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Presenter Interview
Berlin’s HAU as an epicenter of the performing arts — What’s the ideas behind its aim to “Create friction in the world?”
パフォーミングアーツの震源地HAU“世界に摩擦を起こす”その企みとは?
──リミニ・プロトコルの新作の初演がつい最近HAUであったと聞きました。
 ケーギの『ラジオ・ムアッジン(Radio Muezzin)』です。彼が『カーゴ・ソフィア』の公演でアンマンに滞在した際、“ムアッジン”の統合化の計画があることを知りました。ムアッジンとはイスラム教の礼拝を呼びかける役で、モスクのミナレットという塔の上から拡声器で礼拝を呼びかけます。声質にばらつきがあることからムアッジンを36人に絞り、ひとつのモスクでのみ呼びかけが行われ、これをラジオでほかのモスクに中継することが決定されたのです。同様の決定がエジプトのカイロでも下されました。
 ケーギはカイロのゲーテ・インスティトゥートとHAUと共同で、ムアッジンについての作品をつくりました。4人のムアッジンと1人のラジオの技術者が、ムアッジン統合計画についての考えを述べます。まず礼拝を呼びかけるアザーンを歌います。それから自分たちの日常の仕事、毎朝4時半にモスクを開けること、信仰について、モハメドがムアッジンは男性だけと定めたことについて、男女の厳格な隔離について、中央ムアッジン36人の1人に選ばれたことについて、また選ばれなかったことについて語ります。エジプトの盲目のムアッジンについて、かつて建築現場で技術者として働いていたムアッジンについて、あるムアッジンの給与は月給50ユーロと低くカイロで生活していくのが厳しいことについてなど、個々のムアッジンの人生や生活が語られます。特別重要視されていない職業ですが、本人たちにとってはこの職業につくことは楽園行きの約束であり、中央化によってこの職を奪われることはとても重大なことなのです。

──リミニ・プロトコルのほかに、長年あるいは密接に共同作業をしているアーティストはいますか。
 常に10人から15人と継続的に共同作業をしています。アルゼンチン出身の振付家コンスタンツア・マクラスは、ダンサーと子どもたちによる作品を作っています。アンドカンパニーはまだ若いカンパニーですが、『little red (play)』という作品で、共産党の歴史を赤頭巾ちゃんの童話をもとに新たに解釈しています。これを皮切りに共産主義三部作が出来上がりました。ほかにはゴブ・スクワット、シーシーポップなど。ハンス・ヴェルナー・クレージンガーもいます。彼はドキュメンタリー演劇のベテランとも言うべき存在で、非常に深い問題意識をもち政治にコミットする作品をつくっています。最近では、ルアンダの大虐殺を扱った作品を書き舞台化しました。

──フォルクスビューネ時代ですが、テーマをもった「ウィークエンド」という企画がありました。テーマを設定し、実際の失業者やトルコ移民3世の若者を招き、哲学者などを交えてディスカッションやワークショップ、コンサートなどを行うというものです。HAUでも同様の企画がありますか。
 ある現象にジャーナリスティックにアプローチする企画はやっています。先日は音楽産業の危機を取り上げました。インターネットの発達と普及で音楽のダウンロードが可能になり、CDが売れなくて打撃を受けた音楽産業は出直しを余儀なくされています。そのような状況を、コンサートやディスカッションなどを通して探っていくのです。
 今ベルリンではエレクトロニカが大変なブームで、毎週金曜日より月曜の朝にかけてベルリンのクラブは超満員になります。バルセロナ、ロンドン、パリ、モスクワなど各地から毎週末イージージェットなど格安の航空便を利用して若者が大挙してやって来るのです。ベルリンは彼らにとってのある種の都になっています。クラブに出演するアーティストの中にベルリン出身者はほとんどいません。イージージェットはヨーロッパ中の都市を結んでいます。例えていえば東京と横浜間を走る電車のような感覚です。こういう状況も踏まえて企画しました。アイディアは自分が出し、キュレーションは音楽専門誌「SPEX」の元編集長でスイス出身の評論家クリストフ・グルクと共同で行いました。マシュー・ハーバート・ビッグ・バンドやヤング・マーブル・ジャイアンツのコンサートも実現させました。

──2004年演劇専門誌「テアターホイテ」の批評家による投票で、HAUはドイツ語圏の劇場のベストワンに選ばれました。既存の公立劇場とは異なるシステムも評価されたのでしょうか。
 どうですかね。ただひとつ言えるのは、リミニ・プロトコルのように素人の出演者や「日常生活の専門家」と作品をつくる際には、当然、私たちのように専属の劇団や舞台スタッフ等のいない、従来の劇場システムを採用していない劇場のほうが適しているということです。私たちの新しいシステムの方が自由度は高くなります。ドイツの既存のシステムには多額の予算が必要で、ベルリンでは毎年1劇場あたり1200万〜1500万ユーロ支給されています。ただし上記のような私たちのシステムでもやはり作品制作には多大な費用がかかります。

──ドイツの再統一、EU統合はHAUのプログラムにどのような影響を与えていますか。
 私たちは隣国で重要なポーランド演劇界との結び付きを深めています。またEUの中で劇場のプレゼンスを高めることが非常に重要になってきています。EU統合が進んでも加盟国独自の政策を実施できるというのは幻想です。今は多くをブリュッセルがコントロールしています。ヨーロッパはもはや北米のような国になってきています。各国には田舎芝居のような政治が残っているだけです。

──そうは言っても、ドイツ語圏の演劇界というのはEU統合の中でもやはり独自の文化圏を形成しているのではないですか。
 ダンスについていえば、ヨーロッパが明らかにひとつの文化圏です。演劇については、スイスのドイツ語圏とオーストリア、そしてドイツが確かにひとつのドイツ語圏文化圏を形成してはいます。しかし、ヨハン・ジーモンス(注:オランダ出身の演出家、次期ミュンヘン・カンマーシュピーレのインテンダントに内定)やイギリスのアーティストグループForced Entertainmentの活動はドイツ語圏だけでなくヨーロッパ各地に広がっています。ベルリンには英語で活動するドイツ語圏以外からのアーティストも多いですし、また実際英語で生活できるようになりました。英語の映画だけを上映する映画館、英字新聞も増えてきています。ベルリンの国際化は東京よりも進んでいるかもしれません。ベルリンにおけるさまざまな国際共同プロジェクトをみると、ドイツ語圏だけにとどまっていないことがよくわかります。
 
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