──しかも、次の世代に芸を継承していく役目もあります。
そうですね。それをいつも思ってアクションをするようにしています。僕らの年代は、20代半ばで一人前になる人が少数ですがいました。ところが今では30歳を過ぎないと一人前になった人が出てこない。一般社会では30歳といえば家族を養うぐらいじゃないといけないのに、能の世界ではまだ1年生です。
なぜかといえば、大学を出てから能の世界に入る人が圧倒的に増えたからです。昔は「大学なんて行くことないから能をやれ」でしたけれど、今は大学ぐらい出たらという状況です。芸術大学に行ったとしても、観世流の場合は普通の大学に行ったのと同じ扱いなので、プロになるには卒業後5年間、先生のお宅に住み込む内弟子修業が必要です。その後に研修会などに出るとプロとして認められるのですが、順当に行っても27歳。1年ぐらい先生の鞄持ちをして28歳。能のシテができるようになるにはもう1、2年必要ですから、30ぐらいになってしまう。それから5、6年やって、ようやくある程度の仕事を任されるようになるわけです。そうではなく、これからの若手の育成は発想を変えていかなければならないかもしれません。
例えば、シンガポールの俳優や演出家を育てる芸術学校「Practice Performing Arts School of Singapore(PPAS)」で教えた時には、ひげのインド人にまじめな顔で「僕は能のプロフェッショナルになれますか」って聞かれましたが、外国人に対する育成システムを私どもは持っていません。それは外国人を排斥しているのではなくて、5年間住み込みで修業するという観世システムに外国人という発想がなかったわけです。