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ヒッキー・カンクーントルネード
ヒッキー・カンクーントルネード
ハイバイ
『ヒッキー・カンクーントルネード』
(2009年)
撮影:岩井泉
Data
[初演年]2003年(シノプシスは2010年版から作成)
[上演時間]1時間20分
[幕・場数]1幕11場
[キャスト]6人(男3[1名は声のみ]・女3)
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2011.9.8
Hikky Cancun Tornado by Hideto Iwai 
岩井秀人『ヒッキー・カンクーントルネード』 
 劇作家・演出家・俳優の岩井秀人が主宰する劇団「ハイバイ」の旗揚げ作品。一時期引きこもりとして過ごした岩井の体験がモチーフ。プロレスラーに憧れる引きこもりの青年・森田登美男とその母、妹・綾の家族と、自立支援団体の職員のやり取りをコミカルに描きながら、登美男が外出できるようになるまでの経緯を描く。素舞台にテーブルや椅子などの家具を置き、森田家のリビング、自立支援団体の事務所などに見立てていく。


 登美男の母が、公衆電話から離れて暮らす夫に電話をしている。そこで、引きこもりの人間を訪問し自立支援する団体の存在を聞かされる。

 森田家の居間。登美男が綾とプロレス技を掛け合っている。呼び鈴が鳴り、登美男は緊張しながら応対に出る。舞台外で郵便配達との荷物の受け渡しが声だけで演じられる。
 疲れた様子で登美男が戻ると、すぐにまた呼び鈴が鳴る。今度は綾が出ると、母だった。来客の応対はリハビリ替りに登美男が行う約束で、できれば500円ずつご褒美がもらえることになっていた。綾が郵便物を登美男が受け取ったことを伝えると、母は500円をご褒美袋に入れた。森田家の日常的な風景──。

 自立支援団体を訪ねた母に、自身も8年間引きこもっていたが、今は職員だという圭一が対応に出る。引きこもり克服の経緯を尋ねられても、圭一は言葉を濁すだけ。登美男に会いたいという圭一を連れて、母は自宅に向かう。

 居間では綾が、登美男に彼氏ができたことを告白している。孤独を感じた登美男は、貸していたプロレスのビデオについて綾にイチャモンをつけるが、話題がルチャ・リブレ(メキシコのプロレス団体)に移るやご機嫌でプロレスのコスチュームに着替え、綾に見せびらかす。
 
 そこに前触れもなく圭一を連れた母が現れる。驚き、綾を投げ飛ばし自室に逃げ去る登美男。母の独断を責める綾。母も引きこもる息子の将来や、家族の現状に対する不安を口にし、最後には二人とも泣き出してしまう。母と娘の諍いをよそに、登美男の部屋からは楽しげな笑い声と物音が聞こえてくる。

 翌朝。プロレスを介して意気投合した登美男と圭一は「タッグを組んだ」と宣言。しかも、登美男は圭一に「綾ともタッグを組め(男女としてつきあえ)」と無茶を言い出す。断固として拒否する綾。

 一方、母は再び支援事務所を訪れる。相手は黒木香織という女性職員。圭一の引き取りを頼む母に、黒木は「圭一は“飛びこもり”という、どんな環境にも過剰適応してその場にこもる患者で職員ではない」と言う。黒木はさらに、登美男に良い療法があると持ちかける。

 再び森田家の居間。プロレスごっこをする登美男と圭一、その様子を苦々しく見つめる綾。そこへ黒木が現れる。圭一を連れ戻そうとする黒木に「圭一は移籍して僕とタッグを組んだ」と抗う登美男。それなら「移籍金を払え」と迫る黒木。困り果てた登美男に、黒木は「代わりに買い物に行って欲しい」と提案する。

 居間では圭一と綾が買い物に出た登美男と、それを追う黒木の帰りを待っている。綾は、自分が今まで兄のために何をしたかを自問している。そこへ帰宅する母。事情を聞いて喜ぶ母は、父に報告の電話をしようと立ち上がるが思いとどまって夕食の準備をはじめる。
 
 そこに血だらけの登美男を背負った黒木が帰って来る。意識を取り戻した登美男は、激しく怯えている。黒木は引きこもりの人間に対する「買い物療法」の有効性を説明するが、母は激昂し、黒木を責める。黒木は登美男に呼びかける。「今日以上に悪いことは社会にはない。明日、外に出るべきだ」と。「家に居させてあげればいい」という綾と「このまま出られなくて良いのか」という母が口論をはじめる。圭一は黒木を連れて家を出て行く。

 翌日、綾は電話で昨日の経緯を黒木から聞いている。買い物を終えた登美男は混雑した電車内で背負ったままのリュックを注意され、下ろそうとして荷物をバラまいた。荷物を拾い集める中、周囲の視線と嘲笑に耐え切れず嘔吐し、それを浴びた高校生の集団に袋叩きにされたのだと。

 一瞬、無人の居間。電話で話しながら現れた綾は、登美男に近くの公園に「みちのくプロレス」が来ていると告げる。飛び出して行く綾。残された登美男の周囲でざわめきが大きくなる。

 再び公衆電話で父と話していた母は、通りかかる綾を見つけ、その後に登美男がいるのを見て興奮して喋り続ける。母は、公衆電話を離れ、二人の行く末を確かめるようにウロウロ歩きつつ退場する。

作者プロフィール:[生年]1974
1974年、東京都出身。15歳から20歳くらいまでを、「引きこもり」として過ごす。2001年、桐朋学園大学卒業。2002年にプロデュース公演「竹中直人の会」の『月光のつつしみ』(岩松了作・演出)に代役として関わったことをきっかけに、喋り言葉の演劇を知り、2003年、プロレスラーに憧れる引きこもりの青年を描く『ヒッキー・カンクーントルネード』で「ハイバイ」を旗揚げ。以降、ハイバイの全作品の作・演出を担当し、俳優としても出演している。作品の多くは自身の個人的な体験を元にした、生々しくも笑えるコメディ。自己と他者との距離感に敏感過ぎる主人公を中心にした人間関係を、徹底的に客観視することから可笑しみと切実さが立ち上がる。近年は外部作品での演出・出演、戯曲提供など活動の場を広げている。代表作に『おねがい放課後』(2007)、『て』(2008)、『投げられやすい石』(2011)など。『ヒッキー・カンクーントルネード』は2011年10月、韓国の舞台芸術見本市「pams」でも上演される。
http://hi-bye.net/
 
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