が参加している場合は観客としてやってきます。HAUに行くかどうかを決めるのは、プログラムの内容ではなく、自分たちの仲間が関わっているかどうかです。これは非常にはっきりしています。反応は控えめですが興味津々です。

──もうひとつの重点は何ですか?
 それが6年前から続けているリミニ・プロトコルとの共同作業です。彼らはパフォーマンスの流れから出て来たアーティストで、自分の現実を未知のものとして問い直す作業を重ねて作品を作ります。ブルース・チャトウィンやレヴィ・ストロースがオーストラリアで放浪し、未知の人々に出会い、リサーチを重ねて文化現象を探ったように、同様のことをリミニ・プロトコルは手がけているわけです。
 ちょうど先日、デュッセルドルフ劇場とHAUの共同製作によるリミニ・プロトコル『資本論』が東京で上演されました。確かにカール・マルクスはドイツ精神科学史上重要な中心人物ですが、一方で現実に存在する社会主義すべてと非常に強く結びついています。ですがこの本を実際に読んだ人々はほとんどいないと言っていいほどです。この作品では10人の人生を手がかりに、今日の社会において資本の移動はどういう役割を担っているのか、お金がどう費やされているのかなどについてリサーチをします。例えばマルクス・エンゲルス著作集を出版した東ドイツの編集者の息子クチンスキー氏が登場し、同著作集の編集作業について観客にレクチャーをします。地元のテニスクラブの裕福なメンバーから資金を集めてネズミ講で増やそうとしたハンブルクの投資コンサルタントも参加しています。このシステムは破綻して集めた資金は露と消えたのですが、昨今の金融危機を先取りしたようなものです。

──リミニ・プロトコルの『Cargo Sophia − Berlin』も素晴らしい作品でした。観客は中を観客席に改装した貨物トラックに乗り込みます。トラックはアウトバーンにある長距離トラック専用のパーキング、生鮮食品の卸売市場、倉庫などさまざまな場所に観客を連れて行きます。その間観客は一面窓に改装されたトラックの横面から、ベルリンを見知らぬ街のように眺めるとともに、長距離トラック運転手の話を聞きながら彼らの仕事や生活を2時間にわたって追体験します。ベルリンという都市を再発見させてくれる、驚きに満ちた新鮮な演劇体験でした。
 これはブルガリアのソフィアで生まれた作品です。ドイツの長距離貨物サービス会社がブルガリアの国営会社を買い取りました。その会社には8000人の長距離運転手が従事していました。彼らはヨーロッパの企業のためにダンピング料金で長距離を走ることになったわけです。リミニ・プロトコルのシュテファン・ケーギは長距離貨物トラックを入手して改築し、高度な技術機材を設置しトラックの中に客席を設けました。トラックの片方の横面を全面ガラスに改装、内部からのみ外が見えるようにしました。
 つまり、観客にとって街中が舞台装置と化すわけです。道路に並行して観客が座り、長距離トラック運転手の日常生活を実体験します。ガソリンスタンドに停車しているほかのトラックのキッチンつき内装設備を観察し、また月額500から600ユーロという長距離運転手の低収入を知り、自分たちが全く知らない別世界が機能していることを知ります。観客を乗せたトラックは、倉庫や荷を降ろす港なども回り、町全体を舞台装置として体験します。さらに運転席では二人の運転手がそれぞれの人生を語ります。この作品はアヴィニョンその他ヨーロッパの各都市で上演されました。アジアの運転手を見つけてアジアでもやりたいと思っています。シンガポールと横浜が候補に挙がっています。
 
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