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Artist Interview
Weaving a thread of the supernatural into the daily lives of the young generation The world of playwright Tomohiro Maekawa and his theater company Ikiume
若者の日常生活を怪奇現象と絡ませる 劇団イキウメ・前川知大の劇世界
イキウメ『表と裏と、その向こう』
(2008年7月/紀伊國屋ホール)
撮影:田中亜紀
表と裏と、その向こう
イキウメ『眠りのともだち』
(2008年2月〜3月/赤坂RED/TEATER)
撮影:宮川舞子
眠りのともだち
──お話をうかがっていると、前川さんの作品の書き方は、まず巨大なハテナがあって、書きながらそれを少しずつ崩していく。最後に答えが出るかどうかはわからないけど、とりあえず目の前の謎を手がかりに書き進めていく、という感じですね。
 そうです。どんな不思議なハテナが立てられるかというのがまず先決で、次にそのハテナをいろいろな角度から見て、こんな見方が面白いというのがでっち上げられれば成功という感じです。
 『散歩する侵略者』で言うと、以前書いた物語からアイデアが生まれました。それは、アメリカに留学したのに外へ出るのが恐くて部屋から一歩も出ない日本人留学生の話だったのですが、友達3人が日本からやって来たけど、彼らも恐くて外に出られない。食べ物はデリバリーでなんとかなるし、買い物はインターネットの通販でできるし、情報はテレビでわかる。そうすると、ここが日本でもニューヨークでも、どうでもよくなってくるという話なんです。
社会への窓がインターネットとテレビなら、まるっきり日本と同じ。じゃあ俺たちいったいどこにいるんだ。ということは、そこでは「国」という概念が消失してるんじゃないか。国という概念が消失したところで彼らはどんな会話を交わすのだろうか、アメリカや日本というのがただのものの名前にすぎなくなっているところで彼らはどんな会話を交わすのだろうか……。色々な概念が抜け落ちた人間というのはどう変化していくんだろうか、と興味が展開していって『散歩する侵略者』のアイデアの基になりました。
 じゃあその概念を奪うものは誰?となると、もうベストなのは宇宙人でしょ(笑)。どんな宇宙人か、というので思いついたのが、ウルトラセブンの「狙われた街」(ウルトラセブンは1960年代に放映された特撮テレビ番組。宇宙からやって来たウルトラセブンというヒーローが地球の侵略者や怪獣と戦う人気シリーズ)に登場したメトロン星人(笑)。
 メトロン星人は、田舎町の安アパートを基地にして、駅前のたばこの自動販売機に人を発狂させてお互いが殺し合うという毒を仕込み、地球侵略を謀るんです。なぜ田舎の安アパートなのか、なぜ一銘柄にだけ絞って毒を仕込んだのか……。
 たぶんメトロン星人は、事前調査をしていて、自分たちが直接武器をもって攻め込まなくても、地球人は負の感情をいっぱい抱え込んでいて戦争をやめようとしない人種だから、互いに殺し合ってくれたらOKなんじゃない?と考えたんじゃないか。いや、これはあくまで僕の想像なんですが、そういうメトロン星人のイメージが『散歩する侵略者』の宇宙人に繋がっています。メトロン星人って金魚に姿が似ているでしょ。『散歩する侵略者』で最初に宇宙人が金魚に乗り移るのはそのせいなんですが、結局、メトロン星人のエピソードはそこにしか残ってない(笑)。
 「狙われた街」のラスト、六畳一間の安アパートでコタツをまん中に挟んでウルトラセブンとメトロン星人が対面し、地球いや宇宙の平和について語り合うという有名なシーンがあります。そこが本当に格好よくて、概念を抜き取ることで、宇宙人にすることで、照れずにコタツを囲んで宇宙の平和や愛が語り合えるんじゃないか、語れるなら語っちゃえと思って書いたのが『散歩する侵略者』です。

──前川さんは元々映画から出発されていますが、演劇を始めるにあたって影響を受けた人はいますか?
 芝居始めるときに、ザッと見て回ったんですが、何を語ろうとしているかばかりに目がいっちゃって、演劇としてどうかという風に見ていませんでした。僕にとってはまず語りたい物語があって、それをお客さんに伝えたくて演劇でやっているところがあります。演劇の流れの中から何かを始めたわけではなくて、一番重要なのはやはり物語なんです。

──演劇的な効果を考えて、あえて劇構造を迷路じみたつくりにするという方法もあります。そうした劇構造のつくり方についてどう考えていますか。
 僕もそう思った時期がありました。複雑な劇構造の方が格好いいというか、上級なんじゃないかとか(笑)。でも、やっぱり伝わらなくちゃ意味がない。今は、ズドンと伝わった方が強いと思っています。

──前川さんの作品は、破綻した状況設定であるにもかかわらず、人間関係は破綻していないというか、信頼関係があって、仲間意識があります。同世代の劇作家たちが破綻した人間関係や孤立した人間を描いているのと対照的ですが、そうした人間観はどこからきているのでしょう。
 そうですか、信頼関係がありますか(笑)。僕自身は、一時吃音だったこともあり、そんなに対人関係がうまいわけではありません。人見知りだし、あまり喋らないし、だけど、そのことから意識的に抜け出そう、ちゃんと喋らなきゃ、と努力してきました。人に対する信頼感がどこからきているか考えたことはありませんが、僕の中には割りとあるほうだと思います。それは別に性善説とかじゃなくて、人間に対して期待したい、いざとなったら人間はきっとうまくやるだろうみたいな期待感がある。それと、人の醜い部分をことさら舞台に上げたいという欲望もほとんどありません。もちろんお客さんがシンクロしちゃうほど人の心の醜い部分を掘り下げるという作品があっていいと思いますが、それは僕の趣味ではないということです。
 
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