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Presenter Interview
As the Institute of Contemporary Arts (ICA) celebrates its 60th anniversary, what is the vision of its new artistic director?
インスティテュート・オブ・コンテンポラリー・アーツ(ICA)が60周年 新芸術監督のヴィジョンとは?
カミロボ Expo 2006 in ICA
カミロボ Expo 2006 in ICA
2006月4月8日〜22日
www.kami-robo.com
──他の部門ではどのような活動をしていますか?
 映画は、特に今、非常に重点を置いています。ICAはこれまでも、例えば日本映画では、『アキラ』(大友克洋監督/1988年/日本)や鈴木清順監督の作品、日本版『リング』のハリウッドリメイク版『ザ・リング』(ゴア・ヴァービンスキー監督/2002年/アメリカ)にいたるまで、いろいろな作品を紹介してきました。ICAは、イギリスで、施設を持つ公的芸術団体として唯一、映画の買い付けとイギリス国内での配給権の獲得をしている機関です。ナチス・ドイツに果敢に立ち向かう女子大生を描いた『白バラの祈り〜ゾフィ・ショル、最期の日々』(マルク・ローテムント監督/2005年/ドイツ)をイギリスで初めて上映したのも私たちでしたし、私も昨年はカンヌにも出向きました。専門知識のあるスタッフが、常にさまざまな作品を見に飛び回っています。
 映画への人々の志向は常に変わるもので、日本映画、ウォン・カーウァイの映画、イランの作品といろいろ上映しましたが、今は、ドキュメンタリー映画、あるいはドキュメンタリーの手法に沿った映画が非常に注目され、また可能性を秘めていると思います。特にマイケル・ムーア監督の『華氏911』(2004年/アメリカ)あたりからその傾向が強いようです。今後は、アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門のノミネート作品『イラク・イン・フラグメンツ(ばらばらになったイラク)』(ジェームズ・ロングレイ監督/2006年/アメリカ)や、同じくドキュメンタリーで、サンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジから身を投げる人たちについての映画『ザ・ブリッジ』(エリック・スティール監督/2006年/アメリカ)などの上映を予定しています。重要な問題ですから、イラクに関するドキュメンタリーは他にもいくつか上映する予定です。
 美術でも同じく、いかに新しい、大きな才能を発掘するかに重点を置いています。毎年、目玉となる行事は「Beck's Futures」という、7年前に始まった美術賞で、イギリスではターナー賞に次ぐ大きな賞といわれ、大体35歳位までのアーティストを対象としています。著名なアーティストが審査にあたり、大々的に宣伝され、マスコミの注目も集めています。そこで入選したアーティスト13人を、イギリスで最も期待される才能として展示をします。
 それ以外の期間は、同じように刺激的なアーティストによるグループ展、個展などを開催しています。最近では、「エイリアン・ネーション」という、「民族、アイデンティティ、SF」に焦点をあてたよい展覧会がありました。また1月に始まるのは、今回が3部作の最後にあたる、ドイツのティノ・シガールというアーティストによる企画展です。基本的に、「反物質のアーティスト」で、この人は「何も作らない」のです。グッズとして後で売れるようなものは作りません。人との関わりを扱う、いわゆるコンセプチュアル・アートに近いかもしれません。
 例えば、今回の展示では、入場者が入ると、その部屋では、学校の教室から移動してきた30人の子供たちが1日中遊んでいます。会場には子供たちしかいません。観客は、その子たちと話すかもしれないし、無視されるかもしれない。どういう相互作用が起こるかはわからず、どういう展覧会になるかは、観客と子供たちの反応にかかっていますが、6週間続きます。過去2回の作品も、その対象が、子供でなく大人だったりしましたが、いずれも、人と接したときの予測できない瞬間、を経験してもらうのが意図でした。ふだんの生活で、意外に人はお互いに話もしないし、関わりも持っていない。そして接しても、楽しかったり、不快だったり、と、その反応も予測できない。今、イギリスでは、いたいけな子供たちが悪い影響下にいつもおかれている、という恐怖や被害妄想に陥っていますが、今回の展覧会では、子供たちも自身も、時には危なく、暴力的にもなりうる、と思えるかもしれません。
 過去の反応は、賛否両論でした。しかし、シガールは、海外の批評家、キュレーターを含めた2部門、それぞれの推すアーティストの2位に選ばれています。今回もやってみなければわかりません。バカバカしいと思う人もあれば、夢中になる人もいるでしょう。しかし、このような展覧会が典型的なICAの事業です。決してみんなに好かれるものをやる場ではないのです。

──レジデンシーのアーティストはいますか?
 それぞれの分野でレジデントのアーティストを置くことがあります。例えば、最近では、作家のゼイディ・スミスがいました。今は特にいませんが、大事なのは、ICAだけでなくどの芸術団体もそうでしょうが、アーティストとは長期的な付き合いをしている、ということです。お互いに考え、よく話し合って、企画を実現させるのには本当に年月がかかる、ということを理解しなければいけません。

──パフォーミングアーツではどのような企画がありますか?
 他のジャンルと同様、革新的な作品に重きをおいています。今後計画しているもので、いくつかご紹介しましょう。まずは、ドイツのアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンという実験的ロックバンドの公演です。これはすでにICAに20年前にやったのですが、プレイ中に、ミュージシャンがドリルで舞台に穴を開ける、という過激な公演で、「破壊的だ」と論争を呼びました。現在、またパフォーマンス作品として練り直し中です。再演するのは、その時点で「過激な行為」だったものが、年月を経ると、「歴史的な芸術の一大イベント」になりうるのか、に私も興味があるからです。
 あと一つ、演劇で、非常に楽しみにしているのは、イラクに関する、同じように実験的な作品です。スコアをニティン・ソウニー、デザインをルーシー・オルタが担当し、作家はジョナサン・ホルムスです。舞台はなく、観客は装置の合間を歩き、俳優がそのまわりにいるという設定なのですが、台詞はすべて1人称です。兵士も一般人も含め、米軍によるファルージャ包囲攻撃の際にそこにいた人々がそのときの状況を1人称で語るのです。当時ファルージャにはジャーナリストも行けないような状況でした。ホルムスは、その後まもなく、危険を冒してファルージャに出向いた最初の作家で、そのときに取材した人たちの証言やコメントに基づく演劇作品となっています。
 これもICAの大切にすることですが、私たちの上演作品が、何かの討論のきっかけになるということですね。私は楽観的に考えるので、例えば、この作品は演劇でもあり、パフォーマンスから音楽、政治問題までが一体になっていますが、それを経験する人が、自分のとりまく世界を考える機会になればと思っています。

──イギリス、とりわけロンドンには数多くの美術館やギャラリー、劇場など芸術団体がたくさんあります。現代アートを扱うところも少なくありません。その中で、芸術監督として、ICAをどう差別化し、特徴を出そうとしているのですか。
 その答えは、「差し迫った問題」に焦点をあてていることです。確かに、ロンドンには無数のギャラリーや美術館があり、見せることを主体にそれぞれよくやっています。他方、ICAは、その物理的条件からも幅広く、芸術、文化、思想それぞれの関連性について討論しています。つまり、ICAは何でもできるということです。でも私にとって最も重要なのは、早急な課題に向き合うということで、だから、いくつかの機会を捉えて、イラクをとりあげました。誰にも関わる重大な問題だからです。
 最近の映画の動向は別にして、美術にしても、演劇にしても、アートはなぜかイラク問題について充分とりあげていないと感じていました。でも、ひとたび、ギャラリーの外に出れば、人は、今の政治や社会について、普通に話題にしているわけでしょう。そのことに私は注目し、この問題について芸術的に掘り下げることもできるのでは、と思ったのです。
 芸術的な観点でいうと、いくらでも展覧会ができる中で、あえて今、このアーティストを選ぶという際に、基準になるのは、その作品がイギリスだけでなく、世界的にみても、革新的、刺激的であるということです。私たちの決断した企画それぞれが、やがてICAの歴史の一部となり、その文脈で評価されることを認識しなければなりませんし、どこの芸術機関もそう考えているでしょう。
 また、私は、そのアーティストの芸術的な位置づけだけでなく、より広い文化の中での存在感や、政治的な意味なども考慮します。例えば先に紹介した、「何もつくらない」ティノ・シガールも、難しい反面、非常に興味深いアーティストであり、ベニス・ビエンナーレのドイツ代表になるなど、重要視されている人です。ICAでやる作品は、活動のごく一部ですが、今いる位置を占めている理由の一つに、彼が、アート界が金銭に踊らされ、作品が投資の対象や商品化されている現状に挑戦している、という姿勢であり、売り買いの出来ない作品を作っているということもあると思います。
 
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