The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
Contents
Presenter Interview
Homeless and Artists Working Together  Streetwise Opera
ホームレスとアーティストが協働 ストリート・ワイズ・オペラ
ストリートワイズ・オペラ
『マイ・シークレット・ハート』
My Secret Heart

マイ・シークレット・ハート
マイ・シークレット・ハート
(C) Rob Slater/Flat-e.com
──「エバリュエーション・ツリー」と呼ばれる、ワークショップ参加者の進歩を数値化する評価方法について教えてください。
 まず、この効果測定モデルを構築するにいたった経緯からお話します。私は常々アートが人にもたらす成果を、誰もがわかる形で定式化したいと考えていました。なぜならアート業界の人々はそうしたことがとても苦手だから。我々よりも前に障害のある人々と仕事をしていたアート関係者にしても、アートがもたらす感情や喜びをうまく社会に説明できている事例はありませんでした。だから私はSWOの活動を始めた頃に、よく資金提供者たちに質問されました。「私たちがあなたに5万ポンド(約740万円)払いますよね。それでどんな成果が得られるんですか? 他人がただ楽しい思いをするだけですか?」ってね。これは実際、的を射た質問です。そこで私は一度エバリュエーション・コンサルタントと話し合う機会を設け、自分たちのワークショップから派生する成果のパターンを探っていくことにしたんです。なぜなら当初から私たちには、ホームレスの人たちの人生を何らかの形で変えているという手応えはあったものの、それら手応えの因果関係を読み解き、ひとつのしっかりとした構造モデルを導くにまで至れていなかったからです。そこで私はコンサルタントと何度も会話を重ね、それまでにも何人かの参加者にインタビューをしていたのでそこから成果を洗い直していき、またキーワードをいくつか選びだしていった結果、この「ツリー・エバリュエーション」が完成しました。
 成果パターンから得られたキーワードは、ツリーの根になりました。それは次の6つの成果です。[1]自信の回復、[2]自尊心の獲得、[3]学習意欲の向上、[4]社交ネットワークの拡張、[5]社会活動に参加する喜びの増加、[6]芸術活動に対しての意欲の増加。そしてこれらの根の先に、個々人によって全く異なる枝葉が広がっていくことがわかりました。それは先ほど言ったジャケットを脱いだ男性の例だったり、また薬物の使用量を減らすことができた人であったり、ワークショップに参加することさえためらっていた人が千人の観客の前でソロを歌えるようになったことであったり。実にさまざまです。ちなみにこれらエバリュエーション・ツリーに関しては、担当のワークショップリーダーとサポートワーカーが共同で「パーソナル・ディベロップメント・プラン」と呼ぶ育成計画を策定し、両者の観察とインタビューにより随時参加者の評価を行っていきます。

──02年以後続いている年1回のパフォーマンスに関してうかがいます。05年度までは、ブリテン、マーラー、ヘンデルとジミ・ヘンドリクスなどの既存曲を使用してオペラ作品を上演されていました。しかし06年度以後は、現存する作曲家に委嘱するかたちで新作オペラをつくられています。どのような基準で参加アーティストは選ばれているのでしょうか。
 嬉しいことに、この仕事に就いてから劇場に足を運ぶ時間に恵まれるようになりました。だから私は、有望なアーティストについてかなり早い段階で情報を得ることができるわけです。とにかく私はなるべく実験的なことがしたいんです。『ラ・ボエーム』や『カルメン』をつくったって面白くありません。むしろ最新作『マイ・シークレット・ハート』で楽曲提供してくれたミラ・カリックスのような、前衛的な若手作曲家と仕事がしたい。また今後は『マイ〜』と同じように、映像を使った作品を増やしていきたい。それで、より多くの人々にSWOの作品にふれてもらえればと思います。次回作では、6名の作曲家と6名の映画監督と仕事をするつもりです。そして彼らに「寓話をつくってください」とだけ指示を出すつもり。あとは完全に彼らの自由です。私の信念として、アーティストにはアートのことだけに集中していてもらいたいんです。だからいつでも万全なインフラを整えて、ワークショップリーダーとサポートワーカーと参加者を用意して、彼らアーティストには自由な気持ちで作業に臨んでもらうようにしています。彼らにはただ、参加者たちをその才能でインスパイアしてもらいたいんです。

──アーティストとホームレスの人たちとの、実際の創作作業はどのように進められていくのでしょう。最新作『マイ・シークレット・ハート』を例に説明していただけますか。
 まず私が作曲家のミラ・カリックスと映像作家のFlat-eと大枠の打ち合わせをしました。そしてこちらからは「アレグリ作曲の『ミゼレーレ』を使いたい」という提案をしました。創作面に関しては、あとは完全に彼らの自由です。すぐにFlat-eが「360度スクリーンの映像インスタレーションにしたい」というアイデアを出してきてくれて、私は「いいね」と頷いているだけでよかった。で、だいたいのビジョンが見えてきた時点で、私は各地のワークショップリーダーたちにアレグリの楽曲を参加者たちに練習してもらうように指示しました。なぜならこれはラテン語の楽曲だから、そんなに簡単なものじゃない。ミラとFlat-eが稽古場に来る3カ月前から少しずつ稽古を積んでおいてもらうことにしました。そして6月頃に、アーティストたちが稽古場に入って実際の録音作業などを進めていきました。1週間はニューカッスル、1週間はロンドン、1週間はその他のミドルランド地域。それで夏の間に、アーティストたちも、参加者たちも、個々にやるべきことを仕上げて、10月にスイスでプロトタイプ作品を発表しました。そしてその結果も踏まえて、正式に100人の参加者たちと共に、12月にロイヤル・フェスティバル・ホールで世界初演を迎えたわけです。

──最後の質問です。今後のSWOの目標を教えてください。
 まず第一に、そして何よりも、活動を継続できるだけの資金を集めることです。来年も同じことができていると自信をもって言うことは誰にもできませんからね。もちろん私はそれが実現可能なように、できる限りのことをするつもりです。そしてその第一の条件が満たされた上で、次に将来的にどのようにSWOを成長させていくかを考えていかなければと思います。もちろん、私は現在のSWOが達成している成果にかなり満足しています。今は年間公演とワークショップのバランスが非常にうまく保たれています。また自分たちの公演とワークショップの質にも満足しています。ただ私はもう少しだけ地理的に活動を広げることに興味がある。だから今後は、スコットランドやウェールズ、また世界にも目線を向けていこうと考えています。また私たちのワークショップに参加することによって、何らかの資格を得られるようにもしたいですね。参加者全員にSWOの認定書を与えるわけです。でもこれらはすべてまだ未確定なことです。とにかく将来どうなるかはわかりませんが、私はひとりでも多くのホームレスの人たちを助けたいと考えています。
 
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