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アンドレス・ロドリゲス
Profile
アンドレス・ロドリゲス氏
(Mr. Andres Rodriguez)

チリ・サンチアゴ生まれ。サンチアゴ市立劇場総芸術監督。1978年チリ・カトリック大学法学部卒業。1979年イタリア・Benedetto Marcello音楽学校に留学。チリ国内の文化団体理事を務める他、さまざまなコンクールの審査員を歴任。アメリカ、フランス、ドイツ各政府から招待を受ける。特にドイツからは、第1位十字勲章を受ける(1998年)。
国内においても、Ernesto Pinto Lagarrigueユs Medal(1997年)、Pablo Perez Zanartu(2004年)授賞。サンチアゴ市立劇場芸術事務局長兼芸術監督を経て、1986年より現職。
2006年9月に、国際交流基金「文化人短期招へい」プログラムにて、日本とチリの芸術交流のための文化・芸術関係機関関係者との意見交換、および日本伝統芸能の視察のため来日した。

サンチアゴ市立劇場
http://www.municipal.cl/
サンチアゴ市立劇場
サンチアゴ市立劇場


ヴェルディ『オテロ』
© Juan Millán T.
Teatro Municipal de Santiago



バレエ『CUERPOS PINTADOS Y LOS PÁJAROS DE NERUDA』
© Teatro Municipal de Santiago
Presenter Interview
2006.11.24
One of South America's oldest and most active theaters, the Municipal Theater of Santiago, approaches its 150th anniversary 
南米有数の由緒ある劇場 創立150周年のサンチアゴ市立劇場 
19世紀末に豊富な天然資源で経済的に潤い、2つの大戦を逃れ数多くの芸術家が亡命した南米大陸には、ブエノスアイレスのテアトル・コロンのような豪奢なオペラハウスや劇場がいくつも存在する。チリの首都サンチアゴに建つ由緒あるサンチアゴ市立劇場は、2007年に創立150周年を迎える。このほど来日した、同芸術監督アンドレス・ロドリゲス氏が語る、この南半球にある劇場で繰り広げられる舞台芸術の実像とは?
(聞き手:渡辺和・音楽評論家)


市立劇場の基本活動

──簡単にサンチアゴ市立劇場の歴史と現状を教えてください。

サンチアゴ市立劇場は南米でも最も歴史のある劇場のひとつです。1853年に建設が始まり、1857年9月17日にオープンしました。来年が創設150周年の大きな記念年となります。ウルグアイのモンテヴィデオのテアトル・ソリスは1年古く、今年150周年を祝っているところですが。私たちの劇場はオペラやコンサートの公演をフルシーズンで行い、合唱団、バレエ団、オーケストラ、技術スタッフを常設で擁し、各種作業場もあり、出し物は全て自前で制作できます。建物は仏伊バロック式の劇場建築に則って建てられ、客席1500のとても美しいオペラハウスです。内装は暖かい赤と金色。古いオペラハウスなのでアップデートするには限界はありますが、できるだけ新しい技術を取り入れるようにしています。

──市立劇場は基本的にはオペラ劇場と考えてよいのでしょうか。
オペラは最も人気があり、聴衆も多く、劇場で最も求められている活動と言えるでしょう。ですが、市立劇場はオペラシーズンの他、バレエとオーケストラのシーズンもあります。全てのシーズンの需要をまかなうオーケストラも有しています。

──舞台裏関係者を含め、劇場スタッフは何名ほどなのでしょうか。
総勢約400名が働いています。うち合唱団60名、オーケストラ82名、バレエ団員は55名です。バレエ学校があり、そのスタッフを入れれば65名です。オペラシーズンはありますが、自前のオペラ団はありません。オーケストラと合唱団を有し、シーズン毎にオペラを企画し、チリや外国の独唱者と契約する形を採ります。専属歌手もおりません。シーズン前に公開オーディションをします。あくまでも歌手としての資質によって決定され、年齢や国籍は問いません。

──ロドリゲスさんが選考の責任者ですか。
はい。数人のスタッフとチームで動いています。理事会が毎シーズンの予算の最終決定をします。来シーズンは記念年で例外ですが、基本的に毎年大きな変化はありません。

──理事会メンバーはどんな方なのですか。
大企業経営者や文化人など、影響力を持つ人たちです。音楽についてある程度の理解はあります。スタッフと同じほどの見識がある方もおりますよ。理事の仕事で大事なのは、全体のバランスを取ること。市長が理事長です。

──あなたをディレクターとして採用したのは市長ですか。
そうです。私の職業は弁護士です。以前イタリアで音楽を学んでいたときに、当時のサンチアゴ市長から、チリに戻り音楽のために働くよう説かれました。私は、まず予算を増やし、オーケストラとバレエ団を改革したいと申し出ました。最初に取り組んだのが、当時チリにはなかったプロの合唱団の設立でした。30人でスタートし、40人に増え、今では60名を擁しております。

──劇場での言語は。
オペラは全て原語上演です。「イェヌーファ」(レオシュ・ヤナーチェク Leos Janacek作、1904年初演の3幕オペラ)もチェコ語で上演しました。ドイツ語、英語など、すべてオリジナル言語を使用します。その際、私たちはスペイン語の字幕を付けて上演するようにしています。ヒューストンで1984年に初めて字幕を付けているのを見て、直ぐにサンチアゴにもシステムを導入しました。もう20年になります。大スキャンダルになりましたよ。オペラ聴衆は内容を理解しているのになぜ必要なのだ、って。あらゆる人がオペラに親しめるようになるために必要だと私は思ったのです。今では劇場に字幕がないなど信じられないでしょう。

──日本の国立オペラハウスである新国立劇場は自前のオーケストラを持っていません。オペラハウスは自前のオーケストラがないと良いオペラを制作できないのではないかという意見をどうお考えになりますか。
私は自分のオペラ劇場にオーケストラがないことを想像することすらできません。オーケストラだけでなく、バレエ団も合唱団も同様に、それらなしにシーズン維持は不可能です。とはいえ日本の新国立劇場の考え方も理解できます。東京には沢山のオーケストラがありますからね。
私たちの楽団は創設51年になりますが、実はそれ以前、特に19世紀から20世紀初頭にかけては劇場は外国のオーケストラやオペラ団を受け入れたり、チリ大学交響楽団の定期演奏会が行われているだけでした。今では私たちには、独自のオーケストラ、バレエ団、合唱団が不可欠になっています。すべてが自主制作です。
もちろんそれには経費もかかりますし、問題がないわけではありません。オーケストラとは常に協議しながら、調整し続けています。今シーズンの「オテロ」公演のとき、オーケストラはストライキを打ちました。観客の目の前で。理事会は事態を即座に収拾しようとしました。聴衆やスポンサーに迷惑をかけるわけにはいきません。理事会は新ルールで仕事を再開する必要があると提唱し、オーケストラの半数のメンバーはその新たな規約を受け入れてくれました。今、来シーズンに向けて新たにメンバーのオーディションをしているところです。

チリの舞台芸術状況

──チリでの劇場の状況を説明してください。
劇団も劇場も沢山あります。少なくとも15から20の劇団があります。チリ大学やカトリック大学にも劇団があり、シェイクスピアやモリエールなどの古典と現代劇とを組み合わせて上演したりしています。最近は、現代劇の愛好家の方が多いと思います。客層は幅広く、それぞれの劇場に多くの観客がついています。
イキケなど北部にも古い劇場があります。チリが硝石を産出し、ドイツ人が代用となる化学製品を発明する第1次大戦頃まで、北部は極めて栄えていたのです。バルパライソにも大きな劇場がありましたが、1906年の大地震で倒壊しました。今はバルパライソの隣の都市のビニャ・デル・マールにすばらしい劇場がありますし、南部のテムコ、中部の都市タルカ、チリ・パタゴニアのプンタ・アレーナスなどにも新しい劇場があります。
しかし、こうした劇場には作業場も専属オーケストラもバレエ団も合唱団もありません。チリのいくつもの劇場の中で、大きなカンパニーをもって活動しているのは、実は私たちだけなのです。ですから私たちは頻繁に国内ツアーを行ない、地方劇場を教育し、スタッフが育つように働きかけています。

──国内ツアーを行っているのはオペラ公演ですか。
オペラは費用が高額になるため、テムコ、ビニャ・デル・マール、プエルトモント、タルカで上演したことがある他は、ほとんどはテープ録音によるバレエ公演や、室内楽公演です。最近の公演では、例えば、ボディ・ペインティングを衣裳に見立てた新作バレエを、バルパライソやプンタ・アレーナスで上演し、イタリアのヴェニスでも公演ました。今年はバレエ団は2回北部ツアーを行い、ブエノスアイレスにも行きました。合唱団は来年11月に南部ツアーを実施する予定です。

──ある意味、国立劇場みたいなものですね。
ええ。国立の適当な団体はありませんから、クラシックに関してはバレエ、オペラ、オーケストラにかかわらず、どの劇場もうちに公演を依頼してきます。私たちは国内ツアーを実現するために、新たにスポンサーを探さなければなりません。チリは南北4000キロあり航空運賃がとても高くつきます。それでも私たちはツアーをできるだけたくさん行うようにしていて、オーケストラは北から南まで訪れています。

──チリ政府には国立劇場や国立オペラ団の構想はないのでしょうか。
国は文化に強い興味を持っていますが、国立劇場はありません。文化省はやっと2年前に教育省の一部門から独立したばかりです。すべてはこれからだと思います。彼らは私たちの活動に対し、非常に協力的です。
 
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