The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
Contents
Presenter Interview
Homeless and Artists Working Together  Streetwise Opera
ホームレスとアーティストが協働 ストリート・ワイズ・オペラ
横浜市・寿町の住人を対象に行われたワークショップ(2009年9月2日)
ストリートワイズ・オペラ
撮影:大河内禎
──実際にSWOのクリエイティブな活動に携わったことにより、人生で大きく前進することのできたホームレスの方の事例などがあったら教えてください。
 とても長い間ホームレス生活を続けていた、ある男性の話をします。彼はとても深刻な精神的問題を抱えていて、いつも同じジャケットを着て、いつも自分の持ち物をその上着のポケットにしまいこんでいました。それが彼の全財産だったんです。そして彼はどんなことがあっても、決してその上着を脱ごうとしなかった。10年間ずっとです。でも彼がSWOの公演に参加することになったとき、どうしてもその上着を脱いでもらう必要が出てきた。そうしなければ衣装が着られないからです。そこで私は彼にお願いしに行ったんです。「あなたがジャケットを脱ぎたくないのはわかります。でも、もしできるならお願いできませんか」。そうしたら彼は、目の前で上着を脱いでくれました。ホームレスセンターの人たちは仰天していました。ジャケットを脱ぐなんて大したことじゃないと思えるかもしれませんが、なにせそれが彼の過去10年における最大の変化だったわけですから。つまり彼はそのとき初めて、ジャケットがいらないと思えたわけです。たいがいアートが人に与える影響というのは計測不能な場合が多く、とても曖昧なものとみなされます。でも時には人間のことを、もう少しホリスティック(全体的)に考える必要がある。家に住めた、仕事が得られた、といった物理的側面だけでは計測できない何かが人間の中にはあるのです。

──現段階で、SWOが政府と協力して行っているプロジェクトは何かありますか。
 近年、英国コミュニティ・地方自治省(以下DCLG)がSWOの活動に興味を示してくれています。DCLGの中にホームレスに対してのポジティブ・アクティビティーに取り組む部門が新たに設けられたため、私たちはその部門担当者との会話を通じて、政府にアートの価値を正しく認識してもらうための教育を進めているところです。ちなみに英国政府はロンドン・オリンピックが開催される2012年までに「街からホームレスを一掃する」というマニフェストを掲げています。この心がけ自体は称賛に値すべきものです。けれど少し皮肉めいた見方をするなら、疑問視せざるをえない部分もなくはない。なぜなら路上生活者が街からいなくなれば、おそらく政府は「よくやった」とその成果を讃えられるでしょう。けど、それで国からホームレスが一掃されたわけではないからです。イギリスには臨時保護施設などの屋根の下で暮らす隠れたホームレスたちが、路上生活者の800倍もいます。彼らの孤立した人生を解決せねば、本当にホームレスの問題が完治したとは言えないでしょう。とはいえ、私は政府のポリシーがすべて悪いといっているわけではありません。明らかに政府は以前よりも、我々SWOのようなアート団体の活動を認めてくれています。そして、どんなかたちであれ国がSWOに注目してくれるのは嬉しいことです。なぜなら、それだけで私は活動資金を集める際に「私たちの活動は政府の方針に沿うものです」と言って、よりたやすく資金援助者を説得することができるからです(笑)。

──SWOの現在の年間予算と、その内訳について教えてください。
 年間予算総額はおおよそ50万ポンド(約7,400万円)。内訳は、約20%がアーツカウンシルなども含めた国からの助成金、約60%が30ほどの異なる社会事業団体から得る助成金、そして残りの20%が各地ホームレスセンターや企業からのサポートです。年一度のパフォーマンスの制作費も、これら助成金で9割が賄われています。昨年度初めて公演でチケット代を回収することを試みましたが、その売上げも全体予算の1割ほどにしかなりませんでした。しかも、それはそのまま来年度の制作資金に回される。あくまでもチャリティ団体であるSWOは、剰余金は認められても利潤を生み出してはいけないのです。ちなみに我々にはコアとなる大きな収入源がありません。ある部分では意図的に、資金調達に際してなるべく幅広い組織から少しずつ資金を得るようにしているからです。これは一種のリスクヘッジです。最大規模の助成金でさえ3年契約で終わってしまうため、ひとつの大きな助成金にすがってそれが切れたとたん活動を休止せざるを得ない、という事態を避ける必要があるからです。

──英国アーツカウンシルからは、具体的にどのようなサポートを得ているのでしょうか。
 アーツカウンシルは常に協力的な姿勢を崩さずにいてくれました。感謝しています。ただ我々の場合に難しいのは、活動がどこかひとつの部門にフィットするものではないということです。例えばここには、音楽やビジュアルアートなどの芸術一般を司る部門があり、さらにアートを用いて社会活動を促す部門があります。私たちはこの双方の部門とやりとりをしています。またアーツカウンシルにはもちろん本部と地方支部があり、私たちはオフィスがロンドンにあるため基本的には本部の人たちと話を進めているわけですが、最大規模のワークショップ活動はニューカッスルで行われているため、これもまた少しややこしかったりします。つまり窓口がひとつでないために、コミュニケーションが少し滞ることがあるのです。ただそうした事情があるにしろ、アーツカウンシルは毎年私たちに対して助成金を増額してくれています。将来的には、現在毎年獲得しているプロジェクト型助成金に併せて、継続的助成団体(Regular Funding Organization)のひとつに組み込まれるようになればと願っています。

──ニューカッスルをはじめ、ロンドン、ルートン、ノッティンガム、マンチェスターなど、SWOがワークショップを開催している全国11カ所のホームレスセンターとはどのようなパートナーシップを築いているのでしょうか。
 各センターで働くサポートワーカーの方々に参加者を精神面から支えてもらい、私たちはそこにアートだけをもって入る。そのような関係性を築いています。サポートワーカーの力なくしては、我々の活動はありえません。だからこそ我々は、そうしたサポート体制が整っているホームレスセンター内でしかワークショップを行わないのです。全国11カ所という数に関しては、特に意味はありません。また特にアートに対して理解のあるホームレスセンターを選んでいるわけでもありません。むしろ、芸術活動のようなものに全く縁のない地域、特に恵まれない人々の多い困窮したエリアに出向くほうがチャレンジングで面白いです。
 実務的側面だけから言えば、来年度から全国50カ所のセンターと一気に仕事をし始めることも可能です。我々が今まで全国のホームレスセンターで行ってきた活動は、かなりの高評価を得ているので、その評価を武器に活動を拡張していくことも可能なわけです。けれどそうして規模を拡大することだけに目を向けていくと、活動の質が劣化する可能性がある。私は、自分自身が質を把握できないほど多くのホームレスセンターにまで活動規模を広げることにためらいがあるのです。だから今は戦略コンサルタントと話し合いを進め、今後どのようにSWOを成長させていきたいか作戦を練っているところです。
 
BACK
| 1 | 2 | 3 | 4 |
NEXT
TOP